多発性骨髄腫とは?初期症状と予後 – 再発率・生存率を解説

体の中には骨髄(こつずい)という場所があり、そこでは血液の成分が作られています。多発性骨髄腫は、骨髄で作られる特定の血液細胞が異常に増えてしまう病気、すなわち「血液のがん」です。
以前は効果的な治療法があまりなかったのですが、近年では新しい薬が次々に開発され、良好な治療成績が期待できるようになっています。
本記事では医師に監修していただき、血液のがん「多発性骨髄腫」の初期症状と治療法、予後と再発率・生存率について解説しています。
目次
多発性骨髄腫とは?
骨髄には血液の元になる細胞(造血幹細胞)が無数に存在し、これらの細胞がさまざまな血液細胞に育っていきます。この成長過程で「がん化」が起こるのが血液のがんです。どの段階でもがん化が起こる可能性があるため、血液のがんには非常に多くの種類があります。
多発性骨髄腫は血液のがんの1つ、骨髄中でつくられる白血球の一種であるBリンパ球(B細胞)から生成される「形質細胞」が「がん化」する病気です。
普段、この細胞は体を守るための兵士のような役割をしています。風邪や病気の原因となるウイルスや細菌が体内に侵入した場合に、それらを撃退するための武器として免疫グロブリンという抗体を専門につくり、体を守っています。
しかし、形質細胞ががん化すると異常な骨髄腫細胞となり、一部の細胞が制御を失い勝手にどんどん増えてしまいます。この骨髄腫細胞は、病原体を攻撃する能力のない異常な免疫グロブリン(Mタンパク)を大量につくり続けます。そのため、本来は体を作るために必要な正常な免疫グロブリンが減ってしまい、感染症などの病気にかかりやすくなるのです。
Mタンパクは外敵を攻撃できず免疫として機能しないばかりか、体にとって有害です。Mタンパクの一部がアミロイドという物質になり、腎臓や心臓にたまるアミロイドーシスという重篤な障害を起こします。また血液をドロドロにして、血流を妨げるなどの悪さをします。
血液は全身をくまなくめぐっているため、血液のがんになると全身に症状が現れやすい特徴があります。
多発性骨髄腫の生存率
多発性骨髄腫の原因は不明
骨髄腫細胞にはさまざまな遺伝子や染色体の異常が起こっていますが、多発性骨髄腫の原因はまだはっきりとわかっていません。
現在は喫煙や飲酒などの生活習慣をはじめ、放射線やアスベストなどの発がん性のある化学物質に長期間にわたって触れることなど、環境的な要因が推測されています。しかし、その因果関係は明らかになっていません。
また、家族間で発症するケースもみられますが、遺伝との関連性もまだ推測の域に留まっており、明確にはなっていません。
多発性骨髄腫になりやすい人
まれに30〜40歳代の比較的若い世代に発病する場合もありますが、基本的にはご高齢の方に多い病気です。診断時の年齢も、ほとんどの場合が60歳以上の方です。また、女性よりも男性にやや多いというデータがあります。
多発性骨髄腫の初期症状
多発性骨髄腫は初期段階では自覚症状がないことが多いです。やがて病態が進行するとさまざまな症状がみられるようになります。
そのため近年では、健康診断などの血液検査で異常が発見され、そのまま精密検査をした際に多発性骨髄腫と診断されるケースが多くなっています。
多発性骨髄腫の進行と主な症状
血液は全身をめぐっているため、血液のがんである多発性骨髄腫はさまざまな症状がみられます。
主となる症状としては、
- 腰の痛み
- 背中の痛み
- 肋骨の痛み
- 圧迫骨折
- 貧血を伴う倦怠感
があげられます。
骨髄腫細胞は骨の中で生き延びるためにサイトカイン(生理活性物質)を放出し、骨を壊す破骨細胞を刺激します。そのため、骨が溶けてしまい、骨密度が低下して、骨が脆くなります。
とくに骨髄が多い骨盤や背骨、肋骨、頭蓋骨の骨が溶けやすく、病的な骨折が認められることもあります。このように、骨の痛みや病的な骨折など、骨にかかわる症状がみられます。
腰痛などに悩まされて整形外科を受診して、初めて多発性骨髄腫が発見される例も少なくありません。
CRAB症状(読み方 – クラブ)とは
多発性骨髄腫の症状には、
- 造血機能の障害による貧血症状、出血症状
– だるさ・息切れ・動悸・頭痛、鼻血 など - 破骨細胞の活発化による骨の破壊
– 骨の痛み、病的骨折 - 骨破壊に伴う高カルシウム血症
– 筋力低下、口の渇き、意識障害 など - 腎臓障害
– 腎不全、むくみ、尿量減少、乏尿(ぼうにょう)、倦怠感
などがあります。
これらの症状の頭文字(英字)をとり、
- 高カルシウム血症(hyper Calcemia)
- 腎臓障害(Renal failure)
- 貧血(Anemia)
- 骨の破壊(Bone lesions)
CRAB症状(読み方 – クラブ)と呼ばれています。
多発性骨髄腫の検査診断
多発性骨髄腫は初期症状に乏しい病気です。そのため、健康診断の血液検査や尿検査をはじめ、腰痛などで整形外科を受診した際の骨のX線画像などをきっかけに病気の発症を疑われ、精密検査へと移行するケースが多いです。
検査・診断のながれとしては、血液検査、尿検査によって他の病気の可能性を除きながら絞り込みを行い、最終的には骨髄検査によって確定診断します。
以下の検査の結果、骨髄生検により骨髄腫細胞が認められ、臓器障害がある場合などに多発性骨髄腫と診断されます。
血液検査
血液を作る機能にかかわる赤血球や白血球、血小板の数などをくわしく調べます。これらの数値は初期段階では正常なことも多いですが、病態が進行するといずれも減少して、貧血の症状があらわれます。
病気の進行度や全身状態を知るために、総タンパク量、骨の溶解をあらわすカルシウムの濃度、腎障害の有無を示すクレアチニン値、Mタンパクの型や量、β2-ミクログロブリンと呼ばれる小さなタンパクやアルブミンの値なども調べます。腎障害が進行すると、クレアチン値が上昇し、骨病変があるとカルシウム値が高くなります。
尿検査
24時間の尿をすべて集める全尿検査を行い、含まれるタンパク質の量と種類を分析します。多発性骨髄腫では、尿タンパクが陽性になります。
また、Mタンパクの構成成分である「ベンス・ジョーンズタンパク(BJP)」の有無も調べます。約半数の方に、このタンパクが認められます。合わせて、腎機能低下の検査も実施します。
骨髄検査
多発性骨髄腫の可能性が高いときは、骨髄検査を行い、診断を確定します。また、染色体検査で骨髄腫細胞の性質や、表面抗原と呼ばれる細胞表面のタンパク質のパターンを調べ、悪性度を判定します。
骨髄以外の組織に腫れがあるときには、その細胞も採取してくわしく調べます。
画像検査(X線・CT・MRI)
全身の骨の状態を調べるために、X線検査、CT検査、MRI検査、PET検査などの画像検査を行います。
背骨の圧迫骨折をはじめ、その他の病的な骨折、溶骨(骨が溶けること)などの有無をチェックします。骨が溶けている場所は、X線検査で黒い打ち抜き像としてあらわれます。
多発性骨髄腫の治療
多発性骨髄腫の予後・再発率
こちらの記事の監修医師
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