これまで慶應義塾大学消化器内科を中心に、関連病院や米ペンシルバニア大学留学、東海大学・東京医療センターなどで臨床・研究・教育に携わってまいりました。医師を志して以来25年間、臨床現場の最前線で研鑽を積んでおります。
診療を通じて、治療だけでなく未病予防や健康管理の重要性を強く実感し、専門の内科・消化器・肝臓分野に加え、幅広い視点で患者様一人ひとりに寄り添った医療の提供に努めております。
医療は医療従事者だけでなく、患者様やご家族とともに築くものです。感謝の気持ちを大切にしながら、地域に貢献できるクリニック運営を目指します。
また、今後はメタボリック症候群とロコモティブ症候群を同時に予防・管理する新たな診療にも取り組み、常に学び続け、皆様とともに成長してまいります。
肝臓を知り、肝臓を守る|病気と検査・治療と生活習慣の総合ガイド
あなたは自分の肝臓のことを、どのくらい気にかけているでしょうか。
心臓や肺と違い、肝臓は「痛い」「苦しい」といったシグナルをほとんど発しません。かなりのダメージが蓄積されても、日常生活は普通に送れてしまう。だからこそ、肝臓の病気は「気づいたときには手遅れ」になりやすい臓器のひとつです。
それでも、肝臓は私たちの生命を支える上で非常に重要な役割を担っています。食事でとり込んだ栄養素の加工、有害物質の解毒、血液に関わるタンパク質の合成、消化に欠かせない胆汁の産生――これらすべてを、休みなく一手に引き受けているのが肝臓です。
近年、「お酒をほとんど飲まないのに脂肪肝になる人」が急増しています。生活習慣の変化、肥満、糖尿病との関係、そして新しい治療薬の登場など、肝臓をとりまく医療の常識は今まさに更新されています。
本記事では日本肝臓学会専門医・指導医である医師が監修し、肝臓の基本的な働きから脂肪肝の新しい考え方、最新の検査・治療、そして今日から始められる生活習慣のコツまでを、できるだけわかりやすくお伝えします。「肝臓のことは健診結果を見るときだけ気にする」という方にこそ、ぜひ読んでいただきたい内容です。
目次
肝臓ってどんな働きをしている?
体の代謝を担う中心的な臓器であり、健康を守る重要な存在
肝臓は、成人で約1,000〜1,500gある体内最大の臓器です。右の肋骨の内側にすっぽりと収まり、外からは直接触れることができません。その働きは、ひとことで言えば「体の代謝工場」です。主な機能を大きく3つに分けると、次のようになります。
代謝・合成体
食事から吸収された糖質・タンパク質・脂質は、腸から門脈(もんみゃく)という血管を通じて肝臓に運ばれ、体が使いやすい形に変換されます。糖質はグリコーゲンとして蓄えられ、血糖値が下がったときに放出されます。タンパク質からはアルブミン(血液中の水分バランスを保つ)や凝固因子(出血を止める)などの重要なタンパク質が合成されます。コレステロールや中性脂肪の代謝にも肝臓は深く関与しています。
解毒
アルコール・薬物・食品添加物・体内で生じたアンモニアなど、血液中に流れてくる有害物質を、肝臓は分解・無毒化して体の外へ排出できる形にします。この機能が低下すると、本来は無害化されるはずの物質が体内に蓄積し、さまざまな障害を引き起こします。
胆汁の産生・分泌
肝臓は1日に約600〜1,000mLの胆汁を産生し、胆嚢に蓄えたのち十二指腸に分泌します。胆汁は脂質の消化・吸収を助けるだけでなく、不要なビリルビン(赤血球の分解産物)や脂溶性の老廃物を排泄する通路でもあります。これほどの多機能を一手に担いながら、肝臓は500種類以上もの化学反応を同時進行でこなしているとも言われています。
なぜ「沈黙の臓器」と呼ばれるのか?症状が出にくいからこそ、検査が大切
「沈黙の臓器」という言葉を聞いたことがある方は多いでしょう。しかし、なぜ肝臓は症状を発しにくいのでしょうか。その理由は主に2つあります。
痛みを感じる神経がない
肝臓の実質(肝細胞が詰まった部分)には、痛みを感じる神経(侵害受容器)がほとんど存在しません。肝細胞が傷ついたり、炎症が起きたりしても、脳へ「痛い」というシグナルが届かないのです。
右の肋骨の下に張りや圧迫感を感じる場合は、肝臓が大きく腫れて周囲の被膜(グリソン鞘)を引き伸ばしているときや、胆嚢・胆管が関係している場合がほとんどです。
予備能が非常に大きい
肝臓には「機能的な予備能」が豊富にあります。多少のダメージを受けても、残った健康な肝細胞が働きを補ってしまうため、見かけ上の機能は長い間維持されます。血液検査の数値(AST・ALTなど)も、相当進行するまで大きく乱れないことがあります。
こうした特性から、慢性肝炎や脂肪肝が進行していても、自覚症状がほとんどないまま数年〜数十年が経過するケースが少なくありません。ウイルス性肝炎(B型・C型)に感染していながら、自分では気づかずに生活している方も多く存在します。
だからこそ、「症状がないから安心」という考え方は、肝臓に関しては通用しません。定期的な血液検査と腹部エコー検査を受け続けることが、肝臓の健康を守る最も確実な手段です。特に肝炎ウイルス検査(B型・C型)はまだ受けたことがない方も多く、自治体が実施する無料または低額の検診を活用することをお勧めします。
自分でよみがえる力:肝臓の再生力
傷ついても回復を目指せる臓器という希望
肝臓には、他の臓器にはほとんど見られない驚くべき能力があります。それが「再生能力」です。
外科手術によって肝臓の約70%を切除しても、残った30%から数週間〜数カ月かけて元の大きさに回復するというデータがあります。
この再生能力は、肝臓の細胞(肝細胞)が自ら分裂・増殖できるためで、人体の中でも特異的な能力のひとつです。
再生能力の限界と肝線維化
しかし、この再生能力にも限界があります。慢性的な炎症・アルコール・ウイルスなどによって肝細胞の破壊と修復が繰り返されると、修復の過程でコラーゲンなどの線維組織が蓄積し始めます。これが「肝線維化(かんせんいか)」という状態です。
線維化が広範囲に進むと、肝臓は本来の柔らかさを失って硬くなり、「肝硬変(かんこうへん)」へと進展します。肝硬変まで進行した組織は、基本的に元の柔軟な肝臓に戻すことができません。
早期発見・早期対処が大切な理由
逆に言えば、線維化が始まっていても進行していない段階、あるいは脂肪肝や軽度の肝炎の段階であれば、適切な治療と生活習慣の改善によって、肝臓を回復させられる可能性が十分にあります。
「肝臓の病気は手遅れになるまでわからない」というイメージがありますが、現代の医療では定期検査によって線維化の程度を早期に把握する手段が整っています。怖がりすぎず、しかし油断せず、「早めに知って、早めに対処する」という姿勢が肝臓を守ります。
増えている「お酒を飲まない脂肪肝」
脂肪肝というと、「お酒の飲み過ぎ」が原因というイメージがあるかもしれません。
しかし近年、飲酒習慣がほとんどないにもかかわらず脂肪肝を発症する人が世界的に増加しており、日本でも推定で成人の30〜40%が該当するとされています。
MASLD・MASHってなに?新しい脂肪肝の考え方
「NAFLD/NASH」から「MASLD/MASH」へ
以前は「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」という名称が使われていましたが、2023年に国際的な学会のコンセンサスにより、名称が変更されました。
MASLD(Metabolic dysfunction-Associated Steatotic Liver Disease)
代謝機能障害関連脂肪性肝疾患。肥満・糖尿病・脂質異常症・高血圧などの代謝異常を背景に、肝臓に脂肪が蓄積した状態を指します。
MASH(Metabolic dysfunction-Associated Steatohepatitis)
MASLDの中でも、脂肪沈着に炎症や肝細胞の傷害を伴う、より進行したタイプです。かつてのNASHに相当します。
名称の変更には、単に「アルコールを飲まないから大丈夫」という誤解を解くという意味もあります。MASLDは代謝の問題であり、やせ型の人や若い人にも発症し得ます。
※ MASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)について、以下のページで詳しく解説しています。
なぜ代謝の問題で肝臓に脂肪がたまるのか
食べ過ぎや運動不足によって余った中性脂肪が肝臓に蓄積するほか、インスリン抵抗性(インスリンの効きが悪くなる状態)によって肝臓での脂肪酸の代謝が乱れることが主な原因とされています。腸内細菌の乱れや遺伝的素因も関与していることが明らかになってきました。
MASLDのリスクがある人
以下の項目に複数当てはまる方は、飲酒習慣がなくても、一度腹部エコーと肝機能検査を受けることをお勧めします。
- BMI 25以上(肥満)の方
- 糖尿病または空腹時血糖が高い方
- 脂質異常症(中性脂肪・LDLコレステロールが高い)の方
- 高血圧の方
- 運動習慣がなく、座りがちな生活の方
肝臓の状態はここまでわかる|痛くない最新検査(採血・エコー・画像検査)の進歩
かつては「肝臓の状態を正確に知るには、組織を針で採取する生検(バイオプシー)しかない」と言われていましたが、現在では体への負担が少ない検査で肝臓の状態をかなり詳しく把握できるようになっています。
血液検査(肝機能検査)
もっとも手軽に受けられる検査です。主な指標として以下があります。
AST(GOT)・ALT(GPT)
肝細胞が傷ついたときに血液中に漏れ出す酵素。数値が上昇していれば肝細胞の炎症・破壊が示唆されます。ALTはより肝臓特異性が高く、炎症の指標として重要です。なお、AST/ALTの比率(2以上ならアルコール性肝障害を疑う)も参考になります。
γ-GTP
アルコール摂取や胆道の異常に敏感に反応する酵素。禁酒で速やかに低下しますが、胆道疾患では改善しません。
ALP(アルカリフォスファターゼ)
胆汁うっ滞や胆道疾患で上昇。γ-GTPと合わせて評価されます。
ビリルビン
肝臓・胆道の機能が低下すると上昇し、黄疸の原因になります。
アルブミン・プロトロンビン時間(PT)
肝臓の「合成能力」を反映する指標。低下していれば肝機能がかなり落ちているサインです。
血小板数:
肝硬変が進行すると脾臓が腫れて血小板が減少するため、間接的に肝線維化の進行を示すことがあります。
健康診断の数値は「基準値以内かどうか」だけでなく、前年比の推移に着目することが大切です。基準値内でも数値が右肩上がりであれば、早めの相談が勧められます。また、施設ごとに基準値が違うことも多いので、異なる施設で行った経年的なデータ比較には注意が必要です。
腹部超音波検査(エコー)
腹部にジェルを塗り、プローブを当てるだけで肝臓・胆嚢・膵臓・脾臓などを観察できる検査です。放射線被曝がなく、痛みもありません。脂肪肝・肝硬変・肝腫瘤(腫瘍やのうほう)の有無をスクリーニングするのに優れており、定期的に受けることが推奨されます。
腹部CT・MRI
エコーで異常が疑われた際や、肝腫瘍の性質の精密評価に使用されます。造影剤を用いることで、腫瘤の血流パターンを評価でき、肝細胞がんと良性腫瘍(血管腫・のうほうなど)の鑑別に有用です。
肝線維化を評価する検査の進歩
線維化の程度は以前は肝生検でしか正確に評価できませんでしたが、現在では以下の非侵襲的手段が普及しています。
FIB-4 index(フィブフォーインデックス)
年齢・AST・ALT・血小板数から計算される数値で、肝線維化の進行を簡便に推定できます。採血結果があれば計算でき、外来での活用が広まっています。
エラストグラフィ(肝硬度測定)
超音波を用いて肝臓の硬さを数値化する技術で、組織を採取せずに線維化の程度を評価できます。検査は数分で終わり、痛みもありません。
こうした検査の進歩により、「生検なしでも線維化の進行をある程度把握できる時代」になっています。肝脂肪量も同時測定できるFibroScanと呼ばれる非侵襲的な測定機器もあります。気になる方はかかりつけ医や肝臓専門医に相談してみてください。
糖尿病薬から新薬まで、肝臓を守る治療の今
かつてMASLD/MASHに対する治療は「食事療法と運動による減量」が中心でした。もちろんそれは今も基本中の基本ですが、薬物療法の領域でも大きな進展が起きています。
「やせなさい」だけじゃない時代へ
生活習慣改善は依然として最重要
体重のおおむね5〜10%程度の減量で、肝臓の脂肪量は有意に低下しやすいとされています。MASHを伴う場合は10%以上の減量が線維化の改善にもつながると報告されています。食事・運動による生活習慣の改善は、薬物療法に先行する最も基本的な治療です。
ただし、「急激な断食や極端なカロリー制限」はかえって逆効果になることがあります。飢餓状態になると体の脂肪酸が肝臓に一気に動員され、脂肪肝が悪化するリスクがあるためです。医師・管理栄養士と連携した計画的な減量が推奨されます。
糖尿病治療薬の肝臓への恩恵
近年の研究で、糖尿病治療薬の一部がMASH・肝線維化の改善に有効であることが明らかになっています。
GLP-1受容体作動薬(セマグルチドなど)
血糖コントロールと体重減少の両面から肝臓への脂肪蓄積を減らす効果が示されており、臨床試験でMASHの改善が報告されています。
SGLT-2阻害薬(エンパグリフロジン・ダパグリフロジンなど
尿から糖を排出する薬ですが、体重・内臓脂肪・肝臓の炎症指標の改善効果も報告されています。
チアゾリジン系薬(ピオグリタゾン)
インスリン抵抗性を改善し、MASHに対して組織学的改善が確認されている薬剤です。
MASHに対する初の承認薬
2024年、米国FDAがMASHに対する新薬「レスメチロム(Resmetirom)」を初めて承認しました(商品名:Rezdiffra)。甲状腺ホルモン受容体βに選択的に作用し、肝臓での脂質代謝を改善する機序で、臨床試験においてMASHの組織学的改善と線維化の改善が確認されています。日本での承認はこれからですが、MASH治療に薬物療法という選択肢が正式に加わったことは大きな前進です。
今日からできる「肝臓にやさしい生活」|食事(お酒)・運動との付き合い方

医療が進歩しても、日々の生活習慣が肝臓の健康の基盤であることに変わりはありません。
主に重要なのが
- 食事(お酒)
- 運動
の2つです。
特別なことではなく、「続けられること」から始めるのがポイントです。
食事のコツ
果糖(フルクトース)に注意する
清涼飲料水・市販のジュース・果糖ぶどう糖液糖を多く含む加工食品は、肝臓への脂肪蓄積を促進します。「甘い飲み物をお茶や水に変えるだけ」で、肝臓への負担は大きく変わります。
食物繊維と良質なタンパク質を意識する
野菜・きのこ・海藻などから食物繊維をしっかりとることで、血糖値の急上昇を抑えられます。魚・大豆製品・卵などの良質なタンパク質は肝細胞の修復にも必要です。
コーヒーは味方になり得る
多くの疫学研究で、1日2〜3杯程度のコーヒー摂取が肝がん・肝硬変のリスク低下と関連することが示されています。クロロゲン酸やカフェインが肝臓の炎症・線維化を抑制する可能性が報告されており、嗜好品として楽しむ範囲で肝臓にも恩恵がある可能性があると捉えるのが適切です。ただし砂糖・クリームの入れすぎや、胃腸が弱い方・妊娠中の方への過剰摂取には注意が必要です。
サプリメントは慎重に
「天然由来だから安全」は誤りです。高用量のビタミンA・鉄・特定のハーブ系サプリ(コンフリー・ケルプなど)は薬物性肝障害を引き起こすことがあります。ブロッコリースプラウトに含まれるスルフォラファンは脂肪肝改善効果が報告されていますが、サプリを服用する場合は種類と量を医師に伝えてください。
お酒との付き合い方
アルコールは肝臓で分解・代謝されるため、過剰な摂取は肝細胞にダメージを与えます。アルコール性脂肪肝・アルコール性肝炎・アルコール性肝硬変はいずれも深刻な疾患です。
日本の「節度ある適度な飲酒量」の目安は、純アルコールで1日あたり約20g程度とされています(ビール中瓶1本・日本酒1合・ワイングラス2杯程度に相当)。肝疾患の既往がある方、肝機能数値が高い方は、主治医の指示に従って禁酒または節酒を徹底することが重要です。
また、「最近お酒に弱くなった」「翌日まで酔いが残る」という変化は、肝臓の解毒機能が低下しているサインの可能性があります。飲酒量を見直すきっかけとしてください。
運動のコツ
有酸素運動を週150分以上
ウォーキング・自転車・水泳などの中強度の有酸素運動が、肝臓の脂肪減少に最も効果的とされており、運動療法の基本軸です。1回30分を週5日、または1回50分を週3日など、生活に組み込みやすい形を見つけましょう。
筋力トレーニングの追加
スクワット・腕立て伏せなどの筋力トレーニングを加えると、基礎代謝が上がり、脂肪肝の改善効果が高まることが報告されています。週2〜3回程度から始めると継続しやすいです。
「座りっぱなし」を減らすだけでも効果あり
デスクワークが中心の方は、1時間に1回立ち上がって数分歩くだけでも、内臓脂肪の蓄積を抑制する効果があるとされています。
こんなサインは受診のタイミング|放置してはいけない症状と、受けておきたい検査
「沈黙の臓器」とはいえ、肝臓も末期には体のあちこちにSOSを発します。
以下のサインは軽視せず、速やかに医療機関を受診してください。
緊急性の高いサイン(できるだけ早く受診を)
黄疸(おうだん)
白目や皮膚が黄色くなる状態です。ビリルビンが血液中に過剰に蓄積することで起こり、急性肝炎・閉塞性黄疸・慢性肝疾患の急性増悪などが疑われます。蛍光灯の下より自然光の下で白目を確認すると気づきやすいです。
便の灰白色化
便が白っぽい灰白色になった場合は、胆汁の分泌が止まっているサインです。閉塞性黄疸を含む胆汁うっ滞性疾患(胆石・胆道炎・膵頭部がんなど)や重篤な肝細胞障害が原因として考えられ、緊急の精査が必要です。
腹部の急激な膨満
腹水が急増すると腹部全体が急に膨れてきます。肝硬変の進行・門脈圧亢進・がん性腹膜炎などが原因として考えられます。
意識の変容・言動の異常
会話がかみ合わない、ぼんやりが続く、昼夜逆転が急に始まったなどの変化は、肝性脳症(肝臓で解毒されるはずのアンモニアなどが脳に影響する状態)の可能性があります。
羽ばたき振戦
手を水平に伸ばしたとき、手首が羽ばたくように不規則に落ちる動作が見られる場合は、肝性脳症が中等度以上に進行しているサインです。救急受診を検討してください。
吐血・黒色便
肝硬変に伴う食道静脈瘤が破裂すると大量出血を起こすことがあります。吐血、またはコールタール状の黒色便が見られた場合は直ちに救急受診が必要です。
気になる症状(できるだけ早めに内科・消化器内科へ)

- 朝から続く倦怠感・だるさが数週間以上続いている
- 食欲がわかない・食後のもたれが長く続く
- 尿の色が紅茶・ウーロン茶のような濃い茶色になっている
- 湿疹がないのに全身がかゆい(胆汁うっ滞に伴うかゆみの可能性)
- 右の肋骨の下あたりに圧迫感や違和感がある
- 足のむくみが続く(アルブミン低下による浮腫の可能性)
- 健康診断でAST・ALT・γ-GTPの数値が前年より大幅に上がっていた
受診時に伝えるべきポイント
受診をより有効にするために、以下の情報をあらかじめまとめておきましょう。
- いつ頃から・どのような症状があるか
- 飲酒習慣(頻度・量)、最終飲酒はいつか
- 服用中の薬・サプリメント・健康食品(すべて記録または持参)
- 過去に肝炎ウイルス検査を受けたことがあるか
- 家族に肝疾患の方がいるか
- 急激な体重増加、ないし体重減少はないか
健診でチェックしておきたい項目
毎年の健康診断では、以下の数値を単年ではなく複数年にわたって比較することが重要です。たとえばALTが12→28 U/Lになっていた場合、どちらも基準値内ですが数値は2倍以上に増えています。こうした「傾向の変化」を見逃さないことが早期発見のカギです。
- AST(GOT)・ALT(GPT)
- γ-GTP・ALP
- 血小板数(肝硬変進行の間接的な指標)
- FIB-4 index(計算可能な施設では確認を)
おわりに|肝臓を守ることは、未来の自分を守ること
肝臓は、私たちが意識することなく、毎日24時間休まず働き続けています。代謝し、解毒し、合成し、守る――その働きがあってこそ、私たちは健康な日常を送ることができています。
しかし、肝臓はその寡黙な性格ゆえに、ダメージを受けていても声を上げません。だからこそ、私たちの側から積極的に「肝臓の状態を知りに行く」姿勢が必要です。
早期発見できれば、回復できる可能性は高い
肝臓の病気は、早期に発見すれば回復できる可能性が高いです。脂肪肝の段階であれば、生活習慣を変えるだけで正常に戻せることがあります。検査技術も進化し、苦痛を伴う生検に頼らなくても、肝臓の状態をかなり詳しく把握できる時代になっています。
一方、放置して肝硬変・肝がんまで進めてしまうと、治療の選択肢は大きく狭まります。
今日からできること
- 年に一度の健康診断の数値を「異常なし」で終わらせず、前年との比較を習慣にしてください。
- まだ肝炎ウイルス検査を受けていない方は、この機会にぜひ受けてみてください。
- アルコール飲酒の多い人は、自分のアルコール量を見つめなおしてください。
- 「なんとなく体がだるい」という感覚を年齢や疲れのせいにする前に、一度立ち止まって生活習慣を見直してください。
肝臓を守ることは、将来の自分の健康を守ることです。
こちらの記事の監修医師

用賀きくち内科 肝臓・内視鏡クリニック菊池 真大 先生

