左胸のチクチクとした痛みは、不安やストレス、肋間神経痛、筋肉の緊張など心臓以外が原因となっていることも少なくありません。
ただし、胸の圧迫感や息苦しさ、冷や汗、肩や腕に放散するような症状がある場合は、心筋梗塞や狭心症などの心臓疾患の可能性もあるため注意が必要です。
「胸」は医学的に、首の下からお腹の上部までの範囲を指します。この胸部には、皮膚・脂肪・乳腺を外側に、骨・神経・筋肉、肺・胸膜、心臓のほか、一部の消化器臓器が存在しています。胸が痛い原因として、それらになんらかのトラブルが生じている場合が考えられます。
とくに胸痛発症の頻度が高いのは、心臓や肺の病気です。なかには心配いらない場合も多いですが、重篤な病気を見逃さないことが重要です。
本記事では、循環器・呼吸器の診察をしている医師に監修していただき、胸の真ん中・左胸痛・右胸痛の原因、胸痛に隠れた病気とストレスとの関係を解説しています。
目次
胸の痛みの原因は、多種多様です。胸は心臓がある部位ということもあり、不安を感じる方も多いと思います。
胸周辺の痛みの原因は、
大きくこの3つに分けられます。
胸の表面(胸壁)は、肋骨や横隔膜を含む組織で肺より外側に位置する部分です。神経または筋肉の炎症、ケガ、帯状疱疹などの皮膚の病気、また風邪などが原因となって痛みが現れることがあります。
このケースでは、痛みの発生箇所がどこなのか患者さんがピンポイントで訴えることができる場合が多いです。痛み方としては「刺されるような痛み」「チクチクするような痛み」と表現されることが多く、咳をしたタイミングや呼吸時に痛みが出るという方もいらっしゃいます。
一方、内臓など胸の深いところに原因がある痛みは、緊急性が高い可能性があるので注意が必要です。
など
重大な心臓や血管の病気の症状として、胸の痛みがあらわれることがあります。
また、胸痛が呼吸のたびに変化するならば呼吸器の病気、胸痛が出るタイミングが食後や就寝中であれば胃食道逆流症など消化器の病気が疑われます。
さらに胸部以外の原因として、身体の問題ではなく、パニック障害や過換気症候群など「こころの病気」が胸の痛みを引き起こしていることもあります。
これらの病気については、以下で詳しく解説します。
このように胸の痛みにはさまざまな原因が考えられますので、自己判断せずに早めに受診することが望ましいです。
下記のような症状がある場合は、すみやかに循環器科または内科を受診してください。
痛みが激しい場合は、迷わず救急車を呼びましょう。
日常生活に支障をきたすほどの痛みが出ている場合は、早期に受診することが望ましいです。
また、繰り返す胸痛、長引く胸痛は、重篤な病気のサインの可能性もあります。早めにご相談するようにしてください。
もし家族が強い胸痛を訴えていて、明らかに正気がない、元気がなく弱っているなど重症だと思われる場合は、すぐに救急車を呼ぶようにしてください。
胸痛があったからといって、必ず命の危険があるわけではありませんが、「そのうち治るだろう」と我慢したり、放置したりしていた結果、呼吸困難や意識低下を招き、緊急性が高くなることもあります。
胸痛があっても、心電図や心臓超音波検査など心臓に対する検査を行っても、異常が無いと診断されることがあります。このような胸痛は心臓に原因がない非心臓性胸痛と呼ばれています。非心臓性胸痛の原因は様々で、肺の病気や肋間神経痛、膵炎なども原因として知られています。
心臓や血管の病気が原因で胸痛を感じる場合は、早急に適切な対応しなければなりません。放っておくと生死にかかわるため、すみやかに受診することが必要です。すぐに救急車を呼びましょう。
胸痛を引き起こす心臓や血管の病気には以下のようなものが挙げられます。
狭心症や心筋梗塞とは、わかりやすくいうと心臓の血管が詰まる病気です。狭心症になると、身体を動かしているときに胸の中心〜左あたりに締め付けられるような苦しさや痛み、圧迫感を覚えます。胸以外に、首や肩などに広がるような痛み(放散痛)を感じたり、上腹部に痛みが出たりするケースもあります。動いているときだけでなく、安静にしているときや、就寝中に痛みを感じることもあります。ただし、これらの痛みは数分で消えるというのが特徴です。
痛みが激しく、痛みを感じる時間が長くなった、痛みだけでなく冷や汗が出たり、呼吸困難になったりしたという場合は心筋梗塞を引き起こしている可能性が考えられます。
大動脈解離とは血管が裂ける病気で、動脈硬化が原因であることが多いです。突然、胸に引き裂かれるような激しい痛みを感じ、やがて広範囲に痛みを感じるようになっていきます。血流の流れが悪くなる部分を中心に痛みや症状が表れ、胸の痛みのほか、意識障害、失神、腹痛を覚えることもあります。
肺や胸膜の病気が胸の痛みを引き起こすことはあるものの、そもそも肺には痛みの神経がありません。よって、この場合の胸の痛みは、肺のみならず、痛みの神経がある胸膜にかかわりの深い病気によって発生するといえます。
細菌などの感染症が原因で胸膜が炎症を起こし、胸の中に膿がたまってしまう病気です。胸の痛みのほか、発熱や悪寒があることも多いです。鈍い胸の痛みを感じ、呼吸によって痛みの程度などが変化する傾向があります。胸膜炎の中でも、悪性疾患に伴うがん性胸膜炎の場合は発熱などがなく、胸の痛みだけが症状としてあらわれます。
肺がパンクする病気で、胸の痛みの原因となっていることが多い病気です。突然、胸の痛みや息苦しさを感じるのが特徴で、深呼吸をするたびに痛みを強く、長く感じるようになります。
特にやせ型で若い男性がかかることが多いといわれていますが、肺気腫やブラ(気腫性のう胞)などの呼吸器の病気を持っている中高年もかかりやすい傾向があります。
心臓や血管の病気が原因で起こる胸痛以外では、食道の病気によって胸痛が引き起こされることが多いです。
逆流性食道炎と胃食道逆流症は、いずれも胸の痛みなどを引き起こす食道の病気で、ほぼ同じ意味で使われることがほとんどです。
厳密にいうと、胃食道逆流症とは胃と食道のつなぎ目にある筋肉の働きの低下、胃酸が多く出てしまう、食道の知覚過敏などが起こり、強い酸性の胃液や胃で消化される途中の食物が、食道に逆流してとどまっている状態を指します。それによって食道が炎症を起こし、胸やけや胸の痛みなどを引き起こすことを逆流性食道炎といいます。
胸の痛みが食道裂孔ヘルニアなどの食道の病気で起こっている場合、痛みは食後または就寝中や朝方に起こることがほとんどです。特に食道裂孔ヘルニアで胸の痛みが起こる場合、ほとんどが夜間で、就寝中に突然痛みを感じるほか、明け方に口に苦みを感じたり、普段よりもゲップが増えたりすることもあります。
この場合、血圧や意識状態に負担がかかることはありません。ただし、中には食道の病気が原因であっても、胸の痛みが強いことから心臓発作を疑って、救急外来を受診するケースもあります。
原因不明の胸の痛みで受診した場合、まずは心電図やレントゲン検査などを行い、心臓の病気が隠れていないかをチェックします。結果、異常がなければ内視鏡検査が行われ、逆流性食道炎だと判明することもあります。
内視鏡検査で粘膜の炎症がなければ、軽度の食道裂孔ヘルニアと診断される例がほとんどです。ただし、食道アカラシアなどの食道運動機能障害の場合は内視鏡では診断が難しく、発見できないこともあります。
食道運動機能障害を見つけるためには、まずは造影剤による食道造影を行い、診断確定の際に食道内圧測定と呼ばれる特殊な検査を行わなければなりません。
食道運動機能障害の原因は現状不明ですが、食道の運動(蠕動)に異常が起きていることで、胸の痛みが引き起こされると考えられています。
ケガや激しい運動、激しいせきなどをした際に、肋骨が折れたり、ひびが入ったりしたことから、胸の痛みを感じることがあります。安静にしているときは鈍い痛みを、身体を動かしたり、深呼吸やせきをしたり、胸部を押したりしたときに強い痛みを感じるのが特徴です。
肋間神経痛とは、肋骨に沿って走行する肋間神経が何らかの原因で異常が起き、胸などに突発的な痛みを感じる病気です。胸の片側に強い痛みを感じ、深呼吸やせき、体勢を変えた際に痛みが強くなることもあります。
肋間神経痛が、帯状疱疹によって引き起こされることがあります。帯状疱疹は、肋間に沿うようにして潜む水ぼうそうのウイルスが原因です。胸などの身体の一部に鋭く激しい痛みを感じ、水ぶくれのある発疹があらわれます。
他に、側弯症や脊椎の神経の圧迫が胸の痛みの原因となっていることもあります。
肺から発生するがん、または他の臓器から発生するがんの腫瘍が胸壁まで広がった場合、胸周辺に強い痛みが継続的にあらわれるようになります。
検査で心臓に異常がないのにもかかわらず、患者さんが胸の痛みを訴えることがあります。原因はストレスや不安・緊張などからくるものだと考えられています。
このような病態を、
などと呼びます。
ストレス・不安・緊張によって胸が痛いと感じる要因には、以下の3つがあると考えられます。
全身の器官を調節する自律神経のバランスが乱れ、胸のあたりや心臓が痛いと感じることがあります。
自律神経は、交感神経と副交感神経で構成されています。交感神経とは、心拍増加・血圧上昇に深くかかわりがあります。一方の副交感神経は、心拍・血圧を下げて心身をリラックスさせる役割を持っています。
ストレスを感じると交感神経が活発化しやすくなり、本来は副交感神経が働くような状況でも、交感神経が働くようになってしまいます。こうして交感神経がどんどん活性化すると、心臓が通常よりも活発に働くようになります。そうなった場合、動悸や息切れなどが起こりやすい状態が続き、人によっては「心臓が痛い」と感じることも珍しくありません。
いったん心臓の痛みを感じてしまうと、不安感からストレスが増加し、ますます交感神経が率先してはたらくようになります。ゆえに、心臓神経症の悪化につながるという悪循環を招くこともあり得ます。
交感神経が活性化しすぎて、心臓の負担が大きくなると、不整脈などを引き起こす可能性があるので注意が必要です。
ストレスなどが原因で心臓に十分な血液が行き渡らず血行不良が続くと、胸周辺に痛みを感じることがあります。
本来、人間がストレスを感じたときは、心拍数が上昇して血流が良くなります。しかし、動脈硬化や血栓があると、血管内部が狭くなっているので血流スピードが落ちてしまい、心拍数が上がっても血流が良くならないという状態になります。
要は、心臓から送り出される血液量は増えているにもかかわらず、心臓に戻ってくる血液量が極端に少なくなってしまうのです。こうなると、心臓が血液不足になり、胸の辺りに強い痛みを感じるようになります。
パニック障害になると、発作的に激しい心臓や胸周辺の痛み、動機や息切れに襲われます。あまりの発作の激しさから「このまま死んでしまうかもしれない」と感じることもよくあります。例えば電車に乗っているときに発作が起こった場合は、「また発作が起きるかもしれない」という不安から電車に乗れなくなったりすることもあります。
パニック障害の原因は今のところはっきりしていませんが、ストレスが影響していると考えられています。
胸部の臓器といえば主に心臓と肺があげられますが、男性と比べて女性は乳房に痛みを感じる病気も多いため、胸の痛みにはさまざまな疾患の可能性があります。
本記事では、女性ホルモンや乳腺に関連する病気は簡単に紹介し、循環器系の疾患である狭心症について詳しく解説します。
心臓周辺の冠動脈の奥深くにある微小冠動脈が深くかかわっている微小血管狭心症も、胸の痛みを引き起こすことがあります。微小冠動脈は、心臓を動かす筋肉に酸素や栄養を供給する働きを持っています。微小冠動脈に、十分に拡張しない・異常に収縮するなどの異常が起こると、冠動脈の太い血管が正常に働いていても、心筋に行き渡るはずの血液が不足してしまい、胸の痛みを感じることがあります。
女性の場合、更年期を迎えると血管を広げる働きを持つ女性ホルモンが低下し、血管が収縮することから、微小冠動脈の異常を起こしやすくなります。加えて、Rho(ロー)キナーゼと呼ばれる酵素の活性化も、微小冠動脈の異常を招くことがあるといわれています。
女性の場合、生理前や妊娠中に胸の痛みを覚えることがよくあります。生理前のタイミングは、女性ホルモンのバランスが変わりやすく、乳腺の血行なども変化しやすくなることから、胸全体の痛みや張りを感じることがあります。妊娠中も同様の理由から、胸の痛みを訴える女性が多いようです。
今までは胸の痛みを感じなかったはずが、突然胸が痛み出した、生理が終わっても胸の痛みが続いているという場合は受診することをおすすめします。
女性は胸の痛みを感じて乳がんを疑い、受診されることが多いですが、たいてい乳がんではないことが多く、乳腺炎などにかかっていることがあります。
ただし、中には乳腺炎とよく似た症状があらわれる炎症性乳がんなどが隠れていることもあるため、痛みがある場合は我慢せずに乳腺外来を受診するようにしましょう。
胸の痛みを感じる病気はさまざま存在します。どんな病気が隠れているのかを見つけるためにも、まずは痛みの種類や部位などを明確にするために問診と検査を行います。
具体的には
を実施します。
これらの検査で異常がない、診断がつかないという場合は、
など、より詳細な精密検査を追加する場合が多いです。
基本的には診断結果をもとに治療を進めますが、原因がはっきりしない場合もあり、痛み止めや抗不安薬などを投与した上で、経過観察をするケースもあります。
左胸のチクチクとした痛みは、不安やストレス、肋間神経痛、筋肉の緊張など心臓以外が原因となっていることも少なくありません。
ただし、胸の圧迫感や息苦しさ、冷や汗、肩や腕に放散するような症状がある場合は、心筋梗塞や狭心症などの心臓疾患の可能性もあるため注意が必要です。
胸の中央の痛みは、狭心症や心筋梗塞などの心臓疾患が疑われる重要なサインです。
特に運動時やストレス時に出現し、数分〜十数分で自然に治まるような圧迫感は典型的な狭心症の症状とされています。その他、逆流性食道炎や食道けいれんなど消化器系の疾患でも似たような痛みが出ることがあります。
はい。ストレスや自律神経のバランスの乱れにより、胸の圧迫感や息苦しさ、動悸、胸の痛みが現れることがあります。
いわゆる心因性胸痛と呼ばれるもので、心臓などに器質的異常が見つからないケースが多いですが、本人にとっては強い不快感を伴うこともあります。
胸痛と呼吸困難が同時に起きている場合は、心臓や肺の緊急疾患の可能性がありますので、まずは内科、特に循環器内科や呼吸器内科を受診してください。
夜間や休日で受診が難しい場合は、救急外来での対応も検討しましょう。軽視せず早期受診が重要です。
症状が数日以上続く場合は整形外科や内科で診察を受けてください。
体をひねったり、深呼吸したときに痛みが強くなる場合は、筋肉や肋骨、肋間神経の炎症や損傷が原因の可能性があります。筋肉痛や肋間神経痛、筋膜炎などが考えられますが、症状が数日以上続く場合は整形外科や内科で診察を受けてください。
右胸の痛みは、肺の病気(肺炎や自然気胸)、肝臓や胆のうなどの消化器系疾患、筋肉や肋骨の炎症などさまざまな原因が考えられます。
左胸と比べて心臓疾患の可能性は低くなりますが、肺塞栓症や肋間神経痛など、重大な病気も含まれるため油断はできません。
呼吸に伴って胸が痛む場合、胸膜炎や肺炎、気胸などの呼吸器系疾患が関与している可能性があります。
特に深呼吸や咳をしたときに痛みが強まる場合は、肺や胸膜に炎症があるかもしれません。発熱や咳がある場合は早急に呼吸器内科を受診してください。
胸の痛みが一瞬で消えたとしても、頻繁に繰り返す場合や、過去に経験したことのない種類の痛みであれば、一度医療機関で検査を受けるべきです。
特に動悸や息切れ、冷や汗、吐き気などの症状を伴う場合は、重大な心臓疾患の兆候である可能性があります。
心電図で異常がなくても、狭心症や心膜炎、自律神経の乱れ、食道炎、肋間神経痛など、心電図に現れにくい疾患が原因である場合もあります。
症状が継続している、または日常生活に支障をきたしている場合は、血液検査や心エコー、CTなどの精密検査を受けることを検討してください。
初めての胸痛で不安がある場合は、まずは内科に相談してください。
症状の性質や背景から、循環器内科や呼吸器内科、整形外科、心療内科などの専門科に振り分けてもらうことができます。休日や夜間に激しい胸痛が出た場合は、我慢せず救急外来を利用するのが安心です。
泉大沢ファミリークリニック石塚 豪 先生
仙台の泉区大沢にある「泉大沢ファミリークリニック」 院長の石塚です。
10年以上にわたってお世話になりました仙台医療センターを退職し、2019年2月仙台市泉区大沢に新規開業しました。
これまで培ってきました地域医療での経験や基幹病院での高度医療の経験をいかし、専門であります循環器呼吸器疾患を中心に、内科疾患から小児科疾患まで幅広く対応させて頂きます。
「患者さんの不安を安心に変えられるように」を合言葉に、地域の皆様から信頼を頂けるような温かいクリニックを目指します。
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