はい、あります。いわゆる「やせ型脂肪肝(lean NAFLD/MASLD)」と呼ばれるタイプです。
体格指数(BMI)が正常でも、内臓脂肪が多い場合や、遺伝的体質、筋肉量の少なさなどが関係して発症することがあります。多くは、基礎代謝が低下している人が多いと考えられています。体重だけで判断せず、血液検査や画像評価を含めた総合的な判断が大切です。
健康診断で「脂肪肝ですね」と指摘されたものの、特に症状もなく、そのままにしていませんか。
お酒をあまり飲まないから大丈夫。数値も少し高いだけだから心配ない――。
そう考えている方の中に、実は将来の肝硬変や肝がんにつながるリスクを抱えている方が少なくありません。それが MASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎) です。
MASHは、いわば「炎症を伴う脂肪肝」。自覚症状がほとんどないまま進行することから、“沈黙の肝炎”とも呼ばれています。さらに近年では、肝臓だけの病気ではなく、糖尿病や心筋梗塞、脳卒中とも深く関わる全身疾患の入り口であることが明らかになってきました。
本記事では、消化器専門医の視点から、
を、わかりやすく解説します。
健診結果を「経過観察」で終わらせないために。
まずは、MASHの正体を正しく知ることから始めましょう。
※非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は現在『代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)』に変更されました
目次
MASHは、正式には代謝機能障害関連脂肪肝炎と呼ばれます。アルコールが原因ではないにもかかわらず、肝臓に脂肪がたまり、さらに炎症や細胞の傷害が起きている状態を指します。
まず知っておきたいのは、「脂肪肝」には段階があるということです。
この“炎症の有無”が、決定的な違いです。
単純性脂肪肝の多くはすぐに重症化するわけではありませんが、MASHになると話は変わります。炎症が続くことで肝臓の組織は徐々に傷つき、修復の過程で線維化が進みます。
問題なのは、ほとんど自覚症状がないことです。
疲れやすさや軽い倦怠感を感じる方もいますが、多くは無症状。だからこそ、健診で偶然見つかるケースがほとんどです。
近年、肥満や糖尿病、脂質異常症の増加に伴い、MASHは確実に増えています。「お酒を飲まないのに肝臓が悪い」という時代が、すでに現実になっています。
MASHが怖い理由は、「進行する可能性がある」ことです。
進行の流れは、次のようになります。
すべてのMASHが肝硬変や肝がんになるわけではありません。しかし、線維化が進行したケースでは、将来的な発がんリスクが明らかに高くなることがわかっています。
さらに注意すべきは、肝硬変になる前でも肝がんが発生することがある点です。
また、肝臓は“沈黙の臓器”と呼ばれ、かなり悪化するまで症状が出ません。黄疸や腹水などの症状が出たときには、すでに進行していることもあります。
「脂肪肝と言われただけ」
「数値が少し高いだけ」
その段階でリスクを正しく評価することが、将来を大きく左右します。
これまで、アルコールを原因としない脂肪肝はNAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)と呼ばれてきました。
しかし2023年、国際的な専門家会議により新しい名称が提唱されました。
それが MASLD(Metabolic dysfunction–associated steatotic liver disease)、日本語では「代謝異常関連脂肪性肝疾患」です。
この変更には、大きな意味があります。
従来の「非アルコール性」という名称は、“お酒が原因ではない”という消極的な定義でした。一方、MASLDは「代謝異常が背景にある病気」であることを明確にしています。
代謝異常とは、
といった生活習慣病の要素です。
つまり脂肪肝は、単独の肝臓病ではなく、全身の代謝バランスの乱れを映す“鏡なのです。
この視点の変化は、「肝臓だけを診る」のではなく、「全身を診る」医療へと舵が切られたことを意味します。
次章では、なぜ脂肪肝が“全身疾患の入り口”と言われるのかを、さらに詳しく解説していきます。
MASHやMASLDが注目されている理由は、「肝臓の病気」にとどまらないからです。
実は、脂肪肝の患者さんの死亡原因として多いのは、肝不全よりも心血管疾患(心筋梗塞・脳卒中など)であることが知られています。
なぜ、肝臓の炎症が血管の病気につながるのでしょうか。
ポイントは「慢性炎症」です。
脂肪が蓄積した肝臓では、炎症性サイトカインと呼ばれる物質が分泌されやすくなります。これらは血流に乗って全身を巡り、血管の内側(内皮)を傷つけます。その結果、
といった変化が起こります。
つまりMASHは、「肝臓の炎症」から「全身の血管炎症」へと波及する可能性があるのです。
健診で脂肪肝を指摘された方が、同時に高血圧や脂質異常症を抱えていることは珍しくありません。それぞれを別の病気として扱うのではなく、一つの代謝異常の連鎖として捉える視点が重要です。
MASHの中心にあるのが「インスリン抵抗性」です。
本来、インスリンは血糖を細胞に取り込ませるホルモンですが、インスリン抵抗性があると、体は効きにくい状態になります。その結果、血糖値が上がりやすくなり、膵臓はさらに多くのインスリンを分泌します。
この高インスリン状態が、
を引き起こします。
つまり、
インスリン抵抗性
↓
肝脂肪の増加
↓
炎症の悪化
↓
さらにインスリン抵抗性が進む
という負のスパイラルが生まれます。
実際、2型糖尿病を持つ方ではMASHの合併率が高いことが知られています。また逆に、MASHの方は将来的に糖尿病を発症するリスクも高いとされています。
血糖値が「少し高め」な段階から、肝臓への影響は始まっている可能性があります。
肝臓は単なる解毒臓器ではありません。
など、全身のエネルギー代謝をコントロールする「司令塔」の役割を担っています。
この司令塔が炎症を起こし、機能が乱れると、影響は全身へ波及します。
など、多臓器に関連することが報告されています。
だからこそ、脂肪肝は「肝臓の問題」ではなく、「全身代謝の警告サイン」と考えるべきなのです。
健診で脂肪肝と指摘されたとき、それは単なる肝機能異常ではなく、「体全体のバランスが崩れ始めていますよ」というメッセージかもしれません。
次章では、こうしたリスクを見逃さないための、最新のスクリーニングと検査について詳しく解説します。
MASHは、自覚症状がほとんどないまま進行することがあります。そのため、「症状がないから大丈夫」ではなく、客観的なデータで状態を確認することがとても大切です。
ここでは、現在行われている標準的な検査と、その意味をわかりやすくご説明します。
脂肪肝が疑われたとき、まず確認されるのがASTやALTといった肝酵素の値です。
これらは、肝臓に炎症があると上昇することが多いため、重要な指標の一つです。
しかし実際には、
MASHが隠れていることがあります。
つまり、「数値が正常だから安心」とは言い切れないのです。
特に、
は、数値だけで判断せず、もう一歩踏み込んだ評価が望まれます。
血液検査はとても大切ですが、あくまで最初の手がかりと考えるとよいでしょう。
MASHで将来のリスクを左右するのは、「線維化(肝臓が硬くなる変化)」の進行度です。
そこで活用されているのが FIB-4 Index という指標です。
これは、
といった、すでに行われている血液検査のデータから計算できます。
特別な検査を追加しなくても評価できるため、多くの医療機関で用いられています。
FIB-4により、
といった目安をつけることができます。
「脂肪肝」と言われたときには、一度はこのような指標で線維化のリスクを確認しておくことが、安心につながります。
近年は、体に負担をかけずに肝臓の状態を詳しく調べられる検査が普及しています。
お腹にゼリーを塗って機械を当てる検査です。
痛みはなく、脂肪のたまり具合を確認できます。
健診でもよく行われる基本的な検査です。
肝臓の「硬さ」を数値で測定できる装置です。短時間で終わり、基本的に痛みもありません。
これにより、
を客観的に評価できます。
以前は正確な線維化評価のために肝生検(針で組織を採る検査)が必要でしたが、現在では多くの場合、こうした非侵襲的検査で状態を把握できます。
また、フィブロスキャンは、肝臓の「硬さ」(線維化)に加えて、「脂肪量」(脂肪肝の程度)も測定できるために、脂肪肝を診断し、フォローするのには欠かせないツールです。肝臓を専門とするクリニックや病院など置いている施設は限られており、事前に確認が必要です。
専門外来では、次のような流れで評価が行われます。
線維化の進行度は、一般的に以下のように分類されます。
特にF3以上になると、将来的な合併症リスクが高まるため、定期的なフォローが重要になります。
大切なのは、「脂肪肝」と言われた段階で終わらせないことです。今のご自身の状態を正しく知ることが、将来の安心につながります。
次章では、MASH・脂肪肝を改善するために、どのような対策が効果的なのかを丁寧に解説していきます。
「脂肪肝と言われたけれど、どうすればいいのかわからない」
「体重を減らせばいいとは聞くけれど、何から始めればいいの?」
そのようなご相談はとても多くあります。
MASHや脂肪肝の改善は、根性論ではありません。
正しい知識に基づいて、無理のない方法を積み重ねることが大切です。
ここでは、現在の標準的な考え方をわかりやすくご説明します。
脂肪肝と聞くと「脂っこいものを控えればいい」と思われがちですが、実はそれだけではありません。
特に注意したいのが「果糖(フルクトース)」です。
果糖は、
などに多く含まれています。
果糖は肝臓で直接代謝され、中性脂肪を作りやすいという特徴があります。そのため、甘い飲み物の習慣は脂肪肝悪化の大きな要因になります。
一方で、脂質をすべて避ける必要はありません。
は、炎症を抑える方向に働くとされています。
大切なのは「量を減らす」だけでなく、「質を整える」ことです。
体重の5〜7%程度の減量でも、肝脂肪や炎症の改善が期待できるとされています。急激なダイエットではなく、持続可能な食習慣を目指しましょう。
運動は、肝脂肪の減少に非常に有効です。
ポイントは「有酸素運動」と「筋力トレーニング」の両方を取り入れることです。
ウォーキング、軽いジョギング、サイクリングなど。
週に合計150分程度が目安とされています。
スクワットや軽いダンベル運動など。
筋肉量が増えることで、基礎代謝が上がり、インスリン抵抗性の改善にもつながります。
重要なのは、「激しい運動」ではなく「継続できる運動」です。
毎日10〜15分からでも構いません。
エレベーターを階段に変える、1駅分歩くなど、日常生活の中で活動量を増やすことも十分意味があります。
現時点で、MASHに対する第一選択は生活習慣の改善です。
ただし、
には、糖尿病治療薬などが肝臓にも良い影響を与えることが報告されています。
また近年、MASHに特化した新しい治療薬の開発が進んでいます。線維化の改善を目指す薬剤も登場しており、今後の治療選択肢の広がりが期待されています。
ただし、どの治療が適しているかは、線維化の進行度や合併症によって異なります。
自己判断でサプリメントに頼るのではなく、専門的な評価のもとで治療方針を決めることが大切です。
MASHや脂肪肝は、早い段階であれば十分に改善が期待できる病気です。「まだ大丈夫」ではなく、「今から整える」という視点が、10年後、20年後の健康を守ります。
はい、あります。いわゆる「やせ型脂肪肝(lean NAFLD/MASLD)」と呼ばれるタイプです。
体格指数(BMI)が正常でも、内臓脂肪が多い場合や、遺伝的体質、筋肉量の少なさなどが関係して発症することがあります。多くは、基礎代謝が低下している人が多いと考えられています。体重だけで判断せず、血液検査や画像評価を含めた総合的な判断が大切です。
一定の関連があると考えられています。
特定の遺伝子多型(例:PNPLA3など)が脂肪肝の進行と関係することが報告されています。ただし、遺伝があるから必ず進行するわけではありません。生活習慣の影響も大きいため、予防や改善は十分可能です。
はい、近年は小児や若年層でも増えています。
特に、肥満や運動不足、糖分の多い飲料の習慣がある場合、早い段階から脂肪肝が見つかることがあります。若いうちに発症すると、将来の累積リスクが長くなるため、早期の生活改善が重要です。
はい、その傾向があります。
女性ホルモン(エストロゲン)は脂質代謝や炎症を抑える働きがあるとされており、閉経後は代謝バランスが変化しやすくなります。そのため、体重増加や内臓脂肪増加とともに脂肪肝が進行するケースがあります。
いくつかの研究では、コーヒー摂取が肝線維化の進行抑制と関連する可能性が示唆されています。
ただし、砂糖やシロップを多く加えた飲み方では逆効果になることがあります。無糖・適量を心がけることが大切です。医学的治療の代わりになるものではありません。
市販のサプリメントの中には肝機能改善をうたうものもあります。
特にブロッコリースプラウトに含まれるスルフォラファンという成分は脂肪肝改善効果があり、有効成分が含まれています。
サプリでの改善は期待できますが、サプリにたよることなく、食事運動などの生活習慣改善のきっかけに繋げていただけたらと思います。
重度の代謝異常がある場合、妊娠糖尿病や高血圧などのリスクに影響する可能性があります。
妊娠を希望される場合は、事前に肝機能をはじめ、体重や血糖、脂質のコントロールを整えておくことが望ましいです。産婦人科と内科が連携して管理することもあります。
脂肪肝の改善に向けてモニターする場合は3か月ぐらいのサイクルで変化していきます。
ただし、線維化の程度や合併症の有無によって異なります。リスクが高い場合はより短い間隔でのフォローが必要になることもあります。主治医と相談し、個別に決めていきます。
少量であっても、脂肪肝がある場合は肝臓への負担が重なる可能性があります。
完全な禁酒が必要かどうかは個々の状態によりますが、少なくとも「習慣的な飲酒」は見直すことが望ましいとされています。自己判断せず、主治医と相談してください。
必ず進行するわけではありません。
多くの方は適切な体重管理や代謝コントロールによって安定します。ただし、線維化が進行した場合はリスクが高まることが知られています。重要なのは、「今どの段階にいるのか」を把握し、必要な対策をとることです。早期の介入によって、将来の重症化を防ぐことは十分可能です。
健康診断で「脂肪肝」と言われても、症状がなければつい後回しにしてしまいがちです。
「まだ薬が出ていないから大丈夫」
「経過観察と言われたから心配ない」
そのように考えてしまうお気持ちは自然なことです。
しかし大切なのは、“今すぐ重症かどうか”ではなく、“将来のリスクがどの程度あるのか”を知ることです。
医療現場で「経過観察」と言われる場合でも、その意味は一様ではありません。
実は、その背景には幅があります。
特に、
は、脂肪肝が“全身の代謝異常のサイン”である可能性があります。
一度、FIB-4などの指標で線維化リスクを評価し、必要に応じて専門的な画像検査を受けることで、現在地がはっきりします。
不安をあおるためではなく、安心するための確認と考えていただければと思います。
MASHやMASLDは、ゆっくりと進行することが多い病気です。
だからこそ、
といった小さな積み重ねが、将来を大きく左右します。
肝硬変や肝がんになってから治療を始めるのではなく、その手前で流れを止めることができる病気でもあります。
健診結果は、単なる紙のデータではありません。それは、体からのメッセージです。「脂肪肝」と言われた今こそ、ご自身の代謝状態を見直すよい機会です。症状がない今だからこそできることがあります。将来の健康寿命を守るために、ぜひ一度、専門的な評価をご検討ください。

用賀きくち内科 肝臓・内視鏡クリニック菊池 真大 先生
これまで慶應義塾大学消化器内科を中心に、関連病院や米ペンシルバニア大学留学、東海大学・東京医療センターなどで臨床・研究・教育に携わってまいりました。医師を志して以来25年間、臨床現場の最前線で研鑽を積んでおります。
診療を通じて、治療だけでなく未病予防や健康管理の重要性を強く実感し、専門の内科・消化器・肝臓分野に加え、幅広い視点で患者様一人ひとりに寄り添った医療の提供に努めております。
医療は医療従事者だけでなく、患者様やご家族とともに築くものです。感謝の気持ちを大切にしながら、地域に貢献できるクリニック運営を目指します。
また、今後はメタボリック症候群とロコモティブ症候群を同時に予防・管理する新たな診療にも取り組み、常に学び続け、皆様とともに成長してまいります。
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