股関節が痛い原因は?脚のつけ根(右左の片方だけ)の痛み、女性に多い理由と治し方を解説
股関節は左右の脚の付け根にある大きな関節です。股関節は立ったり座ったり歩いたりするたびに働くため、日常的に負荷がかかっています。そのため、股関節に痛みが出ると思うように動けなくなり、日常生活に支障をきたしてしまいます。とくに股関節の痛みは40代以降の女性に多いとされています。
また、加齢とともに運動器の機能が低下するロコモティブシンドローム(通称:ロコモ)は、いずれ要介護や寝たきりになってしまうリスクが非常に高い状態です。
本記事では整形外科の医師に監修していただき、股関節に起こる急な痛み、右だけ左だけ痛む原因や治し方を解説しています。
目次
脚(太もも)のつけ根の急な痛み – 股関節の症状
「股関節(太ももの付け根)が急に痛くなってきたけれど、病院へ行くほどではないかな…ちょっと様子をみよう」
股関節に急な痛みを感じても、すぐに落ち着くだろうとそのままにしてしまう方は少なくありません。
股関節痛の背景には、股関節の病気が隠れている場合もあります。
痛みは体からのサインです。痛みの変化や、どんなときに痛みがでるのかを把握して、そのサインを見逃さないようにすることが大切です。
足の付け根の痛み – 女性に多い理由
股関節が痛くなる原因としてもっとも多いのが変形性股関節症という病気です。その主な発症原因が寛骨臼形成不全(かんこつきゅうけいせいふぜん)という骨盤の形態異常であることがわかっています。
そして、寛骨臼形成不全(股関節形成不全)を発症するのはほとんどが女性であり、結果としての変形性股関節症の時発症も女性が多くなっています。
股関節痛のセルフチェック
まずは日常生活のシーン別にチェックしましょう。
- 歩きはじめなどの動作開始時に痛くなる
- 痛みがあっても、しばらく歩いていると痛みが消える
- 長時間歩いたあとで脚やお尻が痛くなる
- 1日の終わりに、脚やお尻(腰)が重たくなる(だるくなる)
- 股間を動かしたときに引っかかり(こわばり)を感じる
- 靴下をはくときに股関節が痛くなる
- 股関節が痛くて、足の爪が切れない
- 階段の上り下り、坂道を歩くと痛くなる
- 凸凹道を歩くと、股関節に響く
- 股関節が痛くてヒールを履けない
- 寝返りをするたびに痛い
- 関節を動かすと、ゴリゴリと音がなる
このような状態は、なんらかの病態の初期段階にある場合があります。
股関節に関わる既往歴・家族歴をチェック
股関節にかかわる病気は家族歴や既往歴も影響するため、下記に当てはまる方は、股関節になんらかの疾患を発症するリスクが高いと考えられます。
- 家族・親せきに、股関節疾患をもった方がいる
- 赤ちゃんのときに、股関節が脱臼(または亜脱臼)していた
- 現在の年齢が50歳以上の方
- これまでスポーツ等が原因で股関節を痛めた経験がある
異変を感じたら、早めに受診することが大切です。
脚のつけ根・股関節に痛みを感じる原因
股関節痛の主な原因は「関節の炎症」です。
骨と骨をつなぐ接触部分には軟骨があり、クッションの役割をはたしていますが、この接触部分に問題が生じると、股関節の軟骨がすり減っていきます。
股関節痛はその炎症と骨の変形が起こることで起こります。
体重を支える要 – 股関節の役割
股関節は、左右の脚の付け根部分にある大きな関節で、お椀のような形をした骨盤外側(寛骨臼:かんこつきゅう)と長くて太いふとももの骨(大腿骨:だいたいこつ)の「つなぎ目」の部分をさします。
体の奥の方にある股関節は、筋肉や靭帯に囲まれているため、直接その存在を意識するのは難しいと思いますが、骨盤と同様に体重を支える重要な役割を担っています。
そして、体を支えたり歩いたりするときに使われる大腿骨によって体重を支えながら、脚を前後・左右に動かします。私たちが普段、立つ、座る、歩くといった日常動作で中心となって活躍している、とても大切な関節です。
股関節痛の受診の目安 – まずは整形外科へ
我慢できるほどの些細な痛みや違和感から次第に、我慢するのが辛くなったり、日常生活に支障をきたすようになります。
- 股関節の痛みが2週間以上続いている
- 痛みが徐々に強くなってきている
- 歩いていると急に脚に力が入らなくなる
- 突然、力が抜けてバランスを崩すことがある
- 安静にしていても痛みがある
- 脚をひきずるようにして歩く
- 脚が前に出にくいように感じる
なんらかの病態が進行している可能性もあるので、なるべく早めに受診してください。
とくに、
- 転倒などで股関節を強く打ち、強い痛みを感じる
- 股関節の痛みと同時に、発熱症状がある
- 安静にしてても痛みがひどくなり、立ち上がることができない
このような症状がみられる方は、すぐに病院を受診して、検査・診断を受けてください。
股関節の痛み・違和感は何科に相談する?
骨や関節、筋肉にトラブルが生じている可能性が高いため、まずは運動器の障害を専門とする整形外科を受診してください。
股関節痛の痛みを引き起こす病気
関節軟骨のすり減りを起こす代表的な病気が「変形性股関節症」です。
変形性股関節症は、長い時間をかけて徐々に軟骨がすり減っていくことで痛みが生じるようになり、症状が進行する病態です。骨の変形が進むに連れて、痛みも増します。
変形性股関節症は、
- 一次性変形性股関節症
- 二次性変形性股関節症
の2つに大別されます。
一次性変形性股関節症は、「原因がはっきりしない変形性股関節症」で、加齢などが原因で起こるケースが多いです。一方、二次性変形性股関節症は、「原因がはっきりした変形性股関節症」です。
たとえば、以下の別の病気がきっかけとなり、二次性変形性股関節症を発症します。
- 大腿骨寛骨臼インピンジメント症候群(FAI)
- 大腿骨頭壊死症
- 関節リウマチなどの炎症性疾患
日本では変形性股関節症の大部分を、この二次性変形性股関節症が占めています。
痛みを感じたら、日常生活に支障をきたす前に一度受診してレントゲン検査等を受けることをお勧めします。
女性・高齢者に多い変形性股関節症
股関節の軟骨がすり減り、骨が変形した状態になる病気です。痛みが発症する部位としてもっとも多いのは、太もものつけ根(鼠径部;そけいぶ)です。
変形性股関節症では、太もも前面の広い範囲に痛みを感じるほか
- お尻
- ひざ
- 腰
などにも痛みが出ることもあります。
性別でいえば変形性股関節症は女性の発症が圧倒的に多くなっています。なぜ女性が多いかというと生まれつき骨盤の被りが浅い臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん)がその要因として考えられます。なにかきっかけがあって突然痛みが出るのではなく、臼蓋形成不全などの症状が少しずつ進行して変形性股関節症を引き起こすケースが大半です。
変形性股関節症は遺伝的な要素や家族性も影響するため、ご家族に罹患者がいらっしゃる方は注意しましょう。
また変形性股関節症の発症リスクを高める大きな要因として、骨の老化があげられます。骨は加齢とともに骨密度が減少し、関節軟骨の弾力も失われます。徐々に弱く傷つきやすくなっていくのです。高齢者の方は注意が必要です。
そのほか
- お仕事で重量物作業をされている方
- アスリートレベルの激しい運動を行なっていた方
- 肥満によって股関節への負担が大きい方
も発症リスクが高いことがわかっています。
スポーツ愛好者に多い大腿寛骨臼インピンジメント
大腿骨寛骨臼インピンジメント症候群(FAI:Femoro-Acetabular impingement)と呼ばれる疾患は、スポーツや日常生活での慢性的な刺激が原因となって起こることが多い病気です。近年スポーツ愛好者の股関節痛の原因として多くなっています。
インピンジメントとは「挟みこみ・衝突」という意味があります。大腿骨や寛骨臼と呼ばれる部分に異常が生じ、軟部組織を挟み込んでしまうことで股関節の痛みを誘発します。
以前は原因がわからなかった変形性股関節症の中にも、この大腿骨寛骨臼インピンジメント症候群に関係している場合があることが明らかになってきました。
20~40歳代- 比較的若い人に多い大腿骨頭壊死症
大腿骨頭壊死症(だいたいこっとうえししょう)は、血流が悪くなり骨頭の細胞が死んで、変形や痛みを生じる病気です。
体のほかの組織と同じように、骨にも血液が循環しています。ところが、大腿骨頭は寛骨臼にしっかりとはまっている構造上、血管が少なく、血流障害を起こすとたちまち骨の壊死が起こってしまいます。壊死を起こした骨は、体の重さに耐えられなくなり、潰れるなど変形してしまいます。
骨が壊死するだけでは痛みが生じない場合が多く、変形してまた関節の可動が悪くなった頃に異変に気付く方が多いです。進行すると股関節痛のほか、正常な歩行ができない状態(脚をかばうように歩いたり、片足をひきずったりする)になります。
子どもに多い単純性股関節炎 – 男の子・女の子
子どもが発症する股関節の痛みでもっとも多いのが、単純性股関節炎です。発症の年齢はほとんどが平均5~7歳といわれており、比較的、男の子に多く発症する疾患です。(女の子でも発症します)
単純性股関節炎は、風邪や運動(スポーツ)によるケガが引き金となるケースが多いです。何らかの原因で股関節に炎症が生じ、関節液が過度にたまってしまうことで痛みを感じます。痛みを我慢していると、運動時に痛みを感じたり、歩くときも痛みが出るようになるため注意が必要です。
それほど珍しい病気ではなく予後も良好な疾患なので、お子さんが股関節に痛みを訴えて歩行が辛そうな状態であれば早めに整形外科を受診してください。
脚のつけ根・股関節が片方(右・左)だけ痛い
股関節(太もものつけ根)が右だけ痛い、左だけ痛いなど、片側に症状が出ている方は多いです。
その場合、片側の関節に炎症が起こっていることが考えられますが、炎症が起こっていなくても、片側の関節に過度な負担がかかっていると痛みを感じることが多いです。
片側だけ痛くなる1つの要因として考えられるのが「骨盤の傾き」と「脚の長さの違い」です。
骨盤が傾いている・ねじれている
- 姿勢が悪い(立っているとき、座っているとき)
- 座るときに脚を組むくせがある
- 横座りやあぐらをかくことが多い
など、普段何気なくやってしまう動作・行為が、骨盤のバランスを崩してしまう要因となります。
骨盤や関節が傾いたり、曲がったりした姿勢が続くと、股関節への負担は大きくなります。左右の骨格バランス、筋肉のつり合いがとれていない状態なので、「股関節の右側だけ痛い」「股関節の左側だけ痛い」という状態が起こります。
一方で、痛みのある方の脚をかばって歩くことで、元々正常なバランスを保っていた骨盤が左右どちらかに傾いてしまうこともあります。その影響で、腰痛を発症したり、背中が痛くなったり、ほかの場所の症状へ発展してしまうことも少なくありません。
脚の長さに差がある
左右の脚の長さに差がある状態を「脚長差がある」といいます。脚長差は、姿勢や骨盤の傾きによって骨格バランスのが崩れていたり、変形性股関節症という病気によって起こることが多いです。
変形性股関節症は、股関節の関節軟骨が少しずつすり減って、変形するまで進行していく病気です。骨盤と太ももの骨(大腿骨)のつなぎ目となる関節には関節軟骨があり、本来はわずかなすき間が生じています。しかし、病気の進行とともに、このすき間がなくなり、脚が短くなります。片方の関節軟骨がすべてなくなると、7〜8mmほどの脚長差があらわれるといわれています。
変形性股関節症を発症した方が、左右へ体を揺らしながら歩行している姿をよく目にします。痛みをかばっている場合もありますが、脚長差が生じているためにそのような歩き方しかできなくなっているとも考えられます。
片側の脚・股関節に過度な負担がかかることになるため、さらに片側の痛みが強くなってしまうことがあります。
股関節痛の検査診断
股関節の痛みとなる疾患にはさまざまなものがありますが、
- レントゲン検査
- 超音波(エコー)検査
主にこの2つの画像検査によって、骨や筋の状態を把握し、病変の有無を診察することが多いです。
一般的に行われるのは、もっとも基本となるレントゲン検査(単純X線検査)です。組織がX線を吸収する透過性の違いを利用して描写される検査です。整形外科の分野では、欠かせない検査法の1つです。
超音波(エコー)検査は、照射した超音波が組織などに反射されて戻ってきた反射波(エコー)を分析して、画像化する検査です。レントゲン検査では骨以外の情報は把握しにくいため、レントゲンでは異常が認められない場合は、超音波(エコー)が有効です。
また、超音波(エコー)の最大の強みは、患者さんに負担をかけない(体に害のない)という点です。高齢者・小さなお子さん・妊婦さんなど、どんな方でも安全に検査できるというメリットがあります。
股関節の痛みをやわらげる方法・治し方
股関節の痛みをやわらげる、治す治療としては、さまざまな方法があります。
- 運動療法
- 薬物療法
- 補助具療法
- 温熱療法
など
これら手術以外の治療法を「保存療法」といいます。どれか1つの方法に頼るのではなく、複数の方法を組み合わせることが多いです。また、合わせて日常生活の改善も必要です。
また、股関節痛の原因疾患によっては、手術療法が必要になる場合があります。
たとえば変形性股関節症の手術療法には、
- 人工関節全置換手術
- 関節を残す関節温存術(骨切り術)
などがあります。
どの治療法が適切かは、発症したときの年齢や病期の進行、痛みや炎症の度合いなどによって違ってきます。
股関節痛をやわらげる運動・ストレッチの注意
股関節の痛みについて、その痛みをとるための効果をうたうような運動やストレッチなどを目にすることがあります。もちろん効果的なものもありますが、あくまでも医療機関で適切な検査をしてから実施することが重要です。
くれぐれも自己判断で実施することのないように注意してください。痛みの原因によっては、症状が悪化してしまうリスクが高いです。まずは整形外科を受診して、痛みの原因を明らかにし、適切な治療法を選択するようにしましょう。
こちらの記事の監修医師
菅原整形外科クリニック菅原 恒 先生
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