最終更新日:2024.12.06 | 投稿日:2024.11.28

女性に多いスキルス胃がんとは?症状の前兆・発覚のきっかけを解説

女性に多いスキルス胃がんとは?症状の前兆・発覚のきっかけを解説

スキルス胃がんは、胃がんの一種で、ギリシャ語の「skirrhos(硬い腫瘍)」に由来します。一般的な胃がんは50代以降に多く発症するのに対し、スキルス胃がんは比較的発症年齢が若いことが知られています。特に20代から40代の若い女性にも見られることがあるため、がんと無関係だと思っている世代の方々も注意が必要です。

本記事では、消化器病専門医に監修していただき、スキルス胃がんとはどのような病気か、症状の前兆・発覚のきっかけ、なりやすい人を解説しています。

目次

若い女性がなりやすい?スキルス胃がんとは

スキルス胃がんは胃の壁を硬く厚くさせながら広がっていくタイプのがんを指す通称であり、医学的には「胃癌取扱い規約」の肉眼型4型および3型の一部を指すことが多いです。進行胃がん全体の約10%を占めており、がん細胞の増殖が速く、進行してから発見されることも少なくありません。

通常、胃がんは男女比2:1と男性に多く見られる疾患ですが、スキルス胃がんは女性にも比較的多く発症します。スキルス胃がんの手術例に関しては男女比1.2~1.5:1であったとする報告もあります。

気になる症状があればまずは消化器内科へ相談

胃腸の症状は、消化器内科を受診しましょう。消化器内科は胃がんの診断と内科的治療を専門とする科です。初期段階での相談や検査に適しています。

現在では胃がんに対する薬物療法の進歩によって、体調を維持しながら治療を継続できるようになってきています。いずれにしても症状に早く気付いて検査を受けることが重要となるため、スキルス胃がんの前兆・初期症状があったら、すぐに消化器内科を受診しましょう。

スキルス胃がんの原因・危険因子

スキルス胃がんがなぜ女性にも多く発症するのか、明確な理由はまだ解明されていません。研究では、女性ホルモンとの関連性が示唆されていますが、決定的な因果関係は確認されていないのが現状です。また、スキルス胃がん特有の発症原因があるのではないかと考えられていますが、具体的な原因因子はまだ見つかっていません。

スキルス胃がんの原因は完全には解明されていませんが、いくつかのリスク要因が明らかになっています。

ピロリ菌感染

胃の粘膜に長期間住み着くピロリ菌(Helicobacter pylori)の感染は、胃がん全体の主要なリスク要因とされています。特に、ピロリ菌による慢性胃炎が長期にわたると、胃の細胞が異常な形で増殖し、がんに進行するリスクが高まります。スキルス胃がんでも、ピロリ菌感染は重要な要因の一つです。

高塩分の食事

塩分の多い食品、特に塩漬けの食べ物や加工食品を頻繁に摂取すると、胃炎を起こすことでDNAにダメージが蓄積され、がん化のリスクが増大します。漬物、味噌、塩辛などの塩分過多の食品は、摂取を控えることが推奨されます。

喫煙と飲酒

2023年に発表された胃がんゲノム解析の結果、飲酒量やアルコールを代謝しにくい体質とスキルス胃がん発症の関連が強く示唆されました。また、喫煙は胃がん全般の発症リスクを高めます。タバコに含まれる有害物質が胃の細胞内DNAを傷つけ、がん化を促進します。

遺伝的要因

胃がんの家族歴がある場合、特にスキルス胃がんの家族歴があると、リスクが高くなると考えられています。また、若年層(20代から40代)に発症することがあるのもスキルス胃がんの特徴で、遺伝子変異の影響が示唆されています。Eカドヘリンというタンパク質をコードするCDH1遺伝子や、がん抑制遺伝子と呼ばれるp53遺伝子などに異常が生じることが、スキルス胃がんの発症に関わるといわれています。

スキルス胃がんの前兆・初期症状

スキルス胃がんの場合でも、現れる症状は一般的な胃がんと変わりません。初期段階でははっきりとした症状が少なく、他の胃の不調と似た軽微な症状しか出ないため、早期発見が困難です。

以下は一般的な初期症状です。

  • 軽い胃痛や不快感
    胃の違和感や軽度の胃痛が持続します。多くの患者がこれを一時的な胃炎や消化不良と誤解するため、受診が遅れることがよくあります。
  • 食欲不振
    食欲がなくなることが比較的初期のサインとなります。特に食べ物を見るだけで嫌悪感がある場合、胃の異常を疑う必要があります。
  • 体重減少
    ダイエットをしているわけでもないのに体重が急激に減少することは、がんが進行している兆候かもしれません。
  • 胃もたれや消化不良
    食事後に胃が重く感じたり、消化不良のような症状が続いたりすることもあります。

このような症状が数週間以上続く場合、早めの検査が必要です。

    症状を放っておくとどうなる?

    スキルス胃がんは、健康診断でのバリウム検査や内視鏡検査中に偶然発見されることがあります。しかし、スキルス胃がんは胃の粘膜表面ではなく、粘膜の下層に早期に浸潤するため、通常の検査では発見されにくいという特徴があります。健診で再検査の対象になったら、必ず二次検査でより詳細な観察や生検を行いましょう。

    スキルス胃がんが進行した場合の症状

    進行すると、

    • 胃痛
    • 胃の不快感
    • 食欲低下
    • 嘔吐
    • 体重減少
    • 貧血

    これらの症状ほか、吐血、嘔吐、黒色便(下血)といったより深刻な症状が現れることもあります。

    急な症状悪化が起こり、緊急受診される患者さんも少なくありません。そうならないようにするためにも、早めの対策が必要です。

    スキルス胃がんの検査・診断方法

    スキルス胃がんの検査には、以下のような方法が有効です。これらの検査を組み合わせることで、スキルス胃がんの診断精度を高め、がんの広がりや転移を早期に発見することが可能です。

    内視鏡検査(胃カメラ)

    内視鏡検査は、スキルス胃がんの診断において最も重要な検査方法の一つです。この検査では、胃の内部を直接観察できるため、以下のような特徴が確認されます。

    一般的な胃がんは瘤(こぶ)や潰瘍がみられるのですが、スキルス胃がんは胃壁の表面に異常が少なく、早期発見が難しいといわれるがんです。しかし、胃粘膜下層に浸潤して胃壁が硬くなり、胃の「粘膜ひだ」が太くなったりすると、内視鏡検査によってこの変化を詳細に確認できます。また通常、空気を注入すると胃壁は柔軟に膨らみますが、スキルス胃がんの場合、胃壁が膨らみにくくなります。

    消化器内視鏡専門医であればスキルス胃がんを早期に診断するためのトレーニングを積んでいるため、内視鏡検査は専門医にゆだねるのが望ましいでしょう。

    内視鏡検査では、疑わしい部分から組織を採取し、顕微鏡でがん細胞の有無を確認することができます。

    CT検査

    CT検査は、スキルス胃がんの診断や進行度を把握するために重要な検査です。スキルス胃がんによる胃壁の肥厚や、周囲の臓器への浸潤や転移、リンパ節転移を画像で確認できます。がんの広がり具合を把握することは治療方針を決定するための極めて重要な情報となります。

    PET-CT検査

    PET-CTは、がんの診断と進行度の評価に有効なことがあります。スキルス胃がんに対しても以下のような利点があります。

    がん細胞の活動性の評価
    PET-CTでは、がん細胞がどの程度活発に増殖しているかを推定できます。スキルス胃がんのように進行が早いがんの術後再発を予測する上で有効なことがあります。

    全身の転移を確認
    リンパ節転移や腹膜播種に関しては感度が低いため有効ではありませんが、全身の転移状況を調べる際に役に立つことがあります。

    その他の検査

    超音波検査(エコー)

    胃壁の肥厚や、リンパ節の腫れを確認することができます。また腹膜播種を示唆する『腹水』がたまっていないかを確認する場合にも使用されます。

    X線検査(バリウム検査

    胃の形態異常や胃壁の硬化を評価します。バリウムを飲み、X線撮影で胃の状態を確認することで、異常な膨らみや収縮の程度を調べることができます。

    スキルス胃がんの治療方法

    スキルス胃がんは一般的に進行が早く、治療が難しいがんです。単一の治療法で完治させることは難しいため、手術療法、化学療法、場合によっては放射線療法などを組み合わせた集学的治療が重要です。患者さんの病状や進行度に応じて、治療方針が決定され、最適な治療が選択されます。

    胃がんの治療では、がんの進行に応じて適切な治療法が選択されます。スキルス胃がんも同様に、がんが胃粘膜最表層の粘膜層にとどまっていてサイズが小さく転移がない場合には内視鏡治療が選択されることもあります。

    一方で、がんが粘膜層より深く広がっている場合で遠隔転移がなければ手術療法が第一選択となります。がんを全て根治的に切除することが目標です。しかし、スキルス胃がんは進行が速く、診断時にすでに周囲の臓器や腹膜に転移していることが多いため、手術が困難なケースがよくあります。そのため、手術は比較的早期に発見された場合に限定されます。

    ほかの臓器への転移が考えられる場合は、基本的には抗がん剤を中心とする化学療法が主体となります。

    スキルス胃がんの内視鏡治療

    がんが粘膜最表層である粘膜層にとどまり、2cm以下で、潰瘍を伴わない場合は、内視鏡(胃カメラ)によるお腹を切らない治療が行われます。

    EMR(内視鏡的粘膜切除術)

    がんがある粘膜の下に生理食塩水を注入し、がんを浮かび上がらせる。細いワイヤーをがんに引っかけて、根元から切除する。

    ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)

    がんがある粘膜の下に生理食塩水を注入し、がんを浮かび上がらせる。高周波(電気)メスを使ってがんをはぎ取るように切除する。

    スキルス胃がんの手術療法

    スキルス胃がんの外科的な手術療法については、以下のような方法があります。

    腹腔鏡手術

    腹部に小さな穴を開けて行う低侵襲手術で、腹腔鏡と呼ばれる手術用の内視鏡を用いて腹腔内を観察しながらがんを切除します。この方法は体への負担が少なく、術後の回復が早いという利点がありますが、進行したスキルス胃がんには適用できないことがあります。

    開腹手術

    腹壁を切開して直接胃を観察しながら行う手術です。医師が直接患部を見ることができるため、確実な処置が可能ですが、傷口が大きくなるため術後の回復に時間がかかります。

    ロボット支援下腹腔鏡手術

    手術支援ロボットを使用して行う精密な腹腔鏡手術です。従来の腹腔鏡手術よりも繊細で精密な操作が可能であり、体への負担も少ないとされています。

    これらの手術療法は、スキルス胃がんの進行度や患者さんの状態に応じて選択されます。特に進行したスキルス胃がんの場合、手術だけではなく化学療法や免疫療法との併用が検討されることがあります。

    スキルス胃がんの化学療法

    胃がんの化学療法は、

    1. 細胞障害性抗がん剤
    2. 分子標的薬
    3. 免疫チェックポイント阻害薬

    以上を適切に組み合わせることによって効果的となります。この組み合わせ方は、今までの国内外の臨床試験結果を踏まえて推奨されるレジメンや優先度が示されています。

    化学療法ができるかどうかは、ご本人の心臓、肝臓、肺などの主な臓器の機能が保たれていること、日常生活がある程度自立していること、他に重い病気がないことが必要条件となります。それに加えて、がんの状態や臓器機能、想定される副作用、点滴や入院の必要性や通院頻度などについて本人と担当医が相談しながら、治療方針が決定されます。

    その他の治療法

    スキルス胃がんの腹腔内化学療法

    腹腔内化学療法は、スキルス胃がんの腹膜播種(腹膜にがんが広がる状態)のリスクに対応するため、注目されている治療法です。この治療では、腹腔内に直接抗がん剤を注入し、全身化学療法と併用して治療を行います。

    この方法は、従来の全身化学療法よりも腹膜への浸潤を効果的に抑えることが期待され、予防的な役割も果たすのではないかと言われています。現在、全国の医療機関でこの治療法の有効性を検証する臨床試験が行われています。

    スキルス胃がんの放射線療法

    放射線療法は、胃がんの治療において根治的に用いられることは少ないですが、手術前後の補助療法や、進行がんや再発がんに対する症状緩和の目的で使用されることがあります。特に、痛みや腫瘍による圧迫を和らげるために使用されるケースが多いです。

    スキルス胃がんの新たな治療法の開発

    2021年に発表された国立がん研究センターを中心とする共同研究では、スキルス胃がんの腹膜播種症例において、腹水細胞の全ゲノム解析が行われました。この結果、特徴的な遺伝子異常が数多く同定され、しかも全体の約4分の1が既存の分子標的薬剤の有効性が期待できる遺伝子異常であったとの結果でした。このような研究が現在も複数行われており、今後も治療の進歩が期待されます。

    スキルス胃がんの予防方法

    胃がんのなかでも特にスキルス胃がんは早期発見が難しいため、定期的な検査を受けることが推奨されます。スキルス胃がんの予防方法について、以下のポイントをご参考ください。

    がんになりにくい健康的な生活習慣(1次予防)

    生活習慣の改善は、胃がん全般のリスクを低減する効果が期待できます。

    喫煙は胃がんのリスクを大幅に高めるため、早めの禁煙が推奨されます。過度な飲酒はせず、適量を守りましょう。塩分の過剰摂取を避け、新鮮な野菜や果物を豊富に含んだ食生活を心がけましょう。抗酸化物質を多く含む食材は、胃の炎症をおさえます。

    体重を適正に維持し、日常的な運動を習慣化することで、体全体の健康を守り、がんリスクを減らせます。

    最重要なピロリ菌対策

    ピロリ菌感染は、胃がん全体の主要なリスク要因です。ピロリ菌検査を受け、感染が確認された場合は早急に除菌治療を行うことが推奨されます。ピロリ菌の除菌により、将来的な胃がん発症リスクを大幅に低減できます。

    若年の方や全身状態によってはピロリ菌の感染診断が正確でないこともあります。一度ピロリ菌陰性と診断されたとしても、胃の症状がつづく場合は再検査について医師と相談してください。

    遺伝的リスクの把握

    家族に50歳未満でのスキルス胃がんの既往歴がある場合や50歳未満での胃がんや乳がんの既往歴が複数ある場合は遺伝的なリスクが高い可能性があります。医師と相談し、必要に応じて遺伝カウンセリング(自費診療)を受診して、個別のリスクに応じた対策を取りましょう。

    がんの早期発見(2次予防)

    スキルス胃がんは初期症状が乏しいため、わずかな体調の変化にも敏感になることが大切です。貧血・胃の不快感・食欲不振・体重減少などの症状が見られた場合は、すぐに医療機関を受診し、適切な検査を受けましょう。

    またスキルス胃がんは進行が速く、早期発見が難しいことがあるため、胃がんリスクがある方に関しては定期的な検査が最も効果的な2次予防策となります。症状がなくても、特にピロリ菌に感染していたことがある方や胃がんの家族歴がある方は、少なくとも2-3年に1回の胃内視鏡検査が推奨されています。定期的な検診を怠らないことが重要です。

    一方でピロリ菌に感染したことがなく、胃粘膜の萎縮がない方の場合は胃がんになる危険性は非常に低いため、自費での検診や症状があるときの検査を除いては、定期的な内視鏡検査はあまり勧められません。

    スキルス胃がんに関するよくあるご質問

    スキルス胃がんは、通常の胃がんとどう違いますか?

    がん細胞の形態と進行の仕方に違いがあります。

    一般的にスキルス胃がんと呼ばれるがんは低分化腺癌や印環細胞癌と呼ばれる悪性度の高いがん細胞で構成されます。一つ一つの細胞がバラバラに胃壁や胃の組織にしみこむように進行します。胃壁全体に広がり、胃壁を厚くし硬くする特徴があります。また、早期に腹膜播種や遠隔転移を起こしやすいという特徴も持ちます。

    スキルス胃がんは、胃壁に判別しやすい病変を作らないことがあるため、内視鏡検査の質が低い場合は発見が遅れることがあります。特に比較的若年の方に発生した場合に、一般的にはがん年齢と考えられていないことから受診のタイミングが遅れ、進行がんとして発見されることが多いのも残念なことです。

    一般的な胃癌は中分化~高分化管状腺癌とよばれる細胞で構成されることが多く、胃内でがん細胞の塊を作りながら徐々に周囲に広がり増大するため、ある程度のサイズになれば内視鏡検査で発見しやすいと考えられます。またスキルス胃がんに比べて年齢層が高く、定期の検診などを受診する機会に発見されることが多いようです。

    スキルス胃がんの予後、生存率は?

    5年生存率が約10%前後と非常に低いがんとされています。

    スキルス胃がんは進行が速く、がん細胞の悪性度が高い低分化型腺癌や印環細胞癌で構成されることが多く、発見時には既に腹膜や骨髄などに転移していることが多いです。

    また、通常の胃がんは早期がんから進行がんまでを含めた5年生存率が70%を超えますが、スキルス胃は5年生存率が約10%前後と非常に低い結果となっています。 スキルス胃がんは通常の胃がんと比べて早期発見が難しく、治療が困難な「難治がん」として知られています。そのため、新たな治療法の開発が重要な課題となっています。

    スキルス胃がんと診断された場合、頻回の通院が必要になりますか?

    スキルス胃がんと診断された場合、化学療法(抗がん剤)や手術を組み合わせた集学的な治療が必要となるため、治療のスケジュールが安定するまでは1-2週間の1回の受診が必要になると考えられます。一般的に各種の検査(CT検査や採血など)は外来で行いますが、抗がん剤の初回治療では1-2週間程度の入院が必要な場合もあります。

    定期受診の具体的な頻度や内容については、必ず担当医と相談し、個々の状況に応じた最適な治療計画を立てることが重要です。

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    こちらの記事の監修医師

    船越 真木子

    まきこ胃と大腸の消化器・内視鏡クリニック船越 真木子 先生

    近年、胃がん・大腸がんや食道がん、咽頭がんは早期発見で治せる時代になってきました。
    これまでに数々の病変を診断し、治療してきた内視鏡専門医の目とAIで早期の病変をとらえ、つらくない、新しいカタチの内視鏡検査を提案します。
    また、内科専門医の経験を生かし、生活習慣病の診断・治療も積極的に行います。地域を支える皆様が毎日を健やかに過ごせるよう、精一杯努めさせていただきます。

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