ピロリ菌感染症とは?原因と感染経路、ピロリ菌検査と除菌治療を解説
私たちの胃は強い酸性である胃液があるため、その中で生きていける細菌はほとんど存在しません。
ところが唯一、ヘリコバクター・ピロリという細菌(ピロリ菌)が胃壁の中に侵入して生きのびることがわかっています。そしてこのピロリ菌は、胃がんの原因のひとつとして注目されています。
本誌記事では消化器内科の医師に監修していただき、ピロリ菌感染症の原因と除菌治療を解説しています。
目次
ピロリ菌とは?
外界とつながる消化管には、さまざまなな細菌が入り込みますが、私たちの胃のなかは胃酸によって強い酸性となっており、通常は細菌が棲息できるような環境にありません。
ところが唯一、胃壁に棲息できる細菌の存在が確認されています。それが、ヘリコバクター・ピロリ菌です。
ピロリ菌は尿素分解酵素のウレアーゼという物質を産生する特殊な性質をもちます。このウレアーゼで胃のなかの尿素を分割してアンモニアをつくり、胃酸を中和させます。それによって自分にあった快適な環境をつくり、胃壁の粘膜細胞表面に定着して棲みつくことができます。この胃粘液の下を居場所として、一度の感染で一生胃の中に棲みつきます。
日本では比較的感染率が高く、日本人の60歳以上の6〜7割の方が感染していると考えられています。高齢層で感染率が高い一方で、若年層では感染率は傾向があります。
このピロリ菌が問題視されているのは、胃酸を中和させるときに生じるアンモニアが胃粘膜を侵食し、損傷させてしまうという点です。
ピロリ菌がいると、普通は炎症などを引き起こさせるほどではないような軽いストレス、暴飲暴食などでも胃がただれたり、出血したり、潰瘍をつくったりすることがあります。胃・十二指腸の病気発症の多くに、このピロリ菌が関係していると考えられています。
ピロリ菌によって発症リスクが高まる病気
急性胃炎や急性潰瘍をともなう急性胃粘膜病変(Acute Gastric Mucosal Lesion:AGML)、胃・十二指腸潰瘍では、ほぼ100%に近い確率でピロリ菌感染が認められています。
また日本人にみられる胃がんは、胃粘膜の萎縮と、小腸の粘膜と似た構造になること(腸上皮化生)をともなっていることが多いです。 長い間に慢性胃炎の状態から何段階かの病変を経て、胃がんの発生に関与するのではないかといわれています。
実際、ピロリ菌に感染している人と感染していない人を比べると、感染者は胃がんになる可能性が5倍になるという研究結果もあります。
そのほか、ピロリ菌によって発症リスクが高まる病気は下記の通りです。
- 胃悪性リンパ腫
- メネトリエ病
- 異巨大すう壁症
- 反応性リンパ組織増殖症
- MALTリンパ腫
ピロリ菌感染によって胃がんになる確率
ピロリ菌に感染しているからといって、誰もが胃がんになるわけではありません。幼少期に感染したとして、発症するのは高齢になってからのことで、しかもその数はごくわずかです。
ピロリ菌感染者のなかで胃がんになる人は、1%にも満たないといわれています。
ピロリ菌感染の原因と感染経路
ピロリ菌は口から口への経口感染が主な感染経路といわれています。そのため、幼少期に家庭内で感染することが多く、現在60代以降の感染者が多いのは、当時の日本の衛生環境が十分に整っていなかったためと考えられます。
現代の日本では衛生環境が整っているためその心配はほとんどありません。
ピロリ菌は大人から子どもにうつる?
現代の子どもをはじめ若年層の方が、直接ピロリ菌に感染する可能性は極めて低いと前述しましたが、注意したいのは、ピロリ菌に感染している大人から、子どもへの感染です。
たとえば、親御さんが小さいお子さんへ食べ物の口移しなどすることで、感染する可能性があります。親が感染していると0~5歳の頃の乳幼児に感染する可能性は高くなっており、お子さんが大人になってから、胃の疾患を発症するというケースが考えられます。
ピロリ菌感染による症状
ピロリ菌によって何か特定の症状が起こるわけではなく、ピロリ菌が胃壁内に生息することで胃炎が起こりやすくなり、それによって痛みや不快な症状があらわれす。
しかし、ピロリ菌に感染していても、ほとんどの方は自覚症状を感じません。
胃炎が進行し、胃の病気になってからはじめて
- 胃もたれ・胃の不快感
- 空腹時の胃痛
- 胸やけ
- 吐き気
- 食後の腹痛
- 食欲不振
など、痛みや不快な症状を感じるようになります。
また、胃(胸)の症状だけではなく、
- のどに違和感を覚える
- のどが詰まる感じ
- のどがイガイガする
- 声が枯れる
など、胃や食道以外の症状が現れる場合もあります。
ピロリ菌の検査
ピロリ菌は画像検査などでは判断できません。細菌検査が重要となります。
ピロリ菌の有無を調べる検査は、全部で6種類です。
その検査方法は、
- 内視鏡を使わない検査法
- 内視鏡を使った検査法
の2つにわけられます。
胃に何らかの不調を感じ、ピロリ菌の関与が疑われるときは、感染の有無を調べ、もし陽性だった場合(ピロリ菌感染が認められた場合)は、ピロリ菌の除菌治療をしてください。
内視鏡を使わないピロリ菌検査
尿素呼吸試験
特殊な尿素を飲み込み、呼気成分を分析します。ピロリ菌が尿素を分解するときに生じる二酸化炭素の量を確認します。患者さんへの負担は少なく、精度は比較的高いです。
血中抗体測定
ピロリ菌感染時に生じる抗体の存在を、血液や尿で調べます。専用のキットを用いて判定できます。
便中Hpylori抗原測定
便を溶かした溶液をキットに滴下して、ピロリ菌の死骸の一部(抗原)が便中に排泄されているかどうかを専用のキットで判定します。
内視鏡を使ったピロリ菌検査
迅速ウレアーゼ試験
内視鏡検査で胃壁組織を採取し、培地で短時間培養します。陽性(ピロリ菌がいる)であれば、試薬が黄色から赤色に変わります。
鏡検法
内視鏡で採取した胃粘膜を、HE染色かギムザ染色で染めて顕微鏡で観察します。ピロリ菌の存在を直接確かめます。
培養法
内視鏡で採取した胃粘膜の一部から、ピロリ菌を分離し、培地で培養します。時間はかかりますが菌株も確認でき、薬剤感受性検査にも役立ちます。
ピロリ菌の除菌治療
ピロリ菌検査で陽性になった場合は、早期に除菌治療をはじめます。ピロリ菌は、抗菌薬を服用することで除菌できます。
胃酸の分泌を抑制するお薬と、2種類の抗生物質、計3種類の治療薬で除菌治療を行います。
この3つのお薬を一週間かけて服用することで、約80%の方は除菌に成功します。(治療後、再検査で再び陽性となった場合は、再度治療が必要です。)
治療効果の判定には、一定期間をあけたあとに尿素呼気試験や便中抗原測定をおこないます。
ピロリ菌を除菌することで、ピロリ菌陽性による胃炎、十二指腸潰瘍や胃潰瘍に有効であり、再発も防ぐことができます。
ピロリ菌の除菌後の定期検診
除菌治療を受けて除菌に成功しても、胃がん等の発生リスクがまったくなくなるというわけではありません。
胃がんや胃潰瘍などの診断を受けた方は、治療後も定期検査による経過観察は怠らないようにしてください。
こちらの記事の監修医師
LCクリニック仙台佐藤 俊裕 先生
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