最終更新日:2024.04.04

痰がからむ咳が止まらない原因は?熱なしで乾いた咳が長引く病気を解説

痰がからむ咳が止まらない原因は?熱なしで乾いた咳が長引く病気を解説

痰は、口や鼻と肺をつなぐ気道から排出される分泌物です。細菌やウイルスなどの異物を体外に排除する役割を果たし、気道をきれいにするための現象です。咳も同様に、空気の通り道である気道に侵入した異物を追い出すために起こります。つまり、痰ができるのも咳が出るのも、いわば体が細菌やウイルスに対抗するための防御反応であり自然な現象です。

一方、痰が増えたり、痰がからむ咳が止まらない、乾いた咳が長引いているという場合は、呼吸器の疾患が隠れている可能性があります。

この記事では呼吸器の病気を診断する医師監修のもと、痰がからむ咳が長引く原因や、痰の色や症状から考えられる呼吸器の疾患について解説しています。

痰と咳が止まらない

痰と咳が止まらない痰(喀痰:かくたん)は、体の気道とよばれる部分から出た分泌物です。気道は空気の通り道であり、上気道(気道の上半分:鼻から咽頭まで)と下気道(気道の下半分:咽頭から肺をつなぐ気管と、さらに枝分かれする気管支)に分かれます。

気道の粘膜からは常に粘液が分泌されていますが、通常はごく少量で、のど(咽頭)の方に送られてきます。その後方には食道があり、のぼってきた分泌物は食道を通って飲み込まれています。これら一連のながれは、無意識のうちに繰り返され、本来は痰がからむのを感じることはありません。

しかし、細菌感染などで気道の分泌物が多くなったり、膿(うみ)などが混ざって粘り気が増し飲みきれなくなったりすると、私たちの体はそれを痰として認識します。

咳はのどや気管・気管支内の異物を外に出すための反応です。呼吸器をはじめ、心膜や外耳道(耳の入り口から耳の奥の鼓膜までを結ぶ通り道)には、咳受容器とよばれるいわばセンサーのような働きがあります。その咳受容器が気道の分泌物である淡などを感知して、痰がからむ咳が出るようになります。

痰がからむ場合に考えられる病気

痰がからむ場合に考えられる病気細菌やウイルスなどの異物に限らず、煙やホコリやチリなどを吸い込めば咳や痰が出ます。そのため痰や咳が出ること自体が悪いというわけではありません。

しかし、痰をともなう湿った咳(湿性咳嗽:しっせいがいそう)は、気管支や肺の疾患が隠れている場合があるため注意が必要です。

とくに痰の量が多い場合や咳が長引いている場合は、一度、呼吸器内科を受診して検査をしましょう。

気管支喘息

気道が慢性的な炎症を起こし、その炎症によって咳症状が繰り返し起こる病気です。炎症が続くと気道は過敏状態となり、わずかな刺激でも気道が狭くなっていきます。(気道狭窄)

気道が収縮して、乾いた咳や喘鳴(呼吸時にヒューヒューゼーゼーと音がする)や呼吸困難(息切れ)などの症状が現れます。

慢性閉塞性肺疾患(COPD)

代表的な呼吸器の病気であるCOPDは、肺の慢性的な炎症性疾患です。タバコ煙の有害物質などが原因となって生じることが多く、慢性的な咳・痰、呼吸困難(息切れ)、喘鳴など、喘息によく似た症状が出ることもあります。

COPDは徐々に進行し、全身に炎症が及ぶことから、やがて全身機能が低下していきます。全身の合併症として骨格筋機能障害、心・血管疾患、栄養障害、精神疾患、骨粗鬆症、消化器疾患などを発症し、やがては要介護状態に至ることも少なくありません。

肺結核

結核菌による感染症です。2週間以上、空咳が続いている場合は肺結核が疑われます。

結核菌は空気感染しますが、結核菌が漂う空間にいて菌にさらされても、感染・発症する方は約30%程度と考えられており、そこまで多くはありません。また感染しても大半は自分の免疫機能によって自然治癒します。

一方、ごく一部の方は半年から2年ほど経過したのち、発熱や咳などの症状を引き起こします。(一次結核症)
また自然治癒したあと、稀に再発して、発熱や咳、全身倦怠感、ひどい寝汗(盗汗)などの症状を引き起こすこともあります。これはわずかに眠っていた菌が、数年から数十年後に活動をはじめて発症すると考えられています。(二次感染)

 

気管支拡張症

気管支拡張症は何らかの原因によって気管支が非可逆的(元に戻らない)に拡張してしまう病気です。気管支の拡張により細菌やカビが増殖し、炎症を引き起こすことがあります。

気管支の拡張部分では、炎症によって血管が増えるため、血痰や喀血(咳血)の症状が現れることがあります。また感染が繰り返され、病状が進行する可能性があります。

気管支拡張症の原因は、喫煙、気道の損傷、遺伝的な要因などが考えられます。

急性咽頭炎

細菌やウイルス、アレルギー、喫煙などが原因で、のど(喉頭)に急性の炎症が生じる病態です。喉頭炎には、声のかれやかすれ、長引く咳、喉の痛み、発熱などの症状が現れます。さらに、喉頭は空気の通り道でもあるため、炎症による喉頭の腫れが強くなると呼吸が困難になる場合もあります。

誤嚥性肺炎

ものを飲み込むことを嚥下(えんげ)、嚥下した食べ物や唾液が食道ではなく誤って気道に入ってしまうことを誤嚥(ごえん)といいます。

誤嚥性肺炎は、誤嚥によって口腔内の常在菌が気道から肺に入ってしまい、肺炎を起こす病気です。発熱や咳、痰など肺炎の典型的な症状が見られない場合もあり、なんとなく元気がない、食欲がない、といった状態になることも多いです。

とくに要介護状態の高齢者ではこの誤嚥性肺炎を繰り返しやすく、時には死亡の原因になることもあります。

肺がん

肺がんは肺にできる悪性腫瘍です。肺から発生するがん(原発性がん)と、ほかの部位にできたがんが肺に転移したもの(転移性肺がん)に分類されます。一般的に「肺がん」とよばれるのは、原発性肺がんです。最大の危険因子は喫煙です。

肺がんの初期症状には、空咳(乾いた咳)、痰・血痰、喘鳴などがあげられます。一方で、倦怠感や胸痛、体重減少などの症状を認めるケースや無症状の場合も多く、発見されたときにはすでに病態が進行しているケースも少なくありません。

痰の色から考えられる病気

健康な方の痰は無色透明でサラサラしています。しかし、細菌やウイルスの感染が起きると、痰の色が黄色や緑色などに変わることがあります。

例えば緑色の痰が見られる場合、細菌感染の可能性が考えられます。もし症状が長引く場合は、抗生物質による治療が必要となるため、医療機関を受診することが重要です。

このように痰の色は、疑うべき病気の参考になることがあります。ただ、無色であるから大丈夫とせず、痰がからむと感じたときには、お早目にご相談ください。

黄色の痰・緑色の痰

黄色や緑色の痰は膿性(のうせい)の痰とよばれ、細菌感染や炎症が起こっている可能性が考えられます。これらの痰が長期間続く場合や他の症状がある場合には、医師に相談して適切な診断と治療を受けることが重要です。

粘度が高い白い痰

粘度が高い白い痰は、非細菌性(ウイルスなど)の感染が多く、アレルギーや喘息、COPDなどによって発生することが多いです。

ピンク色の痰

肺や気道の異常や炎症によって血管が損傷されると、痰に血液が混じってピンク色になることがあります。血が混じる痰は、肺炎、気管支炎、肺結核、肺がんなどの疾患の兆候として考えられます。血液の量や出血の頻度によって重症度が異なるため、血が混じった痰を経験した場合は、できるだけ早く医師の診察を受けることが重要です。

暗赤色・茶色の痰

重度の慢性肺疾患を患っている人は、茶色がかった痰や非常に粘りのある痰を咳き込むことがあります。特に嚢胞性線維症や気管支拡張症の患者では、暗褐色で粘りのある痰が観察されることがあります。

暗赤色・茶色になるのは、下気道からの出血であることが多いです。必ず医師の診察を受けることが重要です。

黒または灰色の痰

炭鉱や工場で働いている人や、激しい喫煙者では、炭やすすのような色合いの痰が見られる傾向があります。煙が多く発生する工場でマスクを着用せずに働いていると、煙を吸い込むことになり、気道の炎症反応が起こり、痰が発生します。刺激物質が痰に混じり、咳をすることで排出されます。

喫煙でも同様の現象が見られます。1日に2〜3箱喫煙する患者では、湿性の咳(痰が絡み、ゴホンゴホンと重たい咳)が発生することがあります。

 

【参考情報】『Phlegm, mucus and asthma』Asthma UK
https://wexnermedical.osu.edu/blog/what-does-the-color-of-your-phlegm-mean

 

乾いた咳が長引く場合の受診の目安

熱はなし、でも痰や空咳が止まらない

呼吸のしにくさや息苦しさ、横になれないなどの症状がある場合は、すぐに呼吸器科を受診しましょう。以前に呼吸器の病気にかかった経験がある方や、糖尿病・心臓病・膠原病の持病がある方は、早めの受診が重要です。

下記の症状がある場合も、できるだけ早く呼吸器科を受診しましょう。

  • 痰の色が濃く、粘りが強い、血が混じっている
  • 症状が頻繁に起こるようになった
  • 頭や顔(目の下や額など)に痛みがある
  • 胸痛や動悸・息切れの症状がある
  • 呼吸がしにくい
  • 食欲がない
 

風邪の後に空咳や痰の症状が続く

風邪をひいた後で、空咳や痰の症状が長く続くことがあります。この場合、気道粘膜のダメージが残っている可能性や、感染後咳嗽(かんせんごがいそう:感染症を患った後に発生するしつこい咳)による気管支炎、副鼻腔炎などが考えられます。

副鼻腔炎では、額や頬(目の下)に痛みや重苦しさを感じることもあります。炎症が放置されると慢性化する恐れがあるため、数日経っても改善しないか、悪化していると感じる場合は早めに受診しましょう。

ある日突然、咳と痰の症状が始まった

突然咳と痰の症状が現れる場合、気管支喘息が疑われます。喘鳴を伴う発作的な咳や痰の症状が現れることがあります。また、夜から朝方にかけて咳が悪化する場合は、気管支喘息の可能性が高いです。

気管支喘息は、感染症、アレルギー、ストレス、遺伝などの要因によって引き起こされる疾患です。気管支喘息は自然治癒が難しく、放置すると症状が悪化する傾向があるため、早期の診断と適切な治療が必要です。特に、息苦しさや横になると呼吸が困難な症状がある場合は、できるだけ早く呼吸器科を受診しましょう。

空咳や痰の症状が2〜3週間以上続いている

乾いた咳や痰を伴う咳の症状が2〜3週間以上続いている場合、慢性閉塞性肺疾患(COPD)が疑われます。COPDは、喫煙が主な原因ですが、排気ガスや遺伝的な要因も関与する場合があります。

COPDでは、呼吸機能が低下し痰を排出しにくくなる傾向があります。また、息苦しさや酸素不足の症状がある場合は、できるだけ迅速に呼吸器科を受診しましょう。

痰がからむ咳・乾いた咳の検査

痰がからむ咳を検査診断する際は、

  • 血液検査
  • 画像検査(レントゲン・胸部CT)
  • 呼吸機能検査(モストグラフ・スパイロメトリー・FeNO)

など

一般的な呼吸器の検査のほか、痰を調べる「喀痰検査」が行われます。

喀痰検査

喀痰検査は、痰を採取して顕微鏡で観察し、中に細菌やがん細胞などがないかを調べる検査です。痰を調べることは呼吸器系の病気の診断ではとても重要です。

痰の検査には主に2つの検査があります。

1つは、細胞の有無を見るための喀痰細胞診検査です。肺炎などの原因菌を調べるこの検査では、痰に含まれる膿を染色したり、培養したりして、効果のある抗菌薬を探します。

もう1つは感染症の有無や原因となる病原体を同定するための喀痰細菌検査です。咽頭がんや喉頭がん、肺がんが疑われる場合は、喀痰にがん細胞がないかを調べる喀痰細胞診検査が行われます。正常の細胞と違う形に変化した異型細胞が見つかった場合、その細胞がどんな特徴をもっていて、どの程度変化しているのか、がんのタイプや悪性の度合いなどを調べることができます。

※ 検体を提出する際には、睡液ではなく、痰そのものを出すように注意する必要があります。

血液検査

問診で聴取した症状や身体所見から、感染症やアレルギー性疾患などを疑うときには、一般血液検査で調べることもあります。例えば感染症の検査では、白血球数(WBC)の増加、CRP(C反応性蛋白:炎症反応で生じるタンパク質)によって診断できる場合が多いです。

一方、一般的な血液検査とは別で、動脈から血液を採取して酸素や二酸化炭素などのガス分圧を測る検査もあります。これを動脈血液ガス分析といいます。呼吸の機能が正常に働いているかどうかを調べることができます。

画像検査(レントゲン・胸部CT)

呼吸器の異常を知る基本検査として、胸部X線検査(レントゲン検査)はとても重要な存在です。健康診断で実施することがほとんどなので馴染みのある方も多いのではないでしょうか。

胸部X線検査では立位で胸にX線(レントゲン線)を照射し、反対側で透過したX線を検出して白黒の画像にします。この検査は、特に胸部の全体像を評価できるという大きなメリットがあります。短時間で検査は終了し、痛みもありません。

X線画像では、空気は黒く、水や組織は白く写ります。まずは全体を広く見渡して、肺の大きさや色、左右対称性などを確認します。そして、微妙な陰影がないかどうかなど左右で見比べながら、見逃しやすいところを重点的に見ていきます。

胸部X線検査で異常が見つかった場合、より精密な検査として胸部CT検査が行われることがあります。胸部X線検査では、背中から胸までを平面的に描出するため、構造物が重なる部分の判断は困難です。一方、CT検査はコンピュータ断層撮影ともよばれ、厚さ5〜10mm(高分解CTは厚さ1〜2mm)の断面画像を描出することができます。そのため、複雑な構造や微細な病変もとらえることができるというメリットがあり、小さな肺がんの発見や間質性肺炎の鑑別など、呼吸器疾患の確定診断に有用です。

呼吸機能検査

呼吸機能を調べる検査で最も基本となるのが、肺機能検査(スパイロメトリー)です。スパイロメーターとよばれる機械で肺活量などを測定します。正しく測定するには、「息を最大限に吐いて、最大限に吸う」という患者さん自身の努力が必要です。

気管支喘息を疑うときは、呼気NO(呼気中の一酸化窒素)濃度を調べる呼吸機能検査もあります。専用の測定器を使って検査します。ただし、測定された呼気中一酸化窒素濃度(Fe-NO)の値は測定機種によってバラつきが生じることもあり、現在では気管支喘息の確定診断をすることはできません。あくまでも気道炎症の有無を判断する1つの指標として使用されています。

痰がからむ咳のよくあるご質問

黄色や緑色の痰がでるのはなぜですか?

粘液に、細菌と白血球が混ざると黄色や緑色の痰になります。

サラッとした水のような痰が、細菌や白血球、粘液と混ざると硬くなり、白色から黄色・緑色に変わることがあります。

熱はなく、黄色・緑色の痰がでるのですが病気でしょうか?

細菌やウイルスなどによって炎症が起きている可能性があります。

細菌やウイルスなどの病原菌によって起こる急性気管支炎や肺炎などの感染症を引き起こすと、黄色・緑色の痰がでることがあります。

慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支拡張症、びまん性汎細気管支炎などの疾患は、病原菌によって気道に炎症が起こる病態です。気道粘膜で炎症が起こると、発熱の症状がなくても黄色や緑色の痰が出ます。そのほかにも肺結核や肺非結核性抗酸菌症、肺がんなどの病気でも、黄色や緑色の痰が慢性的に続くことがあります。

一方で、慢性副鼻腔炎という鼻に炎症が起こる病気では、膿性の鼻水がのどの奥に落ちてくる(後鼻漏)ことがあります。痰と区別が難しい場合もあるため、呼吸器の病気と混同しないように注意が必要です。

黄色や緑色の痰が出たら、検査した方がよいでしょうか?

長引くときは、一度、検査をしましょう。

風邪・花粉症などで鼻の粘膜に炎症が起きたり、肺炎などの病気でも、痰が黄色や緑色になることがあります。風邪は自然に治癒しますが、痰の症状が長引いて食欲が落ちてきたり、以前よりも息が苦しくなってきたりした場合は、肺炎などの病気も否定できなくなります。なかなか熱が下がらないという場合は、一度、胸部のレントゲン検査をとることを推奨します。また喀痰の検査(痰を容器に出して成分を調べる)をすると、細菌や結核菌、がん細胞などを確認できます。

この記事をシェアする

こちらの記事の監修医師

石塚 豪

泉大沢ファミリークリニック石塚 豪 先生

仙台の泉区大沢にある「泉大沢ファミリークリニック」 院長の石塚です。

10年以上にわたってお世話になりました仙台医療センターを退職し、2019年2月仙台市泉区大沢に新規開業しました。

これまで培ってきました地域医療での経験や基幹病院での高度医療の経験をいかし、専門であります循環器呼吸器疾患を中心に、内科疾患から小児科疾患まで幅広く対応させて頂きます。

「患者さんの不安を安心に変えられるように」を合言葉に、地域の皆様から信頼を頂けるような温かいクリニックを目指します。

仙台市泉区はもちろん、富谷市をはじめとする近隣エリアからの通院も可能です。お気軽にご来院ください。今後ともよろしくお願い申し上げます。

監修医師の詳細はこちら

関連記事のご紹介

© ヨクミテ|医師監修の医療メディア, Inc. All Rights Reserved.