一律の基準はありませんが、飛行機・車・鉄道などで4時間を超える移動は一つの注意目安とされています。
長時間の移動や作業では、1〜2時間ごとに体を動かすことが推奨されます。
エコノミークラス症候群(エコノミー症候群)は、長時間動かないことで起こり得る静脈血栓塞栓症の通称です。
足の深部静脈に血栓(血のかたまり)ができる「深部静脈血栓症(DVT)」や、その血栓が血流に乗って肺動脈に詰まる「肺血栓塞栓症(PTE)」を含み、後者では肺の血流が止まることで呼吸困難や胸痛などの重い症状を引き起こし、命に関わることがあります。
足のむくみや痛みなど気になる症状がある場合は、まずは循環器内科を受診しましょう。急な息苦しさや胸痛、失神などがある場合は、受診を待たず119番で救急要請してください。
この記事では循環器専門医監修のもと、以下の内容を解説します。
エコノミークラス症候群のポイント
足のむくみや痛みなど「気になる症状がある方」は前兆・症状のセクションを、「今まさに症状が出ている方」は応急処置のセクションを先にご確認ください。
目次
「エコノミークラス症候群」「エコノミー症候群」は通称であり、医学的な正式名称ではありません。医療機関では「深部静脈血栓症(DVT:Deep Vein Thrombosis)」および、それが進行して肺の血管に詰まった状態を指す「肺血栓塞栓症(PTE:Pulmonary Thromboembolism)」という病名が使われ、両者をあわせて「静脈血栓塞栓症(VTE:Venous Thromboembolism)」と呼びます。エコノミークラス症候群は、DVTのみの場合とPTEを合併した場合の両方を含む通称として使われています。
「エコノミークラス症候群」と「エコノミー症候群」はほぼ同じ意味で使われており、内容に明確な違いはありません。もともと飛行機のエコノミークラスのように座席間隔が狭く、長時間足を動かしにくい環境で発症する例が多かったことから、この通称がつけられました。
ただし、実際にはビジネスクラスや新幹線、車での長距離移動、さらには飛行機に乗らない日常生活の中(デスクワークや災害時の避難所生活など)でも起こり得る病気です。「移動中特有の病気」ではなく「長時間動かないことによる血流停滞が原因の病気」と理解しておくことが重要です。
エコノミークラス症候群は、血栓が足の静脈にできる段階(深部静脈血栓症)と、それが肺に飛んで詰まる段階(肺血栓塞栓症)とで、現れる症状が異なります。
最も多い初期症状は、片足だけに現れるむくみや腫れ、ふくらはぎのだるさ・痛みです。両足ではなく片足のみに症状が強く出る場合、深部静脈血栓症の可能性を考える必要があります。皮膚の色が赤紫色っぽく変色したり、触ると熱っぽく感じたりすることもあります。
ふくらはぎだけでなく、膝の裏側に張りや違和感、しびれるような感覚が現れることもあります。長時間の同一姿勢のあとにこうした症状が続く場合は注意が必要です。
肺血栓塞栓症では、急な息苦しさや胸痛のほか、動悸、めまい、ふらつき、失神を伴うことがあります。特に、息苦しさや胸痛と同時にめまい・失神がある場合は、重症化している可能性もあるため注意が必要です。
一方、めまいや頭痛は脱水、睡眠不足、貧血、感染症、片頭痛など多くの原因で起こる非特異的な症状です。頭痛やめまいだけでエコノミークラス症候群と判断することはできません。急な呼吸困難、胸痛、動悸、失神、片側の足の腫れ・痛みなどを伴う場合は、速やかに医療機関へ相談してください。
以下の症状がある場合は、肺血栓塞栓症を起こしている可能性があり、命に関わる緊急事態です。
これらの症状が、長時間座っていた後や、立ち上がって歩き出したタイミングで急に現れることが多いのが特徴です。該当する症状がある場合は、次の「なったら?応急処置」の章をすぐにご確認ください。

明確に「何時間から発症する」と一律に決めることはできません。ただし、飛行機・車・鉄道などで4時間を超える長時間移動は、旅行関連の血栓症について注意が必要となる一つの目安とされています。
移動中や座って作業する時間が長いときは、1〜2時間ごとを目安に立ち上がって歩く、または足首を動かすなどして、同じ姿勢を続けないようにしましょう。血栓症の既往、がん、妊娠・産後、手術後、肥満などのリスク要因がある方は、移動前に主治医へ相談してください。
なお、「4時間」はあくまで旅行に伴う長時間不動の注意目安であり、デスクワークなど座位全般に一律に当てはまる医学的な発症境界ではありません。
足を動かせない狭い座席での長時間移動は、ふくらはぎの筋肉(血液を心臓に送り返すポンプの役割を果たす)が働かず血流が滞りやすくなるため、代表的な発症シーンとされています。飛行機に限らず、新幹線や自家用車での長距離移動でも同様のリスクがあります。
移動中でなくても、オフィスや自宅で長時間座りっぱなしの作業を続ける場合も同じ仕組みでリスクが生じます。在宅勤務が増えたことで、日常的な座りっぱなしによる血流停滞が指摘されるようになっています。
手術後の安静期間や病気による寝たきり状態、また地震などの災害時に車中泊や避難所で長時間同じ姿勢を取り続ける状況でも、エコノミークラス症候群は起こり得ます。実際に大規模災害の避難生活における発症例が報告されており、「動けない状況が続くこと」自体がリスク要因です。
以下に当てはまる方は、血栓ができやすい傾向があるとされています。
これらに当てはまる方は、長時間の移動や安静が必要な場面で、より意識的な予防が推奨されます。

長時間の座位、疲労、塩分摂取などによる一時的な足のむくみやだるさは、歩行や休息、水分補給などで軽快することがあります。
ただし、症状が軽くなったことだけで、深部静脈血栓症がないとは判断できません。特に、片足だけの腫れ・痛み・熱感・赤みや色の変化がある場合、または息苦しさ、胸痛、動悸、めまい・失神を伴う場合は、自己判断で様子を見ず、医療機関を受診してください。
片足だけの強いむくみ・痛み・皮膚の変色といった症状を「そのうち治るだろう」と放置してしまうことは危険です。足にできた血栓がはがれて血流に乗り、肺の血管を詰まらせる肺血栓塞栓症に進行すると、命に関わる状態になり得ます。
深部静脈血栓症や肺血栓塞栓症が確認された場合は、血栓の増大や新たな血栓形成を防ぐため、抗凝固薬による治療が基本となります。「症状が軽いから」「そのうち治りそうだから」と自己判断せず、気になる症状がある場合は医療機関を受診し、必要に応じて検査を受けることが重要です。

移動中や座っている最中に、呼吸困難や胸痛などを伴わない軽度な足のむくみ・だるさに気づいた場合は、以下のような対応が予防的に有効とされています。
これらはあくまで軽い症状の段階、または予防目的でのセルフケアです。片足の急な強い腫れ・痛みや、呼吸困難・胸痛などを伴う場合は、歩行や運動を促すのではなく、次に述べる緊急時の対応を優先してください。むくみのある部分を強く揉むような行為も、血栓を動かす可能性があるため避けましょう。
以下のような症状がある場合は、肺血栓塞栓症の可能性があります。命の危険があるため自分で運転して受診しようとせず、119番で救急車を要請してください。
肺血栓塞栓症は生命に関わり得る病気であり、これらの症状は緊急の医療評価が必要なサインです。「様子を見よう」と判断せず、速やかな対応を優先してください。
深部静脈血栓症・肺血栓塞栓症が疑われる場合、施設体制により循環器内科、血管外科、呼吸器内科、救急科などが診断・治療にあたります。どの科にかかるべきか迷う場合は、まず医療機関や救急相談窓口に電話で症状を伝え、案内を受けることも一つの方法です。
ただし、前述の危険なサイン(急な呼吸困難、胸痛、失神など)がある場合は、受診科を選ぶことよりも救急要請(119番)を優先してください。

深部静脈血栓症・肺血栓塞栓症の診断には、主に以下のような検査が用いられます。
これらの検査を組み合わせて、血栓の有無や範囲、重症度を評価します。
治療の中心は、血液を固まりにくくする「抗凝固薬」による薬物治療です。抗凝固薬は、血栓が大きくなることや新たな血栓ができることを防ぐ治療であり、既にできた血栓は時間をかけて体内の働きにより処理・縮小していきます。
重症例では、病態に応じて血栓溶解療法やカテーテル治療、外科的治療などが検討されることもありますが、すべての患者に行われる治療ではありません。治療法は血栓の場所・大きさ・症状の重さによって異なるため、医師の判断に基づいて選択されます。
症状が軽度で全身状態が安定している場合は外来での治療が可能なこともありますが、肺血栓塞栓症を合併している場合や重症度が高い場合は入院が必要になります。入院期間は症状の重さや治療への反応によって個人差が大きいため、担当医の説明を確認することが大切です。

長時間座ったままの状態が続くときは、以下のような運動を取り入れることでふくらはぎの血流を促せます。
弾性ストッキングは、長時間移動時の血栓予防として用いられることがあります。ただし、足の動脈の病気がある方、皮膚に傷や炎症がある方などでは注意が必要な場合があります。血栓症の既往がある方、がん治療中の方、妊娠中・産後の方などは、自己判断で選ばず、事前に医師へ相談しましょう。
脱水は血液が固まりやすくなる一因とされるため、こまめな水分補給を心がけましょう。アルコールやカフェインの摂り過ぎは利尿作用により脱水を助長する可能性があるため注意が必要です。また、体を締め付けすぎない服装を選ぶことも血流を妨げない工夫の一つです。
同じ意味で使われる通称です。
医学的には、足の深部静脈血栓症(DVT)や、それが肺に詰まる肺血栓塞栓症(PTE)を含む「静脈血栓塞栓症(VTE)」と呼ばれます。
一律の基準はありませんが、飛行機・車・鉄道などで4時間を超える移動は一つの注意目安とされています。
長時間の移動や作業では、1〜2時間ごとに体を動かすことが推奨されます。
疲労などによる軽いむくみは休息で軽快することがありますが、それだけで血栓症がないとは判断できません。
片足の強いむくみ・痛み、息苦しさなどがある場合は自己判断せず医療機関を受診してください。
あります。
デスクワークや在宅勤務での座りっぱなし、寝たきりの状態、災害時の避難所生活など、長時間動かない状況全般で起こり得ます。
片足のむくみ、ふくらはぎの痛みやだるさ、皮膚の変色などが代表的です。
悪化すると呼吸困難や胸痛を伴うことがあります。
呼吸困難や胸痛を伴わない軽度なむくみであれば、足を動かす、水分補給をするなどが予防的に有効とされます。
急な息苦しさ、胸痛、失神などがある場合は、自分で運転して受診せず119番で救急車を要請してください。
循環器内科や血管外科が中心となりますが、症状が重い場合は救急外来の受診が推奨されます。
迷う場合はまず医療機関や相談窓口に電話で確認しましょう。
肺血栓塞栓症ではめまいや失神を伴うことがあります。
一方、頭痛は主な症状ではなく、頭痛やめまい単独では判断できません。呼吸困難や胸痛、足の症状を伴う場合に注意が必要です。
はい。
長期間体を動かせない状態が続くと血流が滞りやすくなるため、寝たきりの方は発症リスクが高いとされ、医療機関でも予防策が取られることがあります。
こまめな運動・水分補給・弾性ストッキングの活用が基本です。
一度発症したことがある方は医師の指導のもと、生活上の注意点や必要に応じた薬物治療の継続について相談することが重要です。

はらだメディカルクリニック原田 睦生 先生
こんにちは。はらだメディカルクリニック院長の原田睦生です。
10年間の東京大学循環器内科での経験のなかで50歳という人生の節目を迎え、家族の住む仙台に戻り、仙台泉上谷刈にクリニックを開業いたしました。
現代医療は目覚ましく進歩し、多くの病気が治るようになりました。一方で人生100年時代を迎え、高血圧やフレイルなど加齢に伴う病気と長く付き合う時代でもあります。「病気とともに生きる時間」を「質の高い納得のいく人生」として過ごしていただけるよう、地域のかかりつけ医として皆さまに寄り添ってまいります。
どうぞよろしくお願いいたします。
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