最終更新日:2023.11.02

機能性ディスペプシアとは?みぞおちの痛みが起こる原因を解説

機能性ディスペプシアとは?みぞおちの痛みが起こる原因を解説

胃痛で胃薬が手放せなくなったり、いつも「みぞおち」が焼け付くような不快感があったり、現代では長引く胃の不調でお悩みの方が増えています。コロナ禍を経て将来が不安になり、ストレスも重なって、胃の調子が悪いという経験をされている方は多いのではないでしょうか。一方で、胃の不調・不快感はあっても、医療機関で検査を受けた際に「異常なし」といわれてしまうことがあります。

日本では2013年以降、胃の病気や異常がないにも関わらず胃に不具合を起こしている状態を「機能性ディスペプシア」という病気としてとらえるようになりました。

本記事では、機能性ディスペプシアの診察をしている医師に監修していただき、胃に異常がないのに胃痛症状がある原因を解説しています。

機能性ディスペプシア(FD)とは

胃もたれや胃痛などの症状が気になり、医療機関で検査をしてみたものの「特に異常はみられません」と診断を受けて不思議に思った経験がある人もいると思います。

このような病態に対して、名付けられたのが機能性ディスペプシア(Functional Dyspepsia : FD)です。

医学的には、医療機関で行われる一般的な検査で、見た目では明らかな異常がないのに、慢性的(病態が長引く)または反復性(病態を繰り返す)に一定の頻度でつらいと感じる症状が続いている状態です。

機能性ディスペプシア(FD)は、2013年に正式な診断名として認可された、いわば新しい病気です。

ほんの数年前まで、このような症状を訴える患者さんに対して「気のせいではないか」「もう少し様子をみましょう」と伝える医師も少なくありませんでした。

異常はないと言われても症状が確かにあるため、患者さんはイライラしたり、症状の繰り返しに動揺したり、ほかの病気なのではないかと不安になった方も多いようです。また、この辛さが人にわかってもらえず、悩んで辛い思いをした方もいらっしゃいます。

機能性ディスペプシアの定義

「慢性的または反復性に一定の頻度で起こる」というのは、具体的な目安として6ヶ月以上前から症状が現れはじめ、3ヶ月前ごろからは週に1回〜数回以上、不快な症状がみられる状態をいいます。

機能性ディスペプシアの定義はあくまでも、この疾患の原因を調べ、患者さんに合う最適な治療法を見つけるための臨床研究を行う場合の基準に過ぎません。

日々の診療の中では、1ヶ月程度以上、症状が続く場合には機能性ディスペプシアとみなして診断が行われています。

機能性ディスペプシアは何科を受診する?

消化器官の病態を診断できる消化器内科の専門医をはじめ、さまざまなストレスとの関係が深い病態(心身症:機能性消化管障害)を専門的に扱う「心療内科」の受診が適しています。

機能性ディスペプシアの原因は後ほど詳しく解説しますが、主に

  • 遺伝要因
  • 生理学的要因(消化管運動機能の障害や内臓知覚、炎症などの病気、ピロリ菌感染
  • 心理社会的要因(日常のストレス、精神心理状態)

上記のような、さまざまな要因が考えられています。

これらの要素が互いに、そして複雑に影響しあって発症するといわれています。

比較的、歴史の浅い機能性ディスペプシアは、消化器内科以外の医師の間では広く知れ渡っていないことも多かったため、慢性胃炎などと診断されてしまった患者さんは現在でも少なからずいらっしゃると思います。

ご自身の症状と照らし合わせて機能性ディスペプシアが疑われ、現在治療を受けていない方、もしくは今の治療で改善が見られない方は、消化器内科・心療内科の専門医の受診を推奨します。

機能性ディスペプシア(FD)の主な症状

一般的な胃の検査において、見た目では明らかな異常がなく

  • 食後愁訴(しゅうそ)症候群
  • 心窩(しんか)部痛症候群

とよばれる、つらい症状が認められます。

食後愁訴症候群は、

  • 食後の胃もたれや胃痛
  • 食事途中で、すぐにお腹がいっぱいになる(早期飽満感)

心窩部痛症候群は、

  • みぞおち辺りの痛み
  • みぞおち辺りの焼けるような感じ(心窩灼熱感)

機能性ディスペプシアの主症状としては、これらの症状があげられます。

機能性ディスペプシアの受診の目安

日々の診療の中では、胃の不快症状が1ヶ月程度以上にわたって続く場合には機能性ディスペプシアとみなして診断が行われています。日常生活に支障をきたす前に、早めに受診しましょう。

また、下記で紹介するセルフチェック表を試してみて点数が高かった場合は、なるべく早めにかかりつけ医か専門医を受診してください。

機能性ディスペプシア症状のセルフチェック

機能性ディスペプシアは特定の症状が現れることで診断されますが、その原因はさまざまなので自分にあった治療法を見つけるまでに時間がかかるケースもあります。

「なかなかよくならない」とドクターショッピング(精神的・身体的な問題に対して、医療機関を転々と、あるいは同時に受診すること)をしてしまう患者さんも少なくありません。

もし、胃の不快症状が気になる方は、一度セルフチェックをしてみましょう。

診断の目安となる改定Fスケール

改定Fスケール(Modified Frequency Scale for the Symptoms of GERD) とは、ディスペプシア症状の種類や程度などを評価する質問票の1つで、医療機関での問診でも使用されるものです。

胃食道逆流症(GERD)症状7つと、ディスペプシア症状7つに該当する質問に回答し、その頻度を点数化することで、機能性ディスペプシアの診断の参考になります。

あなたは以下にあげる症状がありますか? もし該当する項目がありましたら、その程度に合わせたチェック欄を押してお答えください。

質問 チェック欄
ない まれに 時々 しばしば いつも
1.胸やけを感じますか?
2.食後、胸やけに重苦しさを感じますか?
3.無意識に手のひらで胸をこすってしまうことがありますか?
4.苦い水・酸っぱいもの(胃酸)が上がることがありますか?
5.のどの違和感(ヒリヒリなど)がありますか?
6.ものを飲み込むと、つかえることがありますか?
7.前かがみをすると胸やけがしますか?
8.お腹のはり、苦しさはありますか?
9.食後、胃に重苦しさを感じますか?
10.食後、気持ちが悪くなることがありますか?
11.食事の途中で満腹になってしまいますか?
12.ゲップがよくでますか?
13.食後、みぞおちに痛みを感じますか?
14.空腹時にみぞおちが痛みますか?

GERD(1~7の合計) =

ディスペプシア症状(8~14の合計) =

総合計点数 =

引用文献
Kusano M. et al.: J Gastroenterol. Hepatol., 27(7), 1187-1191(2012)
※ 上記文献の内容をもとに、表現を一部改変しています。

総合計点数が【8点以上】なら、何らかの病気の可能性が考えられます。一度、受診しましょう。ディスペプシア症状の点数が高い場合は、機能性ディスペプシアと診断される可能性が高いです。

機能性ディスペプシア(FD)の原因

機能性ディスペプシアを発症される原因、悪化の引き金になる要素としては、

  • 胃の働きが悪くなっている
  • 胃の知覚過敏が影響している

上記2つが原因となっていることが多く、さらに神経質などの性格やストレスも影響すると考えられています。

機能性ディスペプシア(FD)の検査診断

まずはじめに機能性ディスペプシアであるということを確定診断させるための検査を行います。

診療の際には、本記事でも紹介した『改定Fスケール』などの質問票をはじめ、

  • どのような症状が現れてるか
  • 症状の程度や経過
  • 食事との関係はあるか(食事中、食後など)
  • 体重減少はみられるか

    などを問診していきます。

    続いて、主な検査の方法としては

    など、胃内部の検査を行うほか、場合によっては必要に応じて

    • 血液検査
    • 超音波検査
    • 腹部CT検査

    などを行います。

    これらの検査の目的は、胃に何らかの病気が隠れていないかを確かめるために行います。

    機能性ディスペプシアの症状は、胃がんや胃潰瘍などの病気によって起こる症状と似ているため、ピロリ菌に感染してはいないことも含めて確認する必要があります。(胃の疾患にはピロリ菌感染が関与している可能性が高いです)

    以上のような検査項目を実施して、とくに異常な点が見つからなかった場合、機能性ディスペプシアという診断のもとで、患者さんにあった治療を行っていきます。

    機能性ディスペプシア(FD)の治療

    機能性ディスペプシアの治療は、主に薬物療法が選択されます。

    一般的には、

    • 胃酸の分泌を抑制する酸分泌抑制薬
    • 胃の働きをよくする消化管運動改善薬

    これらの内服薬を使用します。

    これらの薬剤を服用しても改善がみられない方は、精神面からのストレス過多を疑い、胃の症状を和らげるためのお薬が検討されます。

    • 抗不安薬
    • 抗うつ薬
    • 漢方薬

    など、症状を軽減する効果があるといわれている薬が試されますが、現状、日本では明確な裏付けはとれておりません。

    そのためあくまでも治療方法の優先順位としては、まずは酸分泌抑制薬や消化管運動改善薬を試し、その経過をみて次に抗不安薬や抗うつ薬、漢方などを検討していくながれとなります。

    お薬の適性やその効果は患者さんによって異なり、誰でもが1つの薬剤で治るとは限りません。その患者さんのお身体や症状に合った内服薬が選択されます。

    ピロリ菌感染が見つかった方は、ピロリ菌の除菌治療を行います。

    そのほか、機能性ディスペプシアの治療、再発予防の手立てとして「生活習慣の改善」がとても重要です。

     

    生活習慣の改善

     

    機能性ディスペプシアの治療薬-アコチアミド(アコファイド®)

    機能性ディスペプシアへの適応をもつと薬剤として、アコチアミド(アコファイド®)というお薬が世界で初めて日本で開発、そして販売されました。(2013年)

    この薬剤を服用することで、胃の運動機能を改善したり、胃の内容物の排出を促進させたりすることができます。とくに食後の胃もたれや早期飽満感・食後膨満感、胃の張りを感じる方に、効果が期待できます。

    一方で、お薬には副作用もあるため注意が必要です。

    • 過去に薬や食べ物で、アレルギー症状(かゆみ、発疹など)が出た方
    • 妊娠または授乳中の女性
    • 他に別の治療等で薬などを使っている

    以上の方は、必ず医師に相談したうえで治療を進めなければいけません。

    お薬にはお互いに作用を強めたり、逆に弱めたりすることがあります。他に使用中の一般用医薬品や食品も含めて、注意してください。

    機能性ディスペプシア(FD)の予防

    機能性ディスペプシアの予防、再発を防ぐためには、生活習慣の改善が必要不可欠です。

    機能性ディスペプシアの治療では主に薬物療法が行われますが、それと並行して生活習慣の見直しも図ります。

    ポイントとなるのは、

    • 規則正しい生活
    • 食習慣の改善

    です。

    規則正しい生活を送るために、

    • 疲れたら無理をせず休息をとる
    • 十分な睡眠を確保する
    • できるだけ決まった時間に食事する
    • 適度な運動を日常生活にプラスする

    以上を心がけましょう。

    食習慣の改善としては、

    • 栄養バランスのとれた食事
    • 食べ過ぎない(腹八分目)
    • よく噛んで、ゆっくり食事をとる
    • 就寝前にお腹いっぱい食べない

    などを心がけると効果的です。

    そのほか、体に負担をかけるリスク要因となる

    • 喫煙
    • お酒の飲み過ぎ
    • ストレスや疲れを溜め込む

      これらの行為はできる限り避けるようにしましょう。

      ただし、過度な節制は心身共に負担を招くこともありますので、無理のない範囲ではじめ、徐々に習慣化させていくことが大切です。

       

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      こちらの記事の監修医師

      佐竹 学

      からだとこころのクリニックラポール佐竹 学 先生

      宮城県仙台市の心療内科、からだとこころのクリニックラポールでは、身体疾患にも精神疾患にも対応しています。そのため、症状や原因別にそれぞれ違う病院に通って頂く必要はありません。

      場合によっては、專門治療を行っている大学病院などにご紹介させて頂くこともございますが、まずは当クリニックにお越し頂ければ、適切な検査と診断を行い、患者さまにとって最も良いと思われる治療方針をご提案させて頂きます。

      身体の症状にせよ、心の問題にせよ、患者さまがお持ちのお悩みは全て真正面から受け止めるようにしています。
      職場や家庭についての不満、転職や転勤など環境変化による不安など、何でもお気軽にお話しください。

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