帯状疱疹後神経痛(PHN)とは、帯状疱疹の皮膚症状が治った後も、3カ月以上持続する神経の痛みを指します。
ウイルスによって損傷を受けた神経が過敏になり、わずかな刺激でも強い痛みを感じる状態が続きます。皮膚が治っても痛みが取れない場合は、PHNの可能性があるため、早めに医師に相談することが大切です。
近年、帯状疱疹にかかる人が増え続けています。帯状疱疹になって皮膚の状態は戻ってもなお、痛みだけが続くことがあります。この行為症が、帯状疱疹後神経痛です。
帯状疱疹をしっかりと治し、後遺症が残らないようにするためには、できる限り早い段階で医療機関を受診し、適切な治療を受けることが大切です。
本記事では皮膚科専門医に監修していただき、帯状疱疹の後遺症である帯状疱疹後神経痛とハント症候群について解説しています。
目次
帯状疱疹は子どもの頃にかかった水ぼうそうの原因である「水痘・帯状疱疹ウイルス」が体の中の神経細胞の塊(神経節)の中に潜伏し、加齢や糖尿病、がんなどで体が弱ったときに再び勢いを増すことで発症します。帯状疱疹という名前の通り、神経の走行に帯状に沿って皮膚に発疹や痛みを起こす病気です。
帯状疱疹後神経痛は、帯状疱疹の後遺症です。帯状疱疹の治療を終えた後でも、数ヶ月や数年に渡って痛みが消えない後遺症に悩まされることがあります。帯状疱疹のときに炎症が長引き、神経が傷ついて変性してしまうと、たとえ炎症が治まって皮膚症状は治っても、神経そのものにダメージが残り、それが痛みのもとになるのです。
炎症は比較的、治りやすい傾向にありますが、損傷した神経は簡単には回復しません。帯状疱疹後神経痛が長引いてしまうのはそのためです。患者さんによっては、痛み止めを使っても効き目がなく、ブロック注射や塗り薬を試みている方もいらっしゃいます。
帯状疱疹後神経痛を未然に防ぐためには、帯状疱疹のサインを見逃さずに、早期に受診することが大切です。また、痛みを放置してしまったり、見逃してしまったという方でも、まずは医師に経過をしっかりと見てもらい、現状の症状に合わせた治療を検討していくことが重要です。
帯状疱疹後神経痛を発症するほとんどが、60歳以上の方といわれています。若い年齢で帯状疱疹後神経痛へ移行する方はあまり多くはありません。
60歳以上になると帯状疱疹自体の治りも遅くなり、治療から1ヶ月経過しても、約半数近い方に痛みが残ります。高齢になればなるほど、そのリスクは高くなるため注意しましょう。
帯状疱疹後神経痛を発症するリスク要因は以下の通りです。
そのほか、
などがあげられます。
神経そのものがダメージを受けたことで生じる痛みを、神経障害性疼痛といいます。帯状疱疹に限らず、神経障害性疼痛は、治療に時間がかかることが多いです。また、帯状疱疹後神経痛の痛みに確実に効くという治療法も、残念ながら今のところは存在しません。
一方で、「帯状疱疹の後遺症は、一生治らないのか?」と不安になられる方も多いですが、神経にダメージが残っているからといって、一生治らないというわけではありません。症状が軽い方では、3ヶ月〜半年程度で、痛みが治まることもあります。なかには重度の症状に悩まされ、5〜10年と長きに渡って治療を続けなければいけない場合もありますが、それでも症状は徐々に軽減されていきます。
重要なのは、自分にあった治療法を見つけて、根気よくしっかりと治療を続けていくことです。幸いにも、帯状疱疹後神経痛があっても、それ自体がさらに悪化して深刻な病気を引き起こすことはありません。また、長い目で見れば、とくに治療しなくても、徐々に痛みが落ち着いていく場合も多いです。そのため、痛みとうまく付き合いながら、日常生活を楽しもうと意識を変えることが重要になります。
どのような治療が合うかは人それぞれですが、ある方法を試して効果がない場合でも決して諦めず、違う方法を試してみるなど積極的に取り組んでいくことが大切です。
帯状疱疹特有の皮膚症状がおさまってからも痛みの症状が続く場合は、後遺症のひとつである帯状疱疹後神経痛への以降が考えられます。
帯状疱疹の痛みと、帯状疱疹後神経痛が重なり、はっきりとは区別できない時期もありますが、帯状疱疹は眠っているときでさえ、強い痛みを感じることがありますが、帯状疱疹後神経痛は、就寝中や何かに集中しているときは痛みを感じにくいといわれています。
帯状疱疹の痛みは、「ヒリヒリ」「ズキズキ」といった痛みが特徴的です。発疹が出ている間は、神経の炎症も強く、強い痛みが生じがちです。皮膚に水ぶくれができると、ヒリヒリして寝返りをうつのが辛いほどの状態になることも少なくありません。水ぶくれがやぶれると、さらにズキズキとした痛みを感じる方が多いです。ピリピリと体をさくような痛みと表現される患者さんもいらっしゃいます。
一方、帯状疱疹後神経痛は、それまでの鋭い痛みは落ち着き、体の奥でなにかがうずくような痛みを感じることがあります。すでに発疹は落ち着いているため、見た目は普通なのにも関わらず、電気が走るような痛みを感じたり、痛みではなく肌に何かが張り付いているような違和感があると訴える患者さんが多いです。「痛みはないけれど、なんだか変な感じがする」といったような症状が目立ったら、帯状疱疹後神経痛である可能性を疑います。
帯状疱疹後神経痛の症状として、皮膚の感覚変化がでることもあります。痛みを感じているのに、その部分に触れても感覚がなかったり、皮膚がしびれていたりすることがあります。
また、本来は痛みを感じない適度の軽い刺激でも、激痛を感じるほどの状態になることもあります。これはアロディニア(異痛症)とよばれ、風が吹いただけでも痛んだり、服がこすれただけで激痛が走ることがあります。
さらに、痛みだけではなく、難聴や顔のゆがみ、極度のめまいに悩まされるケースもあります。
帯状疱疹は、炎症や刺激による急性期の痛みから、やがて神経障害による痛み(帯状疱疹後神経痛)へと移行していきます。
帯状疱疹の急性期は、二度と経験したくないと思うほどの激痛に見舞われる方が多いです。その辛い痛みが記憶として鮮明に焼きついてしまいます。
脳に記憶されたその痛みを思い起こしたとき、実際に痛みを感じることがあると考えられています。
水ぼうそうにかかると、全身の神経組織にウイルスが潜伏します。そのため、帯状疱疹は身体のさまざまな場所で発症します。
顔面神経の一部である「耳の皮膚の知覚神経」でウイルスが再び勢いを増すと、この神経と同じ経路を通る表情筋の運動神経に麻痺が起こります。これを顔面神経麻痺といいます。
さらに、顔面神経の近くには聴覚をつかさどる蝸牛神経(かぎゅうしんけい)や、身体のバランスをつかさどる前庭神経(ぜんていしんけい)が存在します。ここにも同時にウイルスが再び活動をはじめると、難聴やめまいを合併します。
ハント症状群とは、
などが生じたものを指す病態です。
これらの症状が同時に出る場合もあれば、間をおいて出る場合もあります。
発症後すぐに抗ウイルス薬と副腎皮質ステロイド薬を用いて、神経障害の悪化を食い止めることが優先されます。しかし、一旦強く前庭神経が障害されてしまうと、バランス機能が低下したままの状態になってしまい、これを改善する手立ては残念ながら今の所ありません。
リハビリテーションによって、健康な耳と機能が低下した側の耳のアンバランスを改善したり、耳以外の部位でバランス機能を肩代わりすることで、症状を軽減させることができます。
ハント症候群の症状はさまざまなので、患者さんは症状に合わせて受診する科を選定することが推奨されます。
たとえば極度のめまいが残っている方は、めまいの専門外来のある耳鼻咽喉科を受診しましょう。そのほか、脳神経内科、皮膚科、内科でも受診はできます。
帯状疱疹後神経痛(PHN)とは、帯状疱疹の皮膚症状が治った後も、3カ月以上持続する神経の痛みを指します。
ウイルスによって損傷を受けた神経が過敏になり、わずかな刺激でも強い痛みを感じる状態が続きます。皮膚が治っても痛みが取れない場合は、PHNの可能性があるため、早めに医師に相談することが大切です。
症状の持続期間は個人差がありますが、数ヶ月〜1年以上続くこともあります。
特に60歳以上の高齢者や、発症時の痛みが強かった方では長期化しやすい傾向があります。早期に適切な治療を開始すれば、痛みを軽減し、生活の質を保つことが可能です。
帯状疱疹後神経痛の痛みは、ヒリヒリする・焼けつくような感覚・針で刺されるような鋭い痛み・しびれなどが特徴です。
また、風や衣類が触れるだけでも激痛を感じるアロディニア(異常感覚)を伴うこともあります。痛みの場所は帯状疱疹が出ていた部位と一致することがほとんどです。
まずは皮膚科が適切です。
痛みが長引く場合や強い場合は、ペインクリニック(疼痛外来)や神経内科の受診も検討しましょう。複数の診療科が連携しながら、薬物療法や神経ブロックなどの多角的治療が行われるケースもあります。
治療は主に、神経の痛みを抑える薬(プレガバリン、アミトリプチリン、デュロキセチンなど)を使います。
その他にも貼り薬(リドカインテープ)、漢方薬、神経ブロック注射、光線療法、心理療法などがあり、痛みのタイプに応じて組み合わせて使うことが一般的です。
軽症の場合は、数週間〜数ヶ月で自然と痛みが和らぐケースもあります。
ただし、放置すると慢性化して治療が難しくなることもあるため、痛みが長引く場合は早めの受診が重要です。特に生活に支障をきたすレベルの痛みは、早期に対処することで予後が良くなる傾向があります。
はい、帯状疱疹後神経痛では、日によって痛みの強さが変わることが多いです。
天候の変化、疲労、睡眠不足、ストレス、体の冷えなどが悪化要因になることがあります。症状に波があることは珍しくないため、自己判断で治療を中断しないよう注意が必要です。
完全に防ぐことはできません。
50歳以上の方には帯状疱疹ワクチンの接種が強く推奨されます。また、発症してしまった場合でも、発症から72時間以内に抗ウイルス薬(アシクロビルなど)を服用することで、後遺症のリスクを下げることができます。
ハント症候群は、帯状疱疹ウイルスが耳の神経や顔面神経を侵すことで起こる病気です。
顔面麻痺、耳鳴り、難聴、めまい、耳周囲の発疹などを伴います。帯状疱疹後神経痛は皮膚に沿った神経の痛みが主症状で、病気の出る部位と神経の種類が異なります。
はい、皮膚症状が軽くても、神経に強い炎症や損傷があれば痛みだけが長く残ることがあります。
見た目に問題がないからといって安心せず、痛みが続く・悪化する場合は、皮膚科や疼痛の専門医に早めに相談することをおすすめします。
前田皮膚科クリニック前田 文彦 先生
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