最終更新日:2023.12.08

心不全の前兆とは?症状とステージ別の生存率、原因と治療法を解説

心不全の前兆とは?症状とステージ別の生存率、原因と治療法を解説

この記事は心不全の重大さ、危険度を知りたい方に向けて書いています。

心臓は全身に血液を送り出す働きをもち、生命を維持するうえで要となる臓器です。365日24時間、休むことなく動き続けています。心不全とは、この重要な役割を担う心臓の機能が、うまく働かなくなる状態のことです。

がんなどの病気は、怖い病気であるイメージが強く、早期発見や早期治療の大切さ、そして治療後の経過観察の重要性を理解されている方は多いです。一方で、心不全の重大さや危険度はほとんど知られていません。実は心不全は、がんよりも予後が悪く、命にかかわるケースが多いとされています。

本記事では、心不全の診療をしている循環器の専門医に監修していただき、心不全の前兆とステージ別の生存率、原因と治療法を解説しています。

心不全とは

心不全は病名ではなく、心臓のさまざまな病気によって心臓のポンプ機能の障害が起こり、全身の臓器に必要な血液量を供給できない状態をいいます。適切な血液量が供給されないと、各臓器には十分な酸素が行き渡らなくなり、さまざまな症状が起こります。

日本循環器学会と日本心不全学会では、心不全を「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」と定義しました。(2017年10月)

心不全はあらゆる心臓病の終末病態であるといえます。

※ 以下、参考サイト

『急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000202651.pdf
一般社団法人 日本循環器学会/ 日本心不全学会:急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版). p13
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2017/06/JCS2017_tsutsui_d.pdf

 

急増する高齢者の心不全

日本の心不全の患者数は約100万人と推定されています。心不全の増加は世界的な問題で、心不全パンデミック(爆発的な流行)とよばれています。また超高齢者社会の日本では、すでに心不全の患者数が増加して、心不全パンデミックが起こりつつある状況にあります。

心不全が増加する理由としては、そもそも高齢者では心不全の原因になる心臓病が増えること、また、最近では心筋梗塞などを起こしても治療法の進歩によって救命され、のちに心不全で亡くなるケースが増えたことなどが考えられます。

東北地方で心不全の患者および予備群1万人以上を最長10年間にわたって観察してきた研究(第二次東北慢性心不全登録研究)があります。それをみても、高齢者の増加とともに心不全は明らかに増えています。

急性心不全と慢性心不全の違い

心不全は発症の仕方によって、

  • 急性心不全
  • 慢性心不全

2つに分類されます。

急激に心臓の状態が悪化するのが急性心不全、そして治療によって状態が回復したあと、徐々に症状が進行してくのが慢性心不全です。

急性心不全の特徴

心臓病がなかった人が急激に心臓の状態が悪化して、動悸や息切れ、呼吸困難やなどの症状がでるものを急性心不全といいます。

急性心不全は血管が完全に詰まる「心筋梗塞」という病気で多くみられます。発症すると短時間で激しい呼吸困難に陥る場合もあるため注意が必要です。それらの症状が進行して徐々に悪化すると、重度の急性心不全の場合はそのまま死に至るリスクが高いです。

心不全は「左心不全」と「右心不全」に分けられ、急性右心不全症状と急性左心不全症状にはそれぞれ特徴があります。まず左心不全が起こり、そのあとで左心不全が生じるこどが多いです。そして、左右が併発した心不全を、両心不全といいます。

慢性心不全の特徴

急性心不全を起こしたあと、治療によって状態が回復した場合は安定した心不全となります。薬物治療など適切な治療を継続すれば、支障なく日常生活を送ることができます。

一方で、心不全は繰り返し発症することも多く、心臓機能も徐々に低下して、身体機能も衰えはじめます。このように、心臓に負担がかかり続けることで徐々に症状が進行するものを慢性心不全といいます。

慢性心不全の人がなんらかの引き金によって、急激に心臓の機能が悪化することを、急性増悪といいます。症状悪化と回復によって入退院を繰り返しながら、身体機能はさらに落ちていきます。

実は心不全はがんよりも予後が悪く、命にかかわるケースの多い病気です。入院治療が必要なほど重症化した心不全の患者さんは、再入院率・死亡率はとても高いという報告があります。

心不全の前兆は?症状セルフチェック

  • 息苦しい、息切れする
  • 動悸がする
  • 夜、横になると咳が出る
  • 手や脚がむくむ
  • 顔がむくむ
  • 倦怠感がある
  • すぐに疲れやすい
  • 血圧が下がっている
  • 体重が急激に増えた

など

いずれの症状も経験している方は多いと思いますが、悪化しない限り年齢のせいにして放置してしまいがちです。

心不全受診の目安 – 前触れを見逃さない

代表的な症状としては、息切れ、むくみ、だるさの3つがあげられます。これらが以前よりも悪化しているという場合は心不全を疑う必要があります。早めに受信しましょう。

また、心臓の機能が急激に悪化すると

  • 横になると息苦しい
  • 冷や汗が出て苦しい
  • 倦怠感が強く、動けない

といった症状が現れます。

重症ですぐに治療が必要な状態です。迷わず救急車を呼び、受診してください。

心不全の生存率・進行ステージ

2018年に公表された『急性・慢性心不全診療ガイドライン』では新たに、心不全にステージA・B・C・Dという「4つのステージ」が定められました。

欧米の報告によると、各ステージごとの予後・5年後の生存率は以下の通りです。

  • ステージA:97%
  • ステージB:96%
  • ステージC:75%
  • ステージD:20%

心不全は進行する病気です。放っておくと、確実に命にかかわります。

心不全の4ステージ

ステージA 高血圧・糖尿病など、心不全発症の危険因子はあるが、心臓の動きには異常はみられず、日常の身体活動に制限はない状態。心不全の症状もみられない。
ステージB 心肥大や心拍出量の低下などが現れ、心臓に異常がみられる。
心筋梗塞・弁膜症・心筋症・不整脈など、心不全の直接の発症原因となる病気に注意が必要。
放置すると、心不全の症状が現れて病態が悪化する。
ステージC 心不全の症状があらわれ、心不全と診断を受けた方。
適切な治療を継続すれば、日常生活を送ることができるが、再び急激に心臓の機能が低下する可能性もある。
ステージD 急激に心臓の機能が悪化し、入退院を繰り返すたびに心機能がさらに低下し、身体機能も衰えていく。進行に伴い、治療が難しくなる。

心不全の原因

心不全は加齢によって陥りやすいことが分かっていますが、原因はそれだけではありません。加齢以外のリスク要因として、2つあげられます。

1つは心臓病です。すべての心臓病が心不全の原因なり得ます。そして治療後も、経過観察をせずに放置しているひとは、心不全になるリスクが非常に高いといえます。

もう1つは、生活習慣病(または生活習慣の乱れ)です。心臓に異常がないからといって、安心はできません。すぐに心不全の症状が現れるわけではありませんが、気づかないうちに心臓に負担をかけ、隠れ心不全として密かに進行します。

心不全の原因となる心臓病

心臓病にはさまざまな疾患がありますが、どの疾患でも適切な治療を継続しないと、その行き着く先は心不全です。 心不全の発症には心臓のどの部分に障害があるかは関係なく、何らかの病気で損傷したり機能が弱ったりしている箇所があれば、心機能が低下していきます。

すべての心臓病が心不全の原因となり得るということを念頭におき、心臓病にかかったことがある方はもちろん、現在も治療を続けていらっしゃる方は、必ず経過観察することが大切です。症状が治ったからといって、くれぐれも自己判断で経過観察や治療を中断しないようにしましょう。

高血圧性心疾患

高血圧が長い間続くと、心臓や血管には強い負担がかかり続けます。それにより次第に心臓の壁(筋肉)が厚くなって、肥大していきます。

虚血性心疾患

全身の細胞だけではなく、心臓の細胞にも酸素や栄養の供給は不可欠ですが、その役割を担うのが冠動脈とよばれる血管です。心臓をとり巻くように走るこの冠動脈が、狭窄する病態を狭心症といい、閉塞してしまう病態を心筋梗塞といいます。 虚血性心疾患はこれらの病態の総称です。心筋への血流が減ったり途絶えたりする(虚血)ことで、心筋が酸素不足に陥ってしまいます。

心臓弁膜症

心臓には弁膜と呼ばれる4つの弁があります。この弁によって、血液の逆流を防ぎます。 心臓弁膜症は、弁に何らかの異常が生じて、血行の障害や血液の逆流が起こる病気です。

不整脈

心臓は常に拍動を繰り返していますが、規則正しい拍動が損なわれる病態を不整脈といいます。不整脈にはさまざまなタイプがあり、経過観察となる怖くない不整脈から、最悪の場合は心停止に至ってしまう怖い不整脈があります。

先天性心疾患

産まれながらにして心臓に何らかの障害が生じる病態を先天性心疾患といいます。 数ある先天性疾患の中でも、先天性心疾患は100人に1人に上り、比較的高確率で起こる病態です。 しかし生後数ヶ月のうちに手術をすれば健康に生きられる可能性は高いとされています。医療技術の進歩で、近年では乳児期を超えた先天性疾患児の90%が成人を迎えています。

心筋症

心臓の筋肉そのものの異常で心機能に障害をきたす疾患を心筋症といいます。心臓の内腔が広がり拡張した状態を拡張型心筋症といい、心室壁などが厚くなった状態を肥大型心筋症といいます。 (虚血性心疾患や高血圧、心臓弁膜症などの原因を特定できる心筋異常は除外されます。)

心筋炎

心筋炎とは、心臓の筋肉組織(心筋)が炎症を起こす病態です。発症しても、軽症の場合は気付かないうちに自然に治ってしまうこともあります。一方で、この炎症によって心筋の損傷や心臓機能の低下を引き起こすこともあります。重篤な場合には生命に影響を及ぼすこともあるため注意が必要です。

心不全の原因となる生活習慣病

心不全のリスクを高める要因の1つに、生活習慣病があげられます。心臓に異常がないからといって、決して安心してはいけません。

生活習慣病および生活習慣の乱れは、すぐに心不全の症状が現れるわけではありませんが、互いに影響し合いながら心臓に負担をかけています。気付かないうちに心臓に負担をかけ、隠れ心不全として密かに進行していくため注意が必要です。

動脈硬化と脂質異常症

動脈硬化とは、血管がしなやかさを失って硬くなり、血液の流れが悪くなってしまう状態です。動脈硬化は高血圧や慢性腎臓病、心臓病のリスクを高めます。その動脈硬化になる要因の1つが脂質異常症です。結果的に高血圧を招いたり、心不全を引き起こす可能性が高い狭心症や心筋梗塞のリスク要因となります。

高血圧

高血圧があると全身に血液を送りだすたびに心臓に負担をかけてしまいます。長年、高血圧が続くと、やがて心臓が肥大していきます。

糖尿病と肥満・メタボリックシンドローム

肥満やメタボリックシンドロームのある方は、高血圧や糖尿病、脂質異常症、慢性腎臓病になりやすいと考えられています。

また狭心症や心筋梗塞などの心臓病気のリスクも高いため、早期に改善が必要です。

心不全と慢性腎臓病

腎臓病がある方は原因を問わず、心不全のリスクも高くなります。なかでも慢性腎臓病は腎臓の働きが徐々に失われていく病気であり、最終的には透析や腎移植が必要となってしまいます。(末期腎不全)

末期腎不全に至ると、腎機能が低下することによって体内の水分代謝が悪くなり、余分な電解質や老廃物などが溜まってきます。心臓や血管への影響としては、心不全のほかに、高血圧や心膜症、致死性不整脈、脳出血などが挙げられます。

心不全の検査・診断

まずは問診によって、症状の有無やその程度、既往歴、持病、家族歴などについて質問されることが一般的です。普段、服用しているお薬があれば、お薬手帳を持参しましょう。

問診後は、以下のような検査を実施していきます。

まず基本的な検査となるのが

  • 心電図検査
  • 胸部X線検査
  • 血液検査

です。

さらに詳しく調べる場合は

  • 心エコー検査
  • 心臓CT検査
  • 心臓MRI検査

が行われます。

また必要に応じて

  • 心臓MRI検査

なども検討します。

各検査によって得られる情報は異なりますので、それぞれの特徴を活かして必要十分な検査を実施し、診断に結びつけていきます。

心電図検査

心臓の拍動は電気的な信号によって起こります。この動きを波形で見るのが心電図です。心疾患の診断には必須の検査であり、心エコー検査と並ぶ心臓の2大検査法です。

心臓が正常なリズムで動いている状態を洞調律といいます。心電図では心拍数とともに洞調律かそうではないかを確認して、心疾患がないかを検査します。波形の異常から、不整脈や虚血性疾患、心肥大といった病態を発見することができます。

血液検査と尿検査

血液検査は全身の情報を得る基本的な検査です。循環器系の診断と診療でとくに重要となるのは「心筋生化学マーカー」と呼ばれるものです。

心筋が傷害・壊死したり、心筋に負担がかかったりすると、分泌されるホルモンがあります。なかでもBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)は心不全の診断に有用です。BNPの血中濃度によって、重症度の評価をはじめ治療効果判定に役立ちます。また、心不全治療では尿量も指標のひとつとなります。

心エコー検査

心臓超音波検査ともよばれるこの検査は、心電図と並ぶ心臓の2大検査法です。体の表面にプローブ端子をあてて、心臓の弁や心臓壁の動き、血管の形態、血流を画像化して見る検査方法です。心不全の危険因子となる心臓病がないか、さらにはその重症度も確認します。これらの情報を低侵襲(体への負担が最小限であること)に得ることができる点も大きなメリットとしてあげられます。

画像診断(X線検査、CT・MRI検査)

循環器の画像検査でまず実施されるのが胸部X線検査(胸部レントゲン検査)です。心臓の大きさや、大血管の走行や拡張、血管壁の石灰化などを調べることができるため、心疾患のスクリーニング(ふるい分け)として有用な検査といえます。もし、心臓の拡張や肥大などの異常が見つかった場合は、さらに詳しく調べていきます。

その精密な検査となるのが、心臓CT検査や心臓MRI検査です。CTはComputed Tomographyの略で、コンピュータ断層撮影といいます。X線を使って体の周りを360°から連続的に透過し、コンピュータ解析によって2次元の断層像を作り出すことで、病変を見つける検査です。一方、MRIは強力な磁場を発生させて体の中にある水素原子を画像化し、病変を見つける検査です。一般的にMRI検査は、CT検査よりも情報を詳細に得たいときに役立ちます。

これらの精密検査では、たとえば冠動脈や大動脈などの詳細な情報を、低侵襲で短時間で得ることができます。

心臓カテーテル検査

心臓カテーテル検査とは、足の付け根や腕の動脈、または静脈に直径2mmほどほどのやわらかい細い管を入れて、心臓や血管の中の状態を調べる検査です。この検査は主に冠動脈疾患の治療のために行うことが多いです。

静脈から右心系に入れるのを右心カテーテルといい、右心系の機能や血行動態の把握を目的とします。一方、動脈から左心系に入れるのを左心カテーテルといい、冠動脈や左室の形態の把握を目的とします。

心不全の治療方針

心不全の治療は、ステージに応じて行います。

心不全を発症する前の段階であれば予防のために危険因子となる疾患の治療をして、分不全の発症予防に努めます。

また、すでに心不全を発症している場合は、急性心不全や急性憎悪を未然に防ぐための治療が必要です。

ステージAやステージBは、心不全を発症する前の予備軍です。ステージCに至ってからではなく、ステージAやステージBの段階で適切な治療を開始することが重要です。

改めて、心不全の進行度は以下をご参考ください。

ステージA 生活習慣病など、心不全の危険因子がある。
ステージB 心臓の動きに異常がみられる。(心不全の前段階)
ステージC 心不全の症状がある。
ステージD 心不全が進行している。(治療が困難な状態)

心不全の予防には生活習慣の改善

心不全の原因となる

  • 高血圧
  • 糖尿病
  • 脂質異常症
  • 慢性腎臓病

など、これらの危険因子の治療に前向きに取り組み、悪化させないことが重要です。とくに肥満やメタボリックシンドロームのある方は減量が必要です。

生活習慣病の改善は、食事や運動をはじめ、薬による治療が必要になる場合があります。中には症状が悪化しないことを理由に「自分は大丈夫」と自己判断し、食事や運動、薬の服用がおろそかになってしまう方も少なくありません。

生活習慣病の先には、心不全をはじめとする命を危険にさらす病気が待っていることをよく理解した上で、積極的に自分の体と向き合い、治療していくことが大切です。

心不全に関するよくあるご質問

健康診断で心不全が見つかることはありますか?

基本的には、健診で心不全が見つかることはありません。

心臓がかなり大きくなっているなど、明らかな異常がなければ健診で引っかかることはありません。

また健診で受ける血液検査に関しても、残念ながら心不全の兆候を見つけるための項目はありません。そのため、健診で異常なしという結果だったからといって油断はできないのです。

息切れやむくみ、だるさなどの症状があれば、なるべく早めに循環器専門医にみてもらうことをおすすめいたします。

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こちらの記事の監修医師

石塚 豪

泉大沢ファミリークリニック石塚 豪 先生

仙台の泉区大沢にある「泉大沢ファミリークリニック」 院長の石塚です。

10年以上にわたってお世話になりました仙台医療センターを退職し、2019年2月仙台市泉区大沢に新規開業しました。

これまで培ってきました地域医療での経験や基幹病院での高度医療の経験をいかし、専門であります循環器呼吸器疾患を中心に、内科疾患から小児科疾患まで幅広く対応させて頂きます。

「患者さんの不安を安心に変えられるように」を合言葉に、地域の皆様から信頼を頂けるような温かいクリニックを目指します。

仙台市泉区はもちろん、富谷市をはじめとする近隣エリアからの通院も可能です。お気軽にご来院ください。今後ともよろしくお願い申し上げます。

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