できます。請求権の時効内であれば、退職後でも申請が可能です。
療養補償給付などの請求権の時効は原則2年、障害・遺族給付の請求権の時効は原則5年です。在職中に発症した精神障害について、退職後であっても時効内であれば申請が可能です。
仕事のプレッシャーや職場の人間関係で、心身が限界を迎えてしまった方へ。まず、ここまで頑張ってこられたことを、労ってください。
「うつ病になったのは仕事のせいなのに、労災は使えないの?」と思っている方は多いです。結論から言うと、うつ病も労災認定の対象になります。ただし、骨折などの身体的な怪我と違い、「仕事が原因でうつ病になった」という因果関係を証明する必要があるため、認定までのハードルは高く、認定率はおおむね3〜4割程度とされており、決して簡単ではありません。
この記事を読めば、自分の状況が認定条件に当てはまるかどうか、次に何をすればよいかが分かります。一人で抱え込まず、まずは正しい情報を知ることから始めましょう。
本記事の内容は、執筆時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。個別の労災申請・法律相談については、お住まいの地域の労働基準監督署、社会保険労務士、弁護士、主治医などの専門家にご相談ください。
厚生労働省が定める「心理的負荷による精神障害の認定基準」では、以下の3つの条件をすべて満たす場合に、労災認定の対象となります。
労災の対象となるのは、WHO(世界保健機関)の国際疾病分類(ICD-10)に基づいて診断された精神障害です。うつ病・適応障害・急性ストレス反応などが代表的です。
重要なのは、医師による正式な診断を受けていることです。「なんとなく気持ちがつらい」という自覚症状だけでは認定されません。まず精神科・心療内科を受診し、診断書を取得することが最初のステップです。
これが最も重要であり、かつ証明が難しい条件です。発病する前のおおむね6か月間に、仕事上の強いストレス(心理的負荷)があったことが必要です。
具体的には、以下のような出来事が評価対象になります。
心理的負荷の強さは「強・中・弱」の3段階で評価されます(詳しくは次のセクションで解説)。
例外的に、特別な出来事があった場合などには、6か月を超える期間の出来事が評価対象となることもあります。
離婚・死別・多額の借金・重篤な身体疾患など、プライベートな出来事が発病の主な原因である場合は、労災認定の対象外となります。
ただし、業務上の負荷とプライベートな出来事が重なっている場合でも、業務上の負荷が主たる原因と判断されれば認定される可能性があります。この判断は労働基準監督署が総合的に行います。
労働基準監督署は、発病前6か月間に起きた業務上の出来事を「強・中・弱」の3段階で評価します。認定されるためには、原則として「強」の評価に相当する心理的負荷があったことが必要です。
「弱」や「中」の出来事であっても、複数の出来事が重なって総合的に「強」と評価される場合があります。
以下の出来事があった場合は、原則として「強」と評価される代表例です。内容・程度によって個別に判断されます。
2023年の認定基準の改正により、時代の変化に対応した新たな評価項目が加わりました。
カスタマーハラスメント(カスハラ)の明文化:顧客・取引先からの著しい迷惑行為(暴言・過大な要求・長時間の拘束など)が、正式に評価対象として明記されました。接客業・サービス業に従事する方にとって重要な改正です。
パワーハラスメントの類型追加:これまでより広い範囲のパワーハラスメント行為が評価対象に含まれるようになりました。いじめ・嫌がらせの具体例も詳細化されています。
感染症リスクの高い業務の追加:感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事したことも、評価対象として加わりました。
悪化部分の認定範囲の見直し:業務による強い心理的負荷により既存の精神障害が悪化した場合についても、認定される範囲が整理されました。
以下の項目に1つでも当てはまる場合、労災申請を検討する価値があります。

チェックが複数つく場合は、まずかかりつけの精神科・心療内科の医師、または最寄りの労働基準監督署に相談することをおすすめします。
まず医師の診察を受け、診断を確定させることが最優先です。労災申請には診断書が必要になるため、受診の際に「仕事が原因で発症した可能性がある」と医師に伝えておくことが重要です。
会社に報告し、労災申請の手続きに協力してもらうのが一般的な流れです。ただし、会社が「労災ではない」と主張したり、申請に非協力的な場合でも、労働者本人が労働基準監督署に直接申請することができます。労災の認定権限は会社ではなく労働基準監督署にあります。
「精神障害の労災申請」に必要な書類を揃え、事業場を管轄する労働基準監督署に提出します。主な提出書類は以下のとおりです。
労働基準監督署の担当者が、申請者本人・会社・同僚などへのヒアリングや資料収集を行います。勤務記録・メール・日報なども重要な証拠になるため、手元に保存しておくことをおすすめします。
調査が完了すると、認定または不支給の決定通知が届きます。
精神障害の労災調査には時間がかかります。目安として半年から8か月程度かかるとされており、場合によっては1年以上になることもあります。不支給となった場合でも、審査請求・再審査請求という不服申立て制度があります。
労災申請中であっても、認定が出るまでの間は労災給付を受け取ることができません。その間の生活費をどう確保するかが、多くの方の不安です。
労災申請中であっても、健康保険の傷病手当金を受給することは原則として可能です。傷病手当金は、休業4日目から標準報酬日額の約3分の2が、最長1年6か月支給されます。
最終的に労災から休業補償給付が支給されると、その分と重複する傷病手当金については健保との間で調整(返還)が行われます。全額を一括で自己負担するのではなく、給付間の重複分が精算される形です。
精神障害の労災申請は、手続きが複雑で調査も長期に及びます。社会保険労務士や弁護士(特に労働問題専門)に相談・依頼することで、申請書類の作成サポートや、会社との交渉を任せることができます。費用はかかりますが、認定率を高めるうえで有効な選択肢です。

できます。認定の判断は会社ではなく、労働基準監督署が行います。
会社が申請に反対・非協力的であっても、労働者本人が直接、管轄の労働基準監督署に申請することができます。会社の同意は必要ありません。
できます。請求権の時効内であれば、退職後でも申請が可能です。
療養補償給付などの請求権の時効は原則2年、障害・遺族給付の請求権の時効は原則5年です。在職中に発症した精神障害について、退職後であっても時効内であれば申請が可能です。
労災申請を行うと、会社へのヒアリングが行われるため、申請の事実は伝わります。
会社に知られたくない場合は、まず社会保険労務士や弁護士に相談し、対応方法を検討することをおすすめします。
直接的な罰則はありませんが、保険料増加や行政指導が入る場合があります。
労災保険料が増加する可能性があります(メリット制)。また、労働基準監督署による調査が入り、職場環境の改善指導が行われる場合があります。なお、労働者の申請を理由に会社が不利益な扱いをすることは法律で禁じられています。
まず主治医に相談し、症状の変化を診療記録として残してください。
申請内容の変更が必要な場合は、労働基準監督署の担当者に連絡しましょう。申請中であっても、適切な医療を受け続けることが最優先です。
証拠がなくても申請はできます。できる範囲で記録を残しておくと有利に働きます。
労働基準監督署は、本人の申立書だけでなく、同僚・上司へのヒアリング、勤務記録、メール、日報なども総合的に調査します。手帳にメモを残す・メールを保存するなど、できる範囲で記録を残しておくことをおすすめします。
できます。適応障害もICD-10に基づく精神障害として、労災認定の対象です。
うつ病と同様に、発病前6か月間の業務による強い心理的負荷があったことなど、3つの条件を満たす必要があります。
復帰の義務はありません。
復帰するかどうかは、主治医の判断と本人の意向によって決まります。職場復帰が難しい場合は、退職後も一定期間給付を受け続けることができます。
療養費の全額、休業中の補償、後遺障害への給付の3種類が主な給付です。
療養補償給付(医療費の全額)、休業補償給付(休業中の給付基礎日額の約80%)、障害補償給付(症状固定後に障害が残った場合の年金・一時金)があります。
できます。労災給付と損害賠償請求は別々の手続きとして並行して行うことが可能です。
ただし、一部の給付については損益相殺が行われる場合があります。弁護士への相談をおすすめします。
うつ病になったのは、あなたのせいではありません。まずは精神科・心療内科で適切な治療を受けながら、必要であれば労災申請という選択肢を検討してください。一人で抱え込まず、専門機関や専門家の力を借りることも大切です。
本記事は、厚生労働省が公表している資料および公的機関の情報を参考に執筆しています。制度や運用は変更される可能性があるため、最新情報は厚生労働省の公式サイト等をご確認ください。
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