最終更新日:2023.07.12

乳がんとは?症状と原因、早期発見すれば怖くない乳腺の病気を解説

乳がんとは?症状と原因、早期発見すれば怖くない乳腺の病気を解説

日本女性が罹患リスクのあるすべてのがん腫の中で、現在、最も多いのが乳がんです。

乳がん治療の進歩はあらゆるがん腫の中でもめざましく、 その結果、長期生存が期待できる病気となってきています。しかし、日本における乳がんの患者数は年々増え続けており、それに比例して乳がんによる死亡率も増加傾向にあります。

その背景には、乳がんの発見と治療の遅れが、死亡率増加の一因となっていると考えられています。

本記事では乳腺外科の医師に監修していただき、乳がんの症状と原因、早期発見すれば怖くない乳腺の病気を解説しています。

乳がんの症状

乳がんになると乳房にしこりができ、しこりの大きさが1cm程度になると自分で触ったときにも確認できるようになります。基本的に乳がんのしこりはかたくてゴツゴツしており、それ以外の原因でできたしこりはやわらかくて触るとよく動くという違いがあります。
しこり以外の症状としては、えくぼのようなくぼみ、皮膚の赤みや腫れ、乳首からの分泌物が挙げられます。リンパ節に転移している場合はわきの下にしこりができることもあります。

ただし、しこりがあるからといって必ずしも乳がんというわけではなく、自覚症状がほとんどない場合もあります。女性はエストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンの影響を受けて乳腺が大きくなるため、月経周期によって乳腺がかたくなり、しこりができたり痛みを感じたりすることがあるのです。もし月経周期による乳房の痛みやしこりとは違うと感じた場合は、早めに受診することをおすすめします。

乳がんに似た症状が現れる病気

乳がんはしこりによって早期発見されるケースが多いです。一方、乳房にしこりのようなものが見つかると「乳がんかな・・・?」と不安になる方も多いですが、必ずしも乳がんであるとは限りません。

乳がんでみられるしこりをはじめ、皮膚のへこみや引きつれ、乳頭からの分泌物などの異常は、乳がん以外の乳腺疾患でも見られることがあります。いずれにしても、異常に気付いたらなるべく早めに乳腺クリニックを受診して、専門医に診断してもらいましょう。

乳がんに似た症状が現れる病気をご紹介します。

乳腺症

女性ホルモンのバランスが崩れたりして、乳腺組織の細胞の一部に変化が生じるもので、しこりができたり痛みが起きたりします。

乳腺症は、30〜40歳代の女性によく見られますが、乳腺症のしこりは基本的にがん化することはなく、乳腺症と確認できれば、一般には治療の必要はありません。

ただし、乳腺症は乳がんとの鑑別が難しいものもあるので、定期的な乳がん検診や自己検診などで継続的なチェックを続けることが望ましいです。

線維腺腫

比較的、境界がはっきりしたクリクリと動くしこりが乳房に生じる病気です。20〜30歳代の女性に多く見られます。繊維腺腫は良性腫瘍のため、がん化することはありませんが、なかには画像検査で乳がんと区別がつきにくく、鑑別に「細絶診」が必要になることもあります。し

こりが大きくなってくる場合は、「葉状腫瘍」との鑑別も必要です。

線維線腫であれば特に治療の必要はありませんが、しこりの直径が2〜3cmを超えてきたら、葉状腫瘍の可能性や美容的な面を配慮して摘出することもあります。

乳腺炎

乳汁が乳腺や乳管内に溜まってしまったり、細菌感染などによって乳腺に炎症が起こる病気です。乳房が赤く腫れて痛んだり、膿が出たり、高熱などの症状が現れます。

多くは授乳期に母乳が溜まってしまうことで起こります。細菌感染による急性の乳線炎の場合は、抗菌薬による治療が行われます。また、まれに「炎症性乳がん」という特殊なタイプの乳がんでも、似た症状が現れます。

炎症性乳がんでは、乳属のリンバ管内にがん細胞が充満してリンパ液の流れが止まり、乳房全体が赤く腫れ上がります。 

乳管内乳頭腫

乳管内にできる良性腫瘍で、30歳代後半〜50歳代の女性に多く発症します。乳頭近くにできやすく、腫瘍からの出血による乳頭からの異常な分泌物が多く見られます。腫瘍が大きくなると、しこりが触れることもあります。

がん化することはなく、腫瘍のできた乳管を切除すれば、症状はなくなります。

 

乳腺嚢胞(のうほう) 

葉状腫瘍(ようじょうしゅよう)

線維院腫とよく似たしこりができ、小さいときには画像検査や細胞診でもなかなか区別がつきません。基本的に良性腫瘍ですが、放置するとしこりがどんどん大きくなるのがこの乳腺疾患の特徴です。そのため、葉状腫瘍と診断されれば、しこりを摘出する手術が行われます。

石灰化

 

乳がんの原因

乳がんの原因にはエストロゲンという女性ホルモンがかかわっています。長年、体内のエストロゲンレベルが高い状態にあると、乳がんのリスクも高まるといわれています。

月経期間はエストロゲンが大量に分泌され、乳腺にも影響します。したがって月経回数が多い人、具体的には「初潮が早い」「閉経が遅い」「月経周期が短い」「出産経験がない」「初産が高齢」という人ほど、リスクが高まる傾向があります。また、子宮体がんや卵巣がんにかかった経験がある人、ホルモン補充療法を長期にわたって受けている人も、治療の際にエストロゲンを補充しているのでリスクが高いといえます。

妊娠・出産経験のある女性は、経験がない女性に比べて乳がんのリスクが低く、また授乳もリスク低下につながることがわかっています。一方で、近年のライフスタイルの変化により、晩婚化で高齢出産が増えたり、結婚をしないという選択をする女性が増えたりしていることも、乳がんの発症例の増加にかかわっているといわれています。

そのほか、乳がんを引き起こす原因として生活習慣も挙げられます。毎日、ビールやワインを2杯以上飲む人、すでに閉経していて肥満の人は乳がんのリスクが高まります。閉経後、運動する習慣がある人はない人に比べてリスクが低いともいわれています。
また、乳がんの中には遺伝子が乳がんにかかりやすい状態に変化した「遺伝性乳がん」、親族に複数の乳がん患者がいる「家族性乳がん」もあります。乳がんの患者さんの5〜10%程度が遺伝性だといわれていますが、この遺伝子を持っていても必ず乳がんになるというわけではありません。

乳がんの検査と診断

乳がんの検査では、基本的にマンモグラフィというX線撮影による画像診断装置を使います。X線を使うため、妊娠中は受けられません。

検査では2枚の透明な板で乳房を上下・左右から挟んで圧迫し、薄く伸ばした状態で撮影します。このとき、痛みを感じることもありますが、乳房を薄く伸ばすことで放射線量が少なくて済むだけでなく、正確に診断することにもつながります。もし我慢できないほどの痛みがある場合は圧迫を少しゆるめることも可能です。

マンモグラフィではしこりとして確認できない石灰化したがんまで見つけることができるため、早期発見・早期治療には欠かせない検査です。この検査を受けることで、死亡率減少の効果があると証明されています。

ただし、経過観察していれば問題ない良性腫瘍なども、乳がんと同じように白く写ってしまうため、マンモグラフィだけでは良性・悪性の確定ができません。また、若くて乳腺が発達している場合や、乳房が小さく乳腺が密集している場合は判断が難しい傾向があります。

他に、超音波検査を行う場合もあり、こちらは妊娠中でも受けることができます。検査ではベッドにあおむけになり、腕を上げた状態でプローブを乳房に当てながら、さまざまな方向にすべらせて画像を映し出していきます。マンモグラフィのように石灰化したがんを見つけることはできませんが、数mm程度の小さなしこりを見つけるのに有効で、しこりの濃淡や形、境界の鮮明さをもとに良性腫瘍と乳がんを見分けることも可能です。

マンモグラフィや超音波検査でしこりや石灰化が見つかった場合、乳房から細胞や組織を採取し、がん細胞を顕微鏡で確認します。このとき、細い注射針で細胞を吸引する「穿刺吸引細胞診」と、やや太い針で組織を取り出す「組織診(針生検)」のいずれかの方法で行います。

穿刺吸引細胞診では、超音波でがんの疑いがある部分を確認しながら注射針を指して細胞を吸引します。痛みが少ないので麻酔は使わず、10分程度で済みます。しこりがある場合は有効な方法ですが、採取できる細胞の量が少ないことから「悪性の疑い」「鑑別困難」などの判定となる可能性もあります。そのため、確定診断では組織診と組み合わせて行うこともあります。

組織診では使う針が太めなので、局所麻酔を施します。使用する針や採取する方法によってひとつの細胞を採取する「コア生検」、複数の組織を採取する「マンモトーム生検」などの種類があり、いずれも細胞診よりも傷が大きくなりますが、それでも数mm程度です。一度にたくさんの細胞を採取できるため、良性・悪性の判定のほか、がんの性質も確認できるため、治療方針を決めるのに役立ちます。

その後、乳がんと診断された場合は治療方針を決めるための検査として、MRIやCTなどによる画像診断を行います。

MRIは、がんの広がり具合やリンパ節への転移の有無を調べることができ、できるだけ乳房を残して治療ができるかどうかや、切除する場合はどの程度切除する必要があるのかなどを判断する上でも重要です。MRIでは被ばくのリスクはありませんが、心臓ペースメーカーやインプラントのボルトなどの金属が体内に埋め込まれている場合、磁気の影響で金属が振動して損傷する可能性があるため、該当する患者さんは受けられないことがあります。

CTは、MRIと同じくがんの広がり具合を確認することができます。ヨード造影剤を注射して撮影する「造影CT」と、らせん状に回転しながら撮影する「ヘリカルCT」があります。ヘリカルCTは断層面を1枚ずつX線で撮影する従来のCTに比べて短時間で広範囲を撮影できるだけでなく、被ばく線量が少なくて済み、三次元画像による診断が可能なので小さながんでも見つけることができます。

乳がんの治療の選択肢

乳がんの場合、手術療法、薬物療法、放射線療法を組み合わせて治療を進めていくのが基本です。手術と放射線は主に乳房のがん細胞を切除したりやっつけたりするための局所療法で、薬物は全身に散らばった可能性のあるがんをやっつけるための全身療法になります。
手術療法では、主に乳房にできたがんを切除します。手術前後に、がん細胞を小さくしてから手術する「術前薬物療法」、手術後に残ったがん細胞を殺す「術後放射線療法」を組み合わせることもあります。

手術にはいくつか種類があります。

「乳房部分切除術(乳房温存術)」は、乳房のがんとその周辺組織だけを切除する方法で、基本的には術後放射線療法と合わせて行います。「乳房切除術」は乳房全体を切除する方法で、乳がんの範囲が広い場合やしこりがさまざまな場所に多発している場合に行います。切除後にシリコンなどの人工物や患者さん自身の腹部や背中の脂肪で乳房の膨らみを取り戻す「乳房再建」を行うこともあります。

「リンパ節切除」はわきの下のリンパ節の広範囲を取り除く「リンパ節郭清」と、初期段階で最初にがんが転移したリンパ節のみを切除し、顕微鏡で検査するための「センチネルリンパ節生検」があります。

薬物療法は、大きく分けて抗がん剤治療、女性ホルモンの働きを抑えるホルモン療法、がん細胞の増殖を抑える分子標的治療の3つです。抗がん剤治療ではがん細胞のみならず正常な細胞にも影響を及ぼすことから副作用がありますが、治療の際には副作用の予防対策も行います。

放射線治療では、高エネルギーのX線などを照射してがんをやっつけていきます。乳房切除後の治療や、がんの再発・進行を防ぐ治療としても用いられることがあります。

手術による治療

薬による治療

放射線による治療

妊娠・出産と、乳がん治療

乳がんの再発・転移

治療後は、経過観察のための定期通院を継続します。薬物治療や放射線療法が必要かどうかにもよりますが、基本的には最初は1〜2週間ごと、その後は1ヶ月ごと、2ヶ月ごとなど徐々に回数が少なくなっていきます。ただし、治療の必要がなくなっても3ヶ月〜1年ごとの定期検査は欠かせません。

定期検診では問診や視触診のほか、年1回のマンモグラフィなどを行います。必要に応じて、血液検査や画像検査が追加されることもあります。再発や新たながん発生の早期発見のために、定期検診は必ず受けるようにしましょう。

乳がんはほかのがんに比べて進行が遅く、手術から5〜10年後に再発することもあります。また、一度乳がんにかかると、反対側の乳房も乳がんにかかるリスクが2〜6倍に増加し、乳がんにかかった女性の2〜11%が反対側の乳房にも乳がんが発生するといわれています。

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こちらの記事の監修医師

稲葉 亨

いなば御所野乳腺クリニック稲葉 亨 先生

秋田県秋田市の「いなば御所野乳腺クリニック」院長の稲葉 亨 です。当院は、乳がん検診、診断、乳がん治療を行う施設として、2017年9月、秋田市御所野に開院いたしました。

最新型の3D 乳房撮影機能(トモシンセシス) 搭載のマンモグラフィ、超音波検査、64列マルチスライスCTを完備しています。乳がんの早期発見を実現し、診断から治療、術前後や進行乳がんに行う薬物療法、そして術後ケア・緩和ケアまでの「乳房トータルケア」ができます。私たちの生まれ故郷である秋田県への乳腺乳がん診療にスタッフ一同、還元すべく尽力しております。

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