一般的に、血清アミラーゼは37~132 U/L、尿アミラーゼは100~490 U/Lが基準値とされています。
ただし、病院や検査機関、検査キットの種類によって基準値に若干の差があります。検査結果に疑問がある場合は、必ず主治医に相談しましょう。
この記事は、アミラーゼについて書いています。
健康診断を受けた際に「アミラーゼ(AMY)の数値が引っかかってしまった」「医師に指摘を受けてしまった」という経験はありませんか?
アミラーゼは膵液(すいえき)や唾液(だえき)に多く含まれる物質です。アミラーゼ自体、聞きなれない方は多く、そのはたらきや基準値を知らない方は多いのではないでしょうか。
本記事では医師監修のもと、アミラーゼの基準値(正常値)や数値が高くなる原因、また数値が高い・低い場合に気をつけるべき対策について解説しています。
目次
アミラーゼ(AMY:amylase)とは、でんぷん(糖質)を分解する消化酵素のひとつです。主に膵臓から分泌される膵液や、唾液腺から分泌される唾液に含まれます。
血液中のアミラーゼは腎臓から尿中に排出されます。したがって、血液中のアミラーゼが上昇する場合は、膵臓や唾液線からの分泌ないし漏れ出している量が増えている、もしくは腎臓からの排出が減少していることが考えられます。
膵臓から出るものと、唾液腺からでるものではタイプが異なり、詳しい検査でどちらから出されたものかは調べることができます。
膵臓から出された膵液に存在するアミラーゼを膵アミラーゼといいます。膵アミラーゼは、十二指腸に放出されてはたらき、栄養素を消化・吸収する役割を担います。
アルコールの過剰摂取や脂肪分の多い食事を摂り続けていると、膵細胞への負担が高くなり、これが膵細胞の破壊につながると、アミラーゼが膵液から血液へと漏れ出し、結果として血中のアミラーゼ濃度が高くなります。このため、血中の膵アミラーゼ濃度が高い場合は、膵臓細胞のダメージが予想され、急性膵炎または慢性膵炎などの病気を示唆する可能性があります。
唾液腺から分泌され、口内で糖質の分解・消化を助ける役割を担うアミラーゼを、唾液アミラーゼといいます。食事の消化だけでなく、食後の炭水化物が歯に付着するのを防ぎ、口内を清潔に保つことで細菌の増殖を抑制し、口内の傷の治癒を助ける機能も果たします。
唾液アミラーゼの数値は、唾液腺に炎症がある場合に上昇することが多く、主な原因として耳下腺炎や唾液腺の化膿性疾患が考えられます。
アミラーゼの一般的な基準値は50~200U/Lとされていますが、血液や尿の中での濃度によって、この基準値は変わります。
血清アミラーゼ (AMY/S) |
尿アミラーゼ (AMY/U) |
---|---|
44~132U/L | 50~500U/L |
血液中のアミラーゼを「血清アミラーゼ」、尿中のアミラーゼを「尿アミラーゼ」といいます。いずれも基準値を上回るか下回るかによって、考えられる疾患は異なります。
アミラーゼの値が上昇する原因の多くが、膵炎(すいえん)の発症です。
など、これらの症状があり、アミラーゼ値が高いと指摘を受けたことがある方は、膵炎が疑われます。
最近の研究では、ストレスが原因でアドレナリンやノルアドレナリンといったホルモンが体内に放出され、これが唾液アミラーゼ(S型)の分泌を増加させることが明らかになりました。つまり、過剰なストレスが唾液アミラーゼの増加に関連していると考えられます。
唾液アミラーゼの増加は、ストレス源が取り除かれると減少する傾向もみられます。一時的なストレスならば問題ありませんが、長期にわたると健康への悪影響が考えられるため、定期的な運動や十分な睡眠を取ることで、効果的にストレス管理を行うことが大切です。
また前述した通り、唾液アミラーゼ(S型)は唾液腺に炎症がある場合に上昇することが多いため、耳下腺炎や唾液腺の化膿性疾患に注意が必要です。単に自己判断でストレスと決めつけず、一度受診して検査しましょう。
健康診断等で、アミラーゼの数値に指摘を受けた方は、なるべく早めに精密検査をすることが大切です。
アミラーゼ値上昇の背景には、なんらかの病気が隠れている場合があり、高値の状態を放置すると、病気の発見を遅らせてしまうリスク・デメリットがあります。
基準値よりも高い場合、膵炎をはじめとする様々な病気の発症が考えられます。
とくに血中の膵アミラーゼ濃度が高い場合は、膵臓細胞のダメージが予想され、急性膵炎または慢性膵炎などの病気を示唆する可能性があります。
急激な炎症で膵臓の細胞が破壊されると、アミラーゼが血液中に漏れ出てきます。急性膵炎は、激しい腹痛を伴うことが多いです。
急性膵炎と同様に、慢性膵炎でもアミラーゼの上昇がみられることがありますが、病気が進んで膵臓のはたらきが低下すると、逆にアミラーゼは低くなります。同じく、膵がんでもアミラーゼの低下がみられます。つまり、血液中のアミラーゼが高いか低いかだけでは、慢性膵炎や膵がんは安易に診断できません。
耳下腺炎は、唾液を分泌する器官の耳下腺に炎症が起きる病気で、耳の下の腫れが特徴となる感染症です。その代表格となるのが、流行性耳下腺炎とよばれる、おたふく風邪です。耳下腺の炎症が起こる場合、アミラーゼが漏れ出ることにより血液中で上昇する傾向があります。
※ 他の唾液線としての顎下線の炎症でも同様に、血液中のアミラーゼが上昇します。
アミラーゼが正常値を超える(高くなる)場合、下記のような病気が考えられます。
アミラーゼの値が正常値以上 – 注意が必要な病気 – |
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急性膵炎/慢性膵炎/膵胞/膵がん/総胆管結石/ファーター乳頭がん/急性耳下腺炎/だ石/消化菅穿孔(せんこう)/腸閉管/腹膜炎/子宮外妊娠/アミラーゼ産生腫瘍(肺がん、卵巣がん、卵管がんなど)/マクロアミラーゼ血症/慢性腎不全/ショックなど |
アミラーゼが正常値よりも低い場合、下記の病気が考えられます。
アミラーゼの値が正常値以下 – 注意が必要な病気 – |
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慢性膵炎や膵がんによるアミラーゼを出す膵臓の細胞の荒廃/膵腫瘍 膵全摘後、唾液線摘出後 |
アミラーゼの数値が基準値を超えている場合は、必ず詳細な検査を受けることが大切です。なんらかの疾患が原因であれば、適切な治療を受けて完治を目指しましょう。それによって、アミラーゼの数値が改善します。
また、たとえ健康体であっても、アミラーゼの数値が高いことがあります。とくに、唾液腺由来のアミラーゼの場合は数値が高めに出やすい傾向にあります。従って、精密検査でとくに問題が見つからなかった場合は、過度に心配する必要はありません。
血液中のアミラーゼの上昇が膵臓の病気によるものか、もしくは唾液線の病気によるものなのかを判断するために、アミラーゼアイソソザイムを調べることが有効です。
アイソザイム(Isozymes)とは、遺伝的に異なるが同じ化学反応を触媒する酵素の異なる形態のことをいいます。膵臓から漏れ出るP型アミラーゼと、唾液腺からのS型アミラーゼを調べます。
腸閉塞や腹膜炎といった腹部の急性疾患でも、血中アミラーゼは上昇します。また、肺や卵巣などの悪性腫瘍でアミラーゼをつくる性質のものがあり、このケースでも血液中のアミラーゼは上昇します。
腎臓に障害が起こると、アミラーゼの排出が遅れてアミラーゼの値が上昇します。その例が、慢性腎不全という病気です。またアミラーゼの排出障害の他の例として、アミラーゼの特殊型のマクロアミラーゼが生成されることがあります。マクロアミラーゼは通常のアミラーゼよりも分子量が大きく、腎臓から排出されずに血液中にたまって増加します。これらは、尿中のアミラーゼを測定することで判断できます。
200IU/L以上の値を示した場合、膵がんの疑いが濃厚です。
かくれた臓器ともよばれる膵臓の病気の中で、膵臓がんは、最も発見・治療が難しいとされる病気です。今までよりも少し増えた場合は、膵がんとまではいかなくとも、膵炎の疑いが否定できません。今まで正常値だった方が、アミラーゼ高値を示した場合、なるべく早めに病院を受診することをお勧めします。CT検査などで、膵がんを発見できる場合があります。
一般的に、血清アミラーゼは37~132 U/L、尿アミラーゼは100~490 U/Lが基準値とされています。
ただし、病院や検査機関、検査キットの種類によって基準値に若干の差があります。検査結果に疑問がある場合は、必ず主治医に相談しましょう。
高値は以下のような疾患が考えられます
アミラーゼが低値になる主な原因には以下があります
血清アミラーゼは、膵臓や唾液腺から分泌されたアミラーゼが血液中に流れたものを測定しています。
尿アミラーゼは、血液中のアミラーゼが腎臓でろ過されたあと尿に排出されたものを測定します。
血清と尿の両方の検査を行うことで、膵臓の状態や炎症の程度、腎機能の影響などを総合的に判断できます。
自覚症状がなくても、高値が持続している場合は注意が必要です。
無症状でも、軽度の慢性膵炎や膵管の狭窄・嚢胞、耳下腺の異常などが隠れている可能性があります。経過観察だけで済むこともありますが、必要に応じて画像検査(CT、MRI、エコー)を受けましょう。
アミラーゼは主に消化酵素ですが、食事による影響は軽微です。
食前・食後で若干の変動はありますが、検査値に大きく影響することは少ないため、通常は絶食での採血が推奨されます。
重度の糖尿病では、膵臓のβ細胞機能とともに消化酵素を作る外分泌機能も低下することがあります。
これにより、アミラーゼの分泌が減少し、血中・尿中のアミラーゼ値が下がることがあります。特に1型糖尿病や長年の糖尿病患者では注意が必要です。
急性膵炎では、アミラーゼが通常の3~5倍以上に上昇することもあります(例:500~1000 U/L以上)。
発症から数時間以内に上昇し、数日で徐々に正常化する傾向があります。ただし、慢性膵炎や進行がんでは、逆に上昇しない場合もあるため注意が必要です。
特定の病気が原因でアミラーゼが上昇している場合、原因疾患の治療が最優先です。膵炎などでは以下のような対策が取られます
原因が膵臓や消化管にある場合は、消化器内科への受診が基本です。
唾液腺の問題が疑われる場合は、耳鼻咽喉科や口腔外科を紹介されることもあります。かかりつけの内科から専門医への紹介を受けるのがスムーズです。
荒井駅前のぐち内科クリニック野口 哲也 先生
宮城県仙台市の「荒井駅前のぐち内科クリニック」 院長の野口です。
私は岩手県盛岡市で大学生活を送り、東北労災病院内科、東北大学消化器内科での消化器病学の修練、対がん協会での胃・大腸がん検診活動、そして、宮城県立がんセンターでの消化器癌に対するがん治療に従事してまいりました。消化器内科の専門家として診断から治療、特に内視鏡治療を行ってきました。最新の治療や全国的な治験や研究にも参加してきました。
これまで地域医療にも携わり、高血圧や糖尿病、肺炎や感冒、インフルエンザなど、様々な病で通院してくる患者さんの診療にも従事してまいりました。震災復興が進む、ここ荒井地区において、これまでの28年間の勤務医としての経験を活かし、地域の皆様の健康を支える医療、身近なかかりつけ医を目指し、少しでも貢献させて頂ければ思っております。どうぞ宜しくお願い申し上げます。
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