最終更新日:2023.11.13

気胸(ききょう)とは?症状と原因、自然気胸のステージ別の治療を解説

気胸(ききょう)とは?症状と原因、自然気胸のステージ別の治療を解説

気胸(ききょう)とは、肺がなんらかの要因で破れてしまい、しぼんでしまう病気です。肺気胸(はいききょう)とも呼ばれます。

気胸はその原因によって、いくつか種類があります。その中のひとつとしてあげられる自然気胸(しぜんききょう)は、10〜20代の長身で細身スタイルの方がかかりやすい傾向にあります。若い世代に人気の芸能人が発症を報告して話題になったこともあり、「イケメン病」と呼ばれることもあるようです。

今回は、呼吸器・肺の疾患を専門的に診療している医師に監修していただき、気胸の症状と原因、そしてステージ別の治療を解説していただきます。

気胸(ききょう)とは

気胸はまるでタイヤがパンクするように肺が破れ、そこから空気が漏れ出て縮んだ状態となる病気です。肺から空気が漏れ、そして漏れ出た空気が肺を圧迫することでどんどん縮んでいきます。

軽度の場合は自然と治っていくことが多く、命にかかわることはほとんどありません。しかし、重症化すると深刻な呼吸障害が起こることもあるため注意が必要です。呼吸困難が急激に進行した場合は救急搬送が必要となり、すぐさま治療しなければならないケースもあります。

また、破れてしまった肺が正常に戻るまでには、息切れや胸痛などの症状があり、スポーツなどの激しい運動は制限されるほか、体を動かす仕事や飛行機による移動など、日常生活でも制限されることが出てきます。

いったん治っても再発する場合もあるため、再発をなるべく減らすために治療をしっかりと続け、生活習慣の見直しも行うことが大切です。

気胸の原因と種類

気胸は発症の原因が明確なものと、そうではないものに分けられます。

原因が明確な気胸

交通事故や転落などで胸膜を損傷し、気胸を発症するケースです。これを、外傷性気胸(がいしょうせいききょう)といいます。

特別な原因がない気胸

これといった原因がなく、自然に発症してしまうケースです。これを、自然気胸(しぜんききょう)といいます。
この自然気胸は女性に比べて男性に起こりやすい傾向が強いです。

自然気胸はさらに「続発性気胸」と「原発性自然気胸」との2つに分類されます。

続発性自然気胸

続発性(ぞくはつせい)自然気胸は、もともと持っていた肺疾患が引き金となり、気胸を発症するケースです。とくに喫煙が大きく関係するCOPD(慢性閉塞性肺疾患)などの病気は、気胸を発症する要因として考えられています。喫煙習慣のある高齢者がかかりやすい傾向があります。

そのほか、遺伝病の「Birt-Hogg-Dube症候群」や「リンパ脈管筋腫症(LAM)」などの病気でも、特殊な肺嚢胞の生成が原因となって、気胸を発症する例が報告されています。

女性の場合は、月経随伴性気胸(げっけいずいはんせいききょう)という、女性特有の気胸にかかることもあります。

原発性自然気胸

原発性(げんぱつせい)とは、原因となる病気がない症例や、原因不明の場合に付けられます。運動時のケガや交通事故による衝撃、病気などの明らかな要因がない場合は、原発性自然気胸と診断されます。

気胸の患者さんは肺の一部に肺嚢胞(はいのうほう)という袋のような部分ができ、そこが破れて穴が開いているのを確認できます。なぜ肺嚢胞が発生したり破れたりするのかは、今のところはっきりしていません。

気胸(ききょう)の症状

一般的な気胸の症状としては、突然の胸の痛みや呼吸困難が挙げられます。心臓の病気にかかっている場合でも、胸が痛むことは少なくありません。一方で、肺に影響を及ぼす気胸は、深呼吸をすると痛みを感じることがあり、また胸だけではなく背中が痛むこともあります。

呼吸困難は発症前の肺の状態によって、軽度から重度までさまざまです。
たとえ軽度でも少しずつ進行し、いつのまにか重症化することもあるので注意が必要です。

重症化した場合は肺から大量に空気が漏れ出て、心臓まで圧迫してしまいます。すると血圧が低下して、臓器の酸欠による多臓器不全(ショック状態)のリスクもあります。

気胸が左右の肺で同時に発症した場合は、呼吸困難が長く続く危険性があるため、すみやかに治療や手術をしなければなりません。また、重症化している場合や症状がひどくなっている場合は、飛行機に乗っているときなどに気胸が起こる確率が高くなるので、状態によっては搭乗を制限した方が良いと判断されます。

肺気胸の初期症状は?

気胸の発症から比較的早い段階では、

  • 息苦しさ
  • 胸の痛み
  • 肩・鎖骨周辺の違和感
  • 背中の痛み

以上の初期症状があげられます。

これらの症状は、前触れなく突然現れます。

自覚症状がない段階でも、胸部X線検査などで偶然発見される方も多いです。

自然気胸の原因と特徴

肺の表面には肺嚢胞(はいのうのう)とよばれる薄い膜でできたシャボン玉のような袋ができることがあります。自然気胸の場合は、この肺嚢胞が巨大化し破裂して肺が縮み、気胸になることが多いようです。この肺嚢胞は英語で「ブラ」とよばれます。

肺に穴が開くと一定時間、空気が漏れますが、たいていすぐに閉じて、漏れた空気は血液に溶け込んで次第に消失します。しかし、悪化すると、穴が開いたままで空気が漏れ続けるようになります。また、治療後も再発しやすいという特徴があります。

自然気胸の患者さんは10代後半〜20代、30代に多く、その多くはやせ形で胸の薄い男性です。軽症の場合、ほとんどは完治しますが、若者の自然気胸は再発しやすい傾向にあります。

自然気胸を起こす病気

COPD(慢性閉塞性肺疾患)と自然気胸

COPDは、喫煙などの影響で気管支が慢性的に炎症する病気です。鼻や口から取り込まれた空気は、気道を通過する形で肺胞まで届けられます。

通常、肺胞では酸素と二酸化炭素が交換されていますが、COPDになると気道が狭くなってしまい肺胞が壊れてしまうこともあります。これを「肺気腫」といい、気胸の発症要因になりやすい状態です。COPDかつ肺気腫がある場合は、徹底して禁煙することが重要です。

間質性肺炎(かんしつせいはいえん)と自然気胸

肺には空気の通り道として気管支があり、それが枝分かれしながら肺胞(はいほう)という袋状の組織と結びついています。
この肺胞の壁を間質(かんしつ)と呼び、ここに炎症や線維化が起こっている状態が間質性肺炎です。

線維化した組織がひきつれを起こすようにして肺嚢胞ができると、気胸につながります。
とくに肺の上部が線維化している場合は、気胸のリスクが高くなるといわれています。

女性の自然気胸の原因と特徴

女性は月経周期と同じようなタイミングで、月経随伴性気胸(げっけいずいはんせいききょう)になる場合があります。この病気は子宮内膜が胸膜にできることがかかわっており、月経前後に発症するという特徴を持っています。

原因としては、月経時に横隔膜に穴が開くことで空気が胸腔に空気が入ること、あるいは肺に子宮内膜症があり月経時に穴が開くことが考えられます。

もともと気胸は女性には少ない病気で、女性がかかった場合は月経随伴性気胸である可能性が高いといわれています。具体的な治療内容は症状の有無や程度、再発の回数などを考慮しながら決めていきます。

気胸(ききょう)の検査・診断

気胸は左右片方の肺に起こることが多い病気です。そのため、検査では胸に聴診器を当てて、左右の肺の呼吸音を聴き比べることで異常がないか確認します。また、胸部エックス線検査で、肺の状態(しぼみがあるかどうか、肋骨などが刺さっていないか)を確認できます。

検査の結果、気胸に該当する場合は発症の仕方や重症度をもとに、治療方針が決められていきます。

外来通院が可能な軽度、入院治療が必要になる中等度、入院による持続療法が必要になる高度に分類します。

加えてCT検査によって、胸膜の癒着の有無や、肺気腫などの基礎疾患の有無なども詳しく調べていきます。

気胸のステージ(重症度) – 自然治癒する?

胸部レントゲン検査によって気胸が認められた場合、ステージ(重症度)の診断を行います。

軽度気胸 肺のてっぺん部分(肺尖:はいせん)が、鎖骨よりも上の方にある。
中等度気胸 肺尖が、鎖骨よりも下の方にある。
高度気胸 肺がしぼんできいる(肺の虚脱:きょだつ)。
緊張性気胸 肺の虚脱によってさらに肺から空気が漏れ続け、心臓に戻る血液が減少するリスクがある。


軽度気胸の段階でとくに症状がない場合は、外来で胸部レントゲン検査を行い、入院せずに経過観察する場合があります。肺の穴が再開通しないことが認められれば、漏れていた空気も自然に血液へ溶けてなくなります。(自然治癒)

一方で、たとえ軽度気胸でも、なんらかの症状(痛みや呼吸困難など)がある場合は、入院して病態・症状の経過をみていくことが推奨されます。中等度〜高度の気胸、そして緊張性気胸は入院が必要です。

気胸(ききょう)の治療

気胸は重症度によって治療方法が変わります。

軽度の気胸の場合

症状がほとんどみられない軽度の気胸は、経過観察中に穴が自然とふさがっていくこともあります。まずは入院せずに安静に過ごしつつ、外来で胸部レントゲン検査を定期的に受けるだけで問題ない場合が多いです。

肺の穴がふたたび開くようなことがなければ、漏れていた空気はやがて血液に溶けてなくなるので、1~3週間で快方に向かうと考えます。しかし、もし軽度でも痛みや呼吸困難などの症状がみられる場合は入院した方が安心です。

中等度または高度気胸の場合

入院して胸腔(きょうくう)ドレナージという治療を行います。この治療では、胸に局所注射の麻酔を施し、管(チェストチューブ)を入れて胸腔内の空気などを追い出します。

このとき、管は箱(チェストドレーンバッグ)につながっており、空気を外に排出しつつ逆流を防ぐ仕組みになっています。管が入っている状態でも、箱を持ち歩く形でトイレや歩行が可能です。肺が膨らんできて管からの空気漏れがなくなったタイミングで、管を抜去します。その後、肺の膨らみ具合に問題がなければ退院です。

肺から空気がどんどん漏れ続けてしまう状態は、重度の気胸と判断されます。胸腔内の気圧が高くなり、肺に血液が戻るときの経路の役割を果たす肺静脈を圧迫してしまうことで、心臓に血液が戻らなくなってしまいます。これを緊張性気胸といいます。

緊張性気胸は命の危機となる場合があるので、すぐに胸腔ドレナージを行わなければなりません。心臓に血液が来ないということは、心臓の収縮時に血液を体に送ることができない状態であり、血圧が低下してショック状態となり、命が脅かされるケースもあります。そうならないように、一刻も早く胸腔内の空気を出し、気圧の高い状態から抜け出すことが重要です。

命の危険があって一刻を争うような状況なので、菅を挿入して気圧を下げる処置を優先的に行います。その後、肺が膨らみ、管からの空気漏れがみられなければ管を抜きます。治療を終えて、肺がしっかり膨らんでいることが確認できたら、退院することができます。

胸腔ドレナージをしても孔がふさがらない、再発を繰り返している、気胸が左右の肺に同時に発症しているといった場合は手術を検討します。

近年では、カメラや手術器具を胸腔内に挿入してのう胞を切除する「胸腔鏡手術」が選択されることが多いです。手術を受けると再発のリスクが下がるというメリットがあるので、若い患者さんは手術を受ける方がほとんどです。

ただし、「続発性自然気胸」の場合は基本的に手術はなしで、薬剤注入などの保存的治療がメインとなります。

気胸の治療後、術後に気をつけること

気胸は再発率が高い病気でもあり、患者さんの3〜15%が再発すると考えられています。特に20歳以下の場合、再発することが多いので、治療後も注意が必要です。一度右側の肺に発症し、再発時も右側の肺に発症する例があれば、右側の肺に発症したあと、左側の肺に発症する例もあります。

また、気胸の再発防止には、禁煙の徹底が欠かせません。喫煙の習慣があると、気道炎症が慢性化しやすく、肺気腫の発症リスクを高めることにもなります。慢性気管支炎や肺気腫の方は、続発性の気胸になる危険性を持っています。

合わせて生活習慣の見直しを図りましょう。食生活では、バランスの良い食生活を心がけて栄養をしっかり摂ることや、規則正しい生活を送ることも意識しましょう。これらの取り組みが、再発防止につながります。

注意が必要な日常シーン

飛行機やスキューバダイビングには注意が必要です。気胸を発症しているときはもちろん、手術を行った直後も飛行機には乗らないようにしましょう。飛行機に乗ると、気圧が地上の約7〜8割にまで低下して、肺に大きな負担がかかります。手術後およそ1ヶ月程度は飛行機には乗らないようにしてください。

また、過去に気胸になったことのある方は、スキューバダイビングはできません。スキューバダイビング中に突然気胸を再発した場合、海中から上がってくることができないため、死亡事故が起こる可能性があります。

気胸(ききょう)に関するよくあるご質問

気胸は何科を受診する?

肺気胸が疑われる場合、呼吸器外科、呼吸器内科、内科のいずれか受診してください。

呼吸器の専門医がいる病院が近くにある場合は、そこを受診するといいでしょう。女性で、月経随伴性の気胸かもしれないという場合は、治療時に婦人科との連携が必要なので、まずはかかりつけの婦人科に相談するという方法もあります。

気胸の後遺症は?

年齢が若い方であれば、気胸の胸腔鏡下手術で合併症や後遺症を引き起こすことはまれです。

ごく限られたケースですが、術後に肺からの空気の漏れが続くことがあるので、 癒着療法で対処します。 高齢の場合は、気胸だけでなく低呼吸機能、肺気腫等の危険因子を持っている例が多く、それに該当する方は呼吸不全や肺炎などの合併症が起こることがあります。

気胸の安静程度、手術後の運動制限は?

気胸になっても軽度で症状がなければ問題はありません。術後は医師の指示に従いましょう。

胸部レントゲン検査によって軽度の気胸と診断された場合でも、症状がなければ基本的には入院の必要はなく、自宅で安静すれば問題ありません。安静にしていることで自然治癒します。肺に開いた孔が徐々にふさがります。胸腔内に漏れた空気も自然と体内に吸収されて、だんだんと肺が膨らんできます。

気胸の治療を行なった場合は、病態の程度にもよりますが、数日おきに外来でレントゲン検査を行い、肺が少しずつ大きくなっているかどうかをチェックします。個人差はあるものの、1週間程度で元の状態まで回復することが多いです。

気胸の手術後は、運動を制限する必要はなく、運動によって再発リスクが高まるといったことも特にありません。ただ、手術の傷が痛むことから、すぐには激しい運動ができない状態である方が多いです。

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こちらの記事の監修医師

鎌田 広基

鎌田内科クリニック鎌田 広基 先生

岩手県盛岡市の鎌田内科クリニック、院長の鎌田です。昭和42年1月19日、当地に父が診療所を開設し、平成5年に小生が着任して現在に至っております。その間、平成8年に老人保健施設”銀楊”の開所により、父はその施設長、小生は当院の院長に就任しました。

当クリニックがこれまでの歳月を歩むことができたのは、ひとえに、皆様のお力添えのおかげと、深く感謝しております。
地域医療の益々の発展と、皆様が健康で豊かな毎日を過ごしていただけるように、スタッフ一同、より一層精進して参ります。今後とも鎌田内科クリニックを宜しくお願い致します。

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