一時的な筋肉疲労や無理な姿勢による腰痛であれば、数日〜1週間程度で自然に回復することもあります。
しかし、安静にしていても痛みが取れない、日常生活に支障が出ている、徐々に痛みが強くなってきているといった場合には、自然治癒を待つのではなく、医療機関での検査が必要です。特に痛みが慢性化している場合は、内臓疾患や神経の異常が隠れていることもあるため、早めの対応が重要です。
腰痛は自然に治ることも多く、必ずしも急いで治療をするべき疾患ではありません。しかし、何日も何ヶ月も痛みが続いている場合は、一度しっかりと検査する必要があります。
なぜなら、腰の痛みはときに内臓や脊椎の病気から起こる場合があるためです。一般的に腰痛は、整形外科領域の疾患として位置付けられています。しかし、中には内科・外科系の疾患や婦人科系疾患によって腰が痛いと感じることもあるため油断できません。
本記事では、内科医に監修していただき、腰が痛い原因として考えられる内臓の病気を、男性・女性別に解説しています。
目次
腰痛を起こす病気はさまざまなものがあります。
その代表格となるのは、
などの疾患です。
このように腰痛の誘因は、骨・椎間板・筋肉・神経などのトラブルによって起こるものが多いです。
一方で、
など、何ヶ月も長期にわたって続くような腰痛の背景には、さまざまな病気が潜んでいる可能性が考えられます。
この場合、「湿布を貼って様子をみよう」などという対処ではもちろん、根本的な改善には至りません。
腰痛の陰に重大な病気が潜んでいるケースは、決して多くはありません。しかし、放置してしまうことでリスクが高まったり、ときに命の危険に及んでしまったりすることもゼロではないため、異変を感じたら早めに適切な検査をすることが推奨されます。
内臓疾患に起因する腰痛
脊椎に問題がなくても、内臓疾患により腰痛が発生する場合があります。以下のような症状が見られた場合は、早急に医療機関で診察を受けるべきです。
消化器疾患
胃や十二指腸の潰瘍、胆石、胆嚢炎、膵臓炎などが原因で腰痛が出ることがあります。これらは腹痛、血便、吐き気、嘔吐と共に発生します。
泌尿器疾患
尿路結石、腎結石、腎盂腎炎、前立腺がんなどが腰痛を引き起こす場合があり、これらは排尿障害や血尿が特徴です。
婦人科疾患
子宮内膜症や子宮がんも腰痛の原因となり、おりものの量が増えるや不正出血も伴います。
循環器疾患
心筋梗塞が発生したときや、解離性腹部大動脈瘤が存在する場合、突然の強い腰痛や背中の痛みが起こることがあります。
男性に多い内臓由来の腰痛として一番多いのは、尿管という場所に結石がつまる「尿管結石」です。
尿に含まれるカルシウムやシュウ酸などが結晶化して結石とよばれる石ができます。それが尿路をふさいでしまうことで起こる病態を尿路結石といいいます。
尿路とは、腎臓で尿が生成された後に体外へ排出されるまでの尿の通り道のこと。上から腎臓、尿管、膀胱、そして尿道を経由して、排尿されます。このいずれかの場所で結石ができます。
尿管結石を発症すると、突然、腰や脇腹に痛みを感じます。また、下腹部に激しい痛みが生じ、吐き気や嘔吐、冷や汗をともないます。
30〜40代の男性に多く、再発しやすいのが特徴です。
月経ではない時期に、腰痛の症状が起きている場合、子宮に良性の腫瘍ができる「子宮筋腫」や、子宮の外に内膜が増える「子宮内膜症」といった子宮の病気の可能性もあります。
これらの病気は初期症状に乏しい場合もあり、痛み等の自覚症状が出たときにはすでに病態が進行していることも少なくありません。子宮がん検診や妊娠を機に発見されることも多いようです。
そのため、ライフステージに合わせて定期的に子宮がん検診を受けることが推奨されています。
各自治体で実施している場合も多いので、積極的に活用しましょう。
多くのケースで、背骨の腫瘍は他の臓器で発生したがんが転移しているものですが、まれに脊椎自体が初発地となる悪性腫瘍も存在します。脊椎へのがんの転移が発生すると、厳しい痛みが日夜を問わず発生します。また、腫瘍の位置に応じて、下肢の麻痺や排尿・排便の障害も引き起こすことがあります。
脊髄に発生した腫瘍は通常、良性です。持続的な腰痛に加え、下肢にも麻痺が出現します。腫瘍が拡大すると、排尿や排便の問題も発生します。
この疾患は結核菌が脊椎に感染する形で発生し、激しい腰痛や背中の痛みが現れます。さらに、感染部位に依存して、倦怠感、容易に疲れる、微熱などの結核特有の全身症状が出ることがあります。
過度なストレスが原因となって腰痛が発生する場合もあります。これは心因性腰痛とよばれ、単なる「気のせい」で腰が痛くなるわけではありません。
痛みの位置や強さは日々変動し、不安が増すと痛みも増加する傾向があります。その発生原因には、ストレスが脳の痛み抑制機能を低下させる影響が考えられています。また、うつ病などの精神的疾患が腰痛の背後にある場合もあるため、注意が必要です。
このように、腰痛と一言でいってもその原因が筋肉・骨・神経だけにあるとは限りません。
腰痛以外の身体的な異変を感じていないか、日常生活で自身の体調の変化に注意を払うことが重要です。
腰痛の検査では、X線(レントゲン検査)やCT検査が一般的に用いられます。
しかし、これらの検査では転移性脊椎腫瘍の早期発見には限界があります。そのため、MRI検査を受けることが推奨されています。MRIの精度は90%以上とも言われ、骨への転移を早く発見するには有効です。
しかし、MRI検査でも判別が難しい場合があります。溶骨性の腫瘍による骨折と骨粗鬆症による骨折は似ているため、誤診される可能性があります。転移性脊椎腫瘍の疑いが完全に晴れるまで、つまり症状が改善されるまで、継続的な検査が必要です。
検査で異常が見つからない、あるいは治療しても改善しないという理由で通院を中断する人もいますが、そのようなケースで後に骨転移が発見され、亡くなってしまったという例がしばしば見られます。
自己判断でやめることのないように注意が必要です。
一時的な筋肉疲労や無理な姿勢による腰痛であれば、数日〜1週間程度で自然に回復することもあります。
しかし、安静にしていても痛みが取れない、日常生活に支障が出ている、徐々に痛みが強くなってきているといった場合には、自然治癒を待つのではなく、医療機関での検査が必要です。特に痛みが慢性化している場合は、内臓疾患や神経の異常が隠れていることもあるため、早めの対応が重要です。
はい、あります。
腰痛の原因として最も一般的なのは筋肉や骨、関節の問題ですが、腎臓や膵臓、大腸、子宮、卵巣、前立腺などの内臓に異常がある場合も、腰に関連した痛みを生じることがあります。これらの内臓由来の腰痛は、いわゆる「関連痛」と呼ばれ、必ずしも患部の真上に痛みを感じるとは限らず、背中や腰に痛みとして表れることがあります。そのため、整形外科的な異常がない場合でも、内科的な疾患を念頭に置いた診察が必要になります。
男性における内臓性腰痛の原因として代表的なのが、前立腺の炎症(前立腺炎)です。
男性における内臓性腰痛の原因として代表的なのが、前立腺の炎症(前立腺炎)です。排尿時の違和感や頻尿、会陰部の鈍痛を伴うことが多く、腰部に重苦しい痛みを感じることもあります。また、尿路結石や腎結石も比較的多く、背中や脇腹から腰にかけて強烈な痛みが生じるケースがあります。さらに、動脈硬化などにより発症する大動脈瘤の解離や破裂などは、命にかかわる疾患であり、突発的な激しい腰痛を伴うことがあるため、注意が必要です。
女性の場合は、婦人科系の疾患による腰痛が多く見られます。
子宮内膜症や子宮筋腫は、慢性的な腰の痛みや下腹部の不快感、月経不順などを引き起こすことがあります。卵巣嚢腫もサイズが大きくなると、骨盤周囲に圧迫感や鈍い腰痛を生じさせることがあります。さらに、月経困難症では骨盤内のうっ血やホルモン変化が影響し、腰の重だるさとして感じることもあります。妊娠中や産後の骨盤のゆるみによる腰痛も見逃せない要因の一つです。
腰の片側だけに痛みがある場合、腎臓や尿管などの一側性の内臓疾患が疑われます。
たとえば、腎盂腎炎や腎結石では、右側または左側の腰背部に強い痛みを感じ、時には発熱や吐き気、排尿異常を伴うこともあります。膵炎は左側の背中に近い部分に痛みを感じることがあり、食後や飲酒後に痛みが増す傾向があります。また、尿管結石では痛みが腰から下腹部、鼠径部へと移動することもあり、かなり強い痛みが数時間続く場合もあります。
腰痛とともに発熱や吐き気がある場合は、体内で何らかの炎症や感染が進行しているサインかもしれません。
腎盂腎炎では発熱と背部痛が代表的な症状で、悪寒や頻尿、排尿時の痛みもよく見られます。膵炎の場合には、上腹部から腰への放散痛に加え、吐き気や嘔吐を伴うことが多く、重症化すると全身状態が急速に悪化することもあります。また、婦人科感染症や骨盤内の炎症なども、発熱と腰痛の組み合わせで現れることがあります。いずれにしても、これらの症状が同時に起きている場合は、内科や救急外来での速やかな診察が必要です。
整形外科での画像検査に異常が見られなかった場合でも、腰痛が改善しない場合には、内臓疾患や心理的要因、神経性の痛みなど、他の原因を考える必要があります。
特に、腹部症状や排尿異常、月経異常などの随伴症状がある場合には、内科や婦人科、泌尿器科の受診を検討すべきです。また、ストレスや自律神経の乱れによっても腰痛が長引くことがあるため、必要に応じて心療内科などの診察も視野に入れるとよいでしょう。
腰痛と一緒に排尿や排便に関する症状が現れている場合は、泌尿器科や消化器内科の受診が必要になります。
たとえば、前立腺炎や膀胱炎、腸の炎症などが原因で腰部の不快感を訴えることがあります。また、婦人科系疾患でも骨盤内の臓器が排泄機能に影響を与えることがあるため、女性の場合は婦人科の診察も重要です。さらに、脊髄神経が障害される馬尾症候群などの整形外科疾患でも排泄障害を起こすことがあるため、複数科での評価が求められるケースもあります。
腰痛が1週間以上続く、日を追うごとに悪化している、あるいは仕事や日常生活に支障をきたすほど痛みが強くなっている場合は、できるだけ早めに病院を受診してください。
また、しびれや筋力低下、歩行の不安定さを感じる場合や、排尿・排便の異常を伴う場合は、深刻な病気の可能性もあるため放置せず専門医の診察を受けることが重要です。
腰痛の原因が明らかに体の動きに関係している、たとえば前かがみや立ち上がる動作で痛みが増すといった場合は、整形外科の受診が適しています。
一方で、痛みが姿勢や動きに関係なく持続している場合や、発熱・吐き気・排尿トラブル・下腹部の不快感などが伴う場合は、まず内科や婦人科、泌尿器科を受診するのが望ましいです。症状が複雑で判断に迷う場合は、かかりつけ医や総合診療科に相談し、必要に応じて適切な専門科に紹介してもらうことが安心につながります。
LCクリニック仙台佐藤 俊裕 先生
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