最終更新日:2024.11.25 | 投稿日:2024.11.24

女性の大腸がん、発症する確率は?原因と症状、年齢別の生存率を解説

女性の大腸がん、発症する確率は?原因と症状、年齢別の生存率を解説

女性における大腸がんの発症率は、12人に1人とされています。これは、乳がんに次いで2番目に多い罹患数です。特に50代から60代以降の女性で発症数が増加する傾向があります。

大腸がんは女性のがん死亡原因の1位ですが、早期に発見された大腸がんの5年生存率は約99%と非常に高くなっています。つまり、早期に発見して適切な治療を行えば治りやすいがんの一つです。

近年では患者さんの負担が少ない治療法が主流になってきており、治療効果だけでなく、患者さんの生活の質(QOL)も重視した治療選択が行われるようになっています。

本記事では、消化器専門の医師に監修していただき、女性の大腸がんの原因と症状、発症する確率や生存率を解説しています。

目次

女性のがん死亡原因で最も多い「大腸がん」とは?

女性のがん死亡原因で最も多い「大腸がん」とは?大腸がんは、消化管の末端部分である大腸(結腸および直腸)の粘膜細胞から発生する悪性腫瘍です。日本においては、女性のがん死亡原因の第1位として知られています。特に40歳以降の女性は発症リスクが高まります。

大腸がんの進行度は、がんの深達度(T)、リンパ節転移の有無(N)、遠隔転移の有無(M)によって総合的に判断され、ステージ分類されます。進行度が高くなるほど、治療が難しくなり、予後も悪化する傾向があります。

一方で、大腸がんは早期発見・早期治療が行われれば、高い治癒率が期待できます。そのため、40歳以上の方は年1回の大腸がん検診を受けることが推奨されています。

大腸がん治療は日々進歩しており、治療効果だけでなく、患者さんの生活の質(QOL)も重視した治療選択が行われるようになっています。大腸がんの治療法・副作用について、医師とよく相談し、ご自身に合った適切な方法を選択していくことが重要です。

大腸の機能と役割

大腸は、消化管の最終部分を構成する重要な臓器で、結腸と直腸からなります。

大腸には栄養素の消化吸収作用はほとんどありませんが、消化された食物の残り(糞便)から水分や電解質を吸収し、最終的に糞便を形成して排泄するという重要な役割を果たしています。大腸が正常に機能することで、体内の水分バランスの維持と適切な排便が可能になります。

大腸がんの発生部位による分類

大腸がんはその発生部位によって、「結腸がん」と「直腸がん」の大きく2つのタイプに分類されます。 大腸の結腸部分に発生するものを「結腸がん」といいます。

結腸は盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸の5つの部分に分けられます。特に日本人はS状結腸にがんができやすいとされています。

腺腫(良性のポリープ)ががん化して発生するものと、正常な粘膜(細胞)から直接がんが発生するもの(デノボがん)の2種類があります。

肛門から約20cm以内の範囲にあたる直腸部分に発生するのが「直腸がん」です。直腸S状部、上部直腸、下部直腸に発生します。直腸がんは大腸がんの約40-50%を占め、日本人に比較的多い癌の一つとされています。結腸がんに比べて再発率が高い傾向があります。

大腸がんの左右による分類

盲腸、上行結腸、横行結腸に発生する「右側大腸がん」と、下行結腸、S状結腸、直腸に発生する「左側大腸がん」に分類する場合もあります。この左右による分類は近年注目されており、右側大腸がんは左側大腸がんよりも予後が悪い傾向があることが報告されています。

大腸がんの進行度と病期(ステージ)

大腸がんの進行度は、がんの深達度(T)、リンパ節転移の有無(N)、遠隔転移の有無(M)によって総合的に判断され、ステージ分類されます。進行度が高くなるほど、治療が難しくなり、予後も悪化する傾向があります。

大腸内腔の壁は、内側から粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜(しょうまく)下層、漿膜の順に5層で形成されています。 大腸がんの進行は以下のように段階的に進みます。

  1. 初期段階
    がんは大腸の最内層である粘膜内にとどまっています(Tis)。
    この段階では「早期大腸がん」と呼ばれます。
  2. 粘膜下層への浸潤
    がんが粘膜下層まで広がります(T1)。まだ「早期大腸がん」の段階です。
  3. 筋層への浸潤
    がんが筋層に達します(T2)。
    この段階から「進行大腸がん」と呼ばれるようになります。
  4. 漿膜下層・漿膜への浸潤
    がんが筋層を超えて漿膜下層や漿膜に広がります(T3、T4)。
  5. リンパ節転移
    がん細胞が近くのリンパ節に転移します。
  6. 遠隔転移
    がん細胞が血流やリンパ流を通じて他の臓器(主に肝臓や肺)に転移します。

大腸がんのステージ

大腸がんのステージは、がんの進行度を表す指標で、0期からⅣ期までの5段階に分類されます。ステージ0がもっとも早期で、ステージⅣはがんがもっとも進行した状態です。

治療前にいろいろな精密検査を行ったうえで、がんのステージを正しく判定することは、治療方針を立てる際に大変重要になります。

日本では大腸癌取扱い規約(第9版)(2018年発刊)に基づいて分類されることが多く、世界的に用いられるTNM分類(第8版)とは若干異なります。

各ステージの特徴は以下の通りです:

ステージ0
  • がんが粘膜内にとどまっている最も早期の段階。
  • 粘膜下層には達していない。
ステージⅠ
  • がんが粘膜下層または固有筋層までにとどまっている。
  • リンパ節転移や遠隔転移はない。
ステージⅡ
  • がんが固有筋層を超えて浸潤している。
  • リンパ節転移はないが、深達度によってⅡaとⅡb、Ⅱcに細分化される。
ステージⅢ
  • がんが固有筋層を超えて浸潤している。
  • リンパ節転移はないが、深達度によってⅡaとⅡb、Ⅱcに細分化される。
ステージⅣ
  • がんの深さに関わらず、リンパ節転移がある。
  • がんの深さおよびリンパ節転移の程度によってⅢa、Ⅲb、Ⅲcに細分化される。
ステージⅤ
  • がんの深さやリンパ節転移の有無に関わらず、他臓器への遠隔転移がある。
  • 主に肝臓、肺、腹膜などへの転移が見られる。
  • 遠隔転移の状態によってⅣa,b,cに細分化される。


ステージが進むほど進行度が高く、治療が難しくなる傾向がありますが、最近のがんゲノム医療や抗がん剤の発展により治療の奏効率が上昇し、コンバージョン手術などの選択肢も広がってきています。

大腸がんの原因・発症リスク

大腸がんの原因・発症リスク大腸がんの原因は、生活習慣や遺伝的要因、環境要因など、さまざまな要因が複合的に影響しています。これらの要因が組み合わさることで、大腸の正常な細胞ががん化するリスクが高まるとされています。

また、大腸がんの発症リスクは多くの要因によって左右されます。生活習慣を改善すること(食物繊維や新鮮な野菜・果物を意識した食生活、適度な運動、禁煙、節酒)や、遺伝的リスクを持つ場合には早期検診を受けることが、リスクを低減するために重要です。

食生活の欧米化

高脂肪食、特に赤肉(牛肉、豚肉、羊肉)や加工肉(ベーコン、ソーセージ、ハムなど)の過剰摂取は、大腸がんのリスクを増加させることが示されています。これらの食品に含まれるヘテロサイクリックアミンやニトロソ化合物などの発がん性物質が、腸内の細胞にダメージを与えると考えられています。

また、食物繊維の不足も要因の一つとしてあげられます。食物繊維は、腸内で水分を吸収して便のかさを増し、排便を促進します。食物繊維が不足すると、便の通過時間が長くなり、発がん性物質が腸内に留まる時間が増えるため、大腸がんのリスクが高まります。

運動不足

運動不足は大腸がんのリスク因子の一つです。定期的な運動は腸の蠕動運動を促進し、便の通過時間を短縮します。一方で、運動を通して体重管理やホルモンバランスの調整をおこなうことで免疫機能を強化するため、がんの予防に効果があります。

肥満

肥満は大腸がんのリスクを高める要因です。インスリンやインスリン様成長因子(IGF)のレベルを上昇させることがあり、これらの物質が腸内細胞の増殖を促進し、がん化のリスクを高めると考えられています。また、肥満は体内の慢性的な炎症状態を引き起こし、これも発がんのリスク因子となります。

飲酒と喫煙

過度なアルコール摂取は、大腸の粘膜を直接刺激し、発がん物質であるアセトアルデヒドに変換されることでがんのリスクを高めます。特に毎日大量の飲酒を行う人では、大腸がんのリスクが顕著に増加します。

タバコには多くの発がん性物質が含まれており、これらが腸内の細胞にダメージを与え、大腸がんのリスクを高めることが示されています。特に喫煙開始年齢が若い場合や、長期間の喫煙歴がある場合にリスクが高まります。

加齢

大腸がんのリスクは年齢とともに上昇し、特に40歳以降に急激に増加します。加齢により細胞の再生能力が低下し、DNAの損傷が蓄積しやすくなるためです。

遺伝的要因

家族に大腸がんの病歴がある場合、その家族もリスクが高くなります。特に若年での発症や複数の親族にがんが見られる場合、「リンチ症候群」(遺伝性非ポリポーシス大腸がん)や「家族性大腸腺腫症(FAP)」などの遺伝性がん症候群の可能性が考えられます。これらの遺伝性疾患は、特定の遺伝子(MLH1、MSH2、APCなど)の異常によって引き起こされ、通常よりも若い年齢で大腸がんが発症するリスクが高まります。

便秘と腸内環境の悪化

便秘が続くと、腸内に有害な物質が長く留まり、腸内環境が悪化することで大腸がんのリスクが高まるとされています。特に、腸内フローラのバランスが崩れ、悪玉菌が増えると、腸内で発がん性物質が生成されやすくなることがあります。

例えば歯周病菌の一つであるフソバクテリウム・ヌクレアタムは腸内細菌としても生息しており、大腸がんの発生や進行に関与するといわれています。

大腸がんは女性に多い?

大腸がんは女性に多い?結論として、女性に特に大腸がんが多いわけではありません。実際には、大腸がんの罹患率は男性の方が高いことが分かっています。しかし、女性のがん死亡原因の第1位であることから、大腸がんは注目されています。

大腸がんは40代以降、特に50代から罹患率が急増します。女性の平均寿命が長いことも、統計上の増加に影響していると考えられます。また、生活習慣の影響という観点では、食生活の欧米化、運動不足、肥満などが大腸がんのリスクを高めます。これらの要因は男女共通ですが、女性のライフスタイルの変化が影響している可能性があります。

便秘による腸内環境の悪化が大腸がんのリスクを高める可能性が指摘されているというのは前述したとおりです。女性は男性よりも便秘になりやすいため、その影響を受けていることも考えられます。

現段階で女性ホルモンと大腸がんの明確な関連性は見出されていません。閉経後の女性では、エストロゲンの低下が大腸がんのリスクに影響する可能性が示唆されていますが、結果は一貫していません。

女性は男性と比較して検診を受ける機会が少ないことが、発見の遅れにつながっている可能性があります。現在は、検査用の下着を着用することが一般的になっています。お尻を出す恥ずかしさも軽減されておりますので、積極的に検診を受けるようにしましょう。

大腸がんの症状

大腸がんで起こる症状は、他の消化器疾患でも見られることがありますが、異変に気づいたら、なるべく早めに医師に相談することが重要です。

早期発見・早期治療が予後を大きく改善するため、医療機関で検査をしましょう。

血便や下血

大腸がんの進行によって最もよく見られるのが血便や下血です。これは、がんが腸内で出血を引き起こすために起こります。便に血液が混ざったり、便の表面に血液が付着したりします。この血液の色は、出血がどこで起こっているかによって異なり、結腸がんでは暗赤色から黒色のタール便が見られることが多いです。

特に直腸がんでは、鮮やかな赤色の血が便の表面に付着することが多く、トイレットペーパーにも血が付着することがあります。痔や裂肛と間違えられることもありますが、これが繰り返し起こる場合は、注意が必要です。

便秘・下痢・便柱狭小化・残便感

便通の変化も大腸がんの重要な症状の一つです。大腸がんが腸内で便の通過を妨げることで、便秘と下痢を交互に繰り返すことがあります。腸管が部分的に閉塞されると便秘が起こり、閉塞を通過する便が液状化して下痢を引き起こすというパターンが見られます。

また、がんによって腸管が狭くなるため、便が細くなることがあります。これは、腸内の通過が難しくなっていることを示しています。さらに、便がコロコロとした硬い形状になることもあり、これも腸内の異常を示すサインと考えられます。

残便感も、大腸がんの進行を示す症状です。これは、排便後も便が残っているような感覚が続くことで、特に直腸や結腸の下部にがんがある場合に顕著です。腫瘍が腸壁に影響を与え、直腸の感覚神経が正常に機能しなくなるため、このような感覚が生じます。これにより、排便のたびに便が完全に排出されていない感じが続くことがあります。

腹痛や腹部の不快感

大腸がんが進行すると、腹痛や腹部の不快感が現れることがあります。腫瘍が大きくなることで腸管が物理的に圧迫されると、痛みや不快感が生じます。特に腸が閉塞すると、激しい痛みを伴うことがあり、これが大腸がんの進行を示す重要なサインとなります。

体重減少

大腸がんが進行すると、体重が減少することがあります。これは、がん細胞がエネルギーを大量に消費するためであり、食欲の低下や消化機能の低下も体重減少の原因となります。体重が急激に減少した場合、これは身体全体の健康状態が悪化している可能性があるため、注意が必要です。

貧血

貧血も、大腸がんに関連する症状の一つです。大腸がんはしばしば小さな出血を引き起こし、その出血が長期間にわたって続くと、体内の鉄分が不足して鉄欠乏性貧血を引き起こします。

貧血の症状には、疲労感、息切れ、めまいなどがあります。これらの症状がある場合、大腸がんの可能性を考え、検査を受けることが重要です。

排便回数の増加

排便回数の増加も大腸がんの進行を示す症状です。腫瘍が腸内での便の移動を妨げるため、頻繁に排便をしたいという衝動を感じることがあります。特に直腸がんでは、少量の便が頻繁に出る「しぶり腹」と呼ばれる状態になることがあります。

大腸がんの検査方法

大腸がんの検査と診断方法には、主に便潜血検査、大腸内視鏡検査、注腸X線検査の3つが挙げられます。これらの方法は、大腸がんの早期発見と診断に重要な役割を果たします。それぞれの検査方法について、具体的に解説します。

便潜血検査

便潜血検査便潜血検査は、便に含まれる微量の血液を検出するためのスクリーニング検査です。

大腸がんがあると、腫瘍からの出血により便に血液が混ざることが多いため、便潜血検査によって初期段階でがんを発見することが可能です。便潜血検査は、特に症状のない早期の大腸がんを発見するのに役立ちます。

検査は比較的簡単で、便を採取して専用のキットで検査を行います。検査結果が陽性の場合、血液の存在が確認されたことを意味し、精密検査として大腸内視鏡検査が推奨されます。

日本では特に40歳以上の人には年に1回の便潜血検査を受けることが推奨されており、これは大腸がんの早期発見のための基本的な対策とされています。

大腸内視鏡検査

大腸内視鏡検査|大腸カメラ大腸内視鏡検査は、最も信頼性の高い大腸がんの診断方法であり、大腸全体を直接観察できる唯一の方法です。

内視鏡(長くて柔軟なチューブ状の器具)を肛門から挿入し、直腸から結腸までを観察します。これにより、ポリープやがんの存在を直接確認することができるだけでなく、疑わしい部位から組織を採取して病理検査を行うことも可能です。病理検査では、採取した組織の細胞を顕微鏡で詳しく調べ、がんの有無やがんの種類、進行度を確認します。

内視鏡検査は、早期発見・早期治療のために最も効果的であり、ポリープの段階でがんを発見して切除することも可能です。検査には、通常、前日からの食事制限や腸内洗浄などの準備が必要です。

大腸内視鏡検査は非常に精度が高く、がんの早期発見に欠かせない検査方法として広く利用されています。

注腸X線検査

注腸X線検査は、バリウムを使用して大腸の形状や異常を確認するためのX線検査です。検査の際には、バリウムという造影剤を肛門から注入し、大腸の内壁を白く映し出します。その後、X線を用いて大腸全体の画像を撮影し、腸の内壁にあるポリープやがん、その他の異常を確認します。

注腸X線検査は、内視鏡検査が困難な場合や、内視鏡検査の補完的な情報が必要な場合に行われることがあります。しかし、近年では内視鏡検査が普及し、より正確で直接的な観察が可能であるため、注腸X線検査の使用頻度は減少しています。特に内視鏡検査が普及する前には多く用いられていましたが、現在では、あくまで補助的な検査方法として位置づけられています。

これらの検査方法はそれぞれ異なる特徴と役割を持ちますが、共通して大腸がんの早期発見を目的としています。便潜血検査は簡便で非侵襲的なスクリーニング検査として広く利用されており、陽性反応が出た場合には、より精密な大腸内視鏡検査が行われます。また、注腸X線検査は内視鏡検査が難しい場合や補完的情報が必要な際に使用されます。

いずれの検査も、早期にがんを発見することで治療の選択肢が広がり、治療効果の向上につながるため、適切なタイミングでの検査受診が重要です。

大腸がんの治療方法

大腸がんの治療法は、がんのステージ、がんが発生した位置、患者さんの全身状態、年齢、生活の質(QOL)などを総合的に考慮して決定されます。

早期がんの場合、内視鏡治療や手術だけで治療が完了することもありますが、進行がんの場合は、手術と薬物療法を組み合わせた集学的治療が行われることが一般的です。また、切除不能な進行・再発大腸がんに対しては、主に薬物療法を中心に、症状緩和や生存期間の延長、生活の質の向上を目指した治療が行われます。

以下に、大腸がんの主な治療方法を具体的に解説します。

 

大腸がんの内視鏡治療

内視鏡治療は、大腸がんが早期段階(がんが大腸の内側の粘膜層または粘膜下層に限られている場合)にあるときに行われる治療法です。この方法では、体への負担が少なく、入院期間も短縮されることが多いです。主な内視鏡治療には以下のものがあります。

ESD

ESDは大きな病変などにたいして根もとに局注して病変を盛り上げてから、ナイフを用いて病変の周囲の粘膜を切開し、その後に病変の下の粘膜下層にもぐって病変を少しずつ切り離していく方法です。手技に熟練を要し、時間もかかります。 大きな病変のポリペクトミーやEMR、UEMR、ESDは入院が必要な場合があります。

ポリペクトミー

茎のある形の非常に早期のがんに対して行われる治療法です。内視鏡を用いてポリープの茎の部分に輪の形のスネアをかけて切除することで、がんが早期の段階で取り除かれます。

内視鏡的粘膜切除術(EMR)

生理食塩水などをがんの部分に注入して病変を浮き上がらせ、輪の形のスネアをかけて締め付けてから、高周波電流を流して切除します。

内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)

比較的サイズの大きな病変に対して用いられる方法で、病変周囲に局注をしてから周囲の粘膜を高周波ナイフで切開し,さらに病変の下の粘膜下層に高周波ナイフを潜り込ませて剝離して切除します。

日本消化器内視鏡学会HP参照(3.2)大腸内視鏡検査と治療 | 日本消化器内視鏡学会 (jges.net)

 

外科手術

外科手術は、大腸がんの治療の基本となる方法であり、がんが粘膜下層を超えて浸潤している場合や、リンパ節に転移がある場合に行われます。手術の方法は、がんの位置や大きさ、進行度に応じて選択されます。

開腹手術

伝統的な外科手術で、腹部を切開してがんを含む大腸の一部または全部を切除します。周囲のリンパ節も一緒に切除し、がんの再発リスクを減らします。進行したがんや複雑なケースでは開腹手術が選ばれることがあります。

腹腔鏡下手術

小さな切り口からカメラと手術器具を挿入し、モニターを見ながら行う手術法です。従来の開腹手術と比べて、手術による傷が小さいのが特長としてあげられます。出血や痛みも少なく、傷の感染が少ない、回復が早いというメリットがあります。そのため、在院日数が短くなることが多いです。

患者さんの体力やがんの進行度によっては、腹腔鏡下手術が選択されることが多いです。結腸がんと直腸S状部がんには「腹腔鏡下手術」が多く行われています。中下部の直腸がんには「ロボット支援下腹腔鏡手術」が増えています。

 

大腸がんの薬物療法

薬物療法(化学療法)は、大腸がんの進行を抑えたり、再発を防いだりするために、がん細胞の増殖を抑える薬剤を使用する治療法です。以下の3つの主な種類があります。

細胞障害性抗がん薬

これらの薬剤は、がん細胞の分裂や成長を阻害することで、がんの進行を抑えます。進行がんや手術後の再発予防として使用されることが多いです。

分子標的薬

がん細胞の特定の遺伝子やタンパク質に対して作用し、その成長や生存を阻止する薬です。細胞障害性抗がん薬と併用して使用されることが一般的で、特に進行がんや転移性がんに対して効果が期待されます。

ホルモン療法

前立腺がんや乳がんなどホルモン感受性のがんの場合に用いられる治療法です。比較的副作用は少ないとされますが、性ホルモン特有の更年期様症状が出る場合があります。

免疫チェックポイント阻害薬

患者さんの免疫系を活性化してがん細胞を攻撃する治療法です。特に、遺伝子検査で「MSI-High(マイクロサテライト不安定性)」という特性がある場合に効果が高いとされています。

 

大腸がんの放射線療法

放射線療法は、高エネルギーの放射線を用いてがん細胞を破壊する治療法です。主に直腸がんに対して行われます。放射線療法は、がんの局所制御に役立ち、特に手術前に腫瘍を縮小させるためや、手術後に残存するがん細胞を除去するために使用されることがあります。また、進行したがんの症状(痛みや出血)を緩和するためにも行われることがあります。

 

大腸がんの免疫療法

免疫療法は、患者さんの免疫系を利用してがんを攻撃する新しい治療法です。特に、遺伝子検査で「MSI-High(マイクロサテライト不安定性)」がある場合に効果が期待される免疫チェックポイント阻害薬が有名です。この薬は、がん細胞が免疫細胞からの攻撃を避けるために使用する特定の経路をブロックすることで、患者さんの免疫系ががん細胞をより効果的に攻撃できるようにします。

そのほかにも保険適応となる免疫療法もありますが、特に自由診療で行われる免疫療法については効果不十分かつ高額なものが多く、安全性についても十分な注意が必要です。

大腸がんの予防方法

大腸がんの予防には、生活習慣の改善と定期的な検診が非常に重要です。以下に、効果的な予防方法を具体的に解説します。

定期的な検診受診

大腸がんは女性に多い?定期検診は大腸がん予防の基本です。大腸がんは早期にはほとんど症状がないため、定期的な検診が早期発見の鍵となります。特に40歳以上の方には、年に1回の大腸がん検診(便潜血検査)を受けることが推奨されています。

便潜血検査は、便に微量の血液が混ざっていないかを確認するもので、簡便で非侵襲的な方法です。この検査で異常が見つかった場合は、精密検査として大腸内視鏡検査が行われます。

検診を定期的に受けることで、早期の段階でがんを発見し、治療を開始することができるため、予後の改善が期待できます。 ただし、大腸がんがあっても便潜血検査が陰性になることはあります。便通異常や残便感など腹部症状がある場合は早めに消化器内科をご受診ください。

 

バランスの良い食事

食事も大腸がん予防に重要です。フレッシュな野菜や果物を積極的に摂取し、食物繊維を十分に取ることが推奨されます。食物繊維は便のかさを増やし、腸の運動を促進することで、腸内の発がん物質が腸壁に接触する時間を短縮します。

また、赤肉や加工肉の過剰摂取は大腸がんのリスクを高めることが示されていますので、これらの食品の摂取は控えめにすることが望ましいです。特に加工肉には、発がん性物質であるニトロソアミンが含まれることがあり、リスクを増大させる要因となります。

さらに、高脂肪食も大腸がんのリスクを高めるため、脂肪の摂取を適度に抑え、オリーブオイルなどの良質な脂肪を適量取ることが推奨されます。

 

適度な運動

運動は腸の蠕動運動を促進し、便通を良くする効果があります。1日8,000歩以上を目安に歩くことや、週に数回の軽いジョギングやエアロビクスを行うことが推奨されます。運動は体重管理にも役立ち、肥満を防ぐことで大腸がんのリスクを減少させることができます。さらに、運動は体内の炎症を抑え、免疫機能を強化する効果もあり、がんの予防につながります。

 

禁煙

禁煙も大腸がん発症のための重要な予防策です。喫煙は多くのがんのリスクを高めることが知られており、大腸がんもその例外ではありません。タバコに含まれる発がん性物質が血液を通じて大腸に到達し、細胞の遺伝子に損傷を与えることでがんを引き起こす可能性があります。したがって、禁煙することが大腸がんのリスクを低減するための有効な手段となります。

 

節酒

アルコールの過剰摂取は大腸がんのリスクを高めることが示されています。アルコールは腸内でアセトアルデヒドという発がん物質に代謝されるため、飲酒量を適度に抑えることが推奨されます。目安として、男性では1日あたり日本酒2合まで、女性では1合までの飲酒が望ましいとされています。

 

適正体重の維持

肥満は大腸がんのリスクを高める要因であり、特に内臓脂肪が多い場合、腸に対する影響が強くなります。適正な体重を維持するためには、バランスの取れた食事と定期的な運動が不可欠です。特に、ウエスト周囲径を適正に保つことが、内臓脂肪を減少させ、大腸がんのリスクを低減することにつながります。

 

便秘の改善

便秘が続くと、腸内に発がん性物質が長時間滞留し、腸内環境が悪化するため、大腸がんのリスクが高まるといわれます。。適切な水分摂取と食物繊維の摂取を心がけることで、便通を整えることが重要です。便秘を改善することで、腸内の有害物質が速やかに排出され、腸内環境が改善されます。

 

ストレス管理

大腸がんの予防に重要な要素です。過度のストレスは、免疫機能を低下させ、がんのリスクを高める可能性があります。適度な運動やリラクゼーション法(瞑想や深呼吸など)を取り入れて、ストレスを効果的に管理することが推奨されます。十分な睡眠を確保し、ストレスを感じた際には適切な対処法を見つけることが大切です。

これらの予防法を日常生活に取り入れることで、大腸がんのリスクを効果的に低減することができます。特に定期的な検診は、早期発見・早期治療につながるため、予防策として最も重要です。

生活習慣を見直し、健康的な生活を送ることが、大腸がん予防の第一歩となります。

大腸がんに関するよくあるご質問

大腸内視鏡検査(大腸カメラ)で、ポリープがあると言われました。大腸がんの危険が高いでしょうか?

どの様な種類のポリープであるかによって大腸がんのリスクは異なります。

ポリープとは、消化管の粘膜の表面にいぼのように盛り上がったものの総称であり、ポリープと一口に言っても、どの様な種類のポリープであるかによって大腸がんのリスクは異なります。

腫瘍性のポリープ(腺腫、鋸歯状病変)は前がん病変といわれており、放置してしまうとポリープが増大し、がん化する可能性が高まります。腫瘍性ポリープを切除すると、大腸がんの発生率および死亡率が低くなるという報告があり、腫瘍性ポリープについては積極的に切除することが勧められます。

大腸がんの年齢別生存率は?

女性の年齢別生存率は具体的なデータは提供されていませんが、大腸がんのステージ別の生存率があります。

ステージ別5年相対生存率は以下の通りです。

  • ステージI期: 94.5%
  • ステージII期: 88.4%
  • ステージIII期: 77.3%
  • ステージIV期: 18.7%

これらの数値は男女を合わせた全体的な統計であり、女性に特化したものではありません。

糖尿病の患者さんは、大腸がんのリスクが高いことが示唆されています。インスリンの作用や糖代謝の異常が、がんの発生に関与していると考えられています。

大腸がんの発症リスクを高める病気はありますか?

潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患(IBD)、糖尿病などがあげられます。

炎症性腸疾患(IBD)を持つ人は、大腸がんのリスクが高くなります。これらの疾患は、大腸の粘膜に慢性的な炎症を引き起こし、炎症からの発がんを引き起こします。例えば潰瘍性大腸炎は発症から20年経過すると大腸がんになる確率が約8%、30年経過すると約18%にもなるといわれています。

糖尿病の患者さんは、大腸がんのリスクが高いことが示唆されています。インスリンの作用や糖代謝の異常が、がんの発生に関与していると考えられています。

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こちらの記事の監修医師

船越 真木子

まきこ胃と大腸の消化器・内視鏡クリニック船越 真木子 先生

近年、胃がん・大腸がんや食道がん、咽頭がんは早期発見で治せる時代になってきました。
これまでに数々の病変を診断し、治療してきた内視鏡専門医の目とAIで早期の病変をとらえ、つらくない、新しいカタチの内視鏡検査を提案します。
また、内科専門医の経験を生かし、生活習慣病の診断・治療も積極的に行います。地域を支える皆様が毎日を健やかに過ごせるよう、精一杯努めさせていただきます。

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